初期公開日:2022年12月26日更新日:2023年12月5日

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二宮町女性防災隊(二宮町)

自主防災組織取材

取材概要

 今回、二宮町からの推薦を受け、二宮町で防災に関する活動を行っている「二宮町女性防災隊(代表:磯部和美隊長)」を取材させていただきました。
 二宮町女性防災隊は二宮町に在住・在勤する女性だけで構成された、災害時における防災ボランティア団体で、女性目線を大事にしながら、日頃から防災に関する研修や訓練を積極的に実施しています。
 他の自主防災活動を行っている方にも、非常に参考になる取組みもありますので、ぜひご一読ください。

取材の相手方

二宮町女性防災隊 隊長 磯部 和美 様、他隊員の皆様

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■Q1 組織発足の経緯や、活動に参加された理由を教えてください。

 二宮町女性防災隊の結成は平成10年8月23日です。二宮町において、地域に住んでいる女性目線での防災を考える女性防災リーダーを養成して、地域の防災思想の普及啓発を推進するため、二宮町女性防災隊が設立されました。メンバーは総入れ替えがあり、設立当時の人は誰もいません。今のメンバーは計8名で、二宮町在住又は在勤の方が主に参加しています。私は前隊長からやってみないかと誘われて、入隊して10年以上経ちます。もともと心肺蘇生に興味があり、当時は二宮町の消防署で活動していたのですが、毎月の消防署員の救命訓練を教えてもらいながら、防災に関する講義も受けつつ、防災に関する活動も友人と一緒に行ってみようかと思い、入隊した形です。隊長は約8年務めています。

 2011年3月11日の東日本大震災を目の当たりにして、あまりにもショックで、自分に何ができるかと考え、災害ボランティアに参加して入隊することになった人、近所に住んでいたメンバーから誘われて、防災の知識が少なかったので、勉強にもなるのではないかと思い入隊した人、二宮町の回覧版に入っていた女性防災隊の隊員募集のチラシを見て、地元である二宮町に貢献したいと思い入隊した人など、皆さんいろいろなきっかけがあります。今参加している隊員は、おおむね10年以上参加を継続している人が多く、皆さん楽しみながら参加しています。

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■Q2 二宮町で想定される災害や危険なポイントなどがあれば教えてください。

 二宮町の梅沢海岸には海抜が低い地域があり、津波が来た際には住宅が浸水する恐れがあると想定しています。
 また、台風や大雨で吾妻山(あずまやま)の一角が崩れてしまったり、葛川(くずかわ)が氾濫しそうになったりしたことがありました。吾妻山の土砂崩れは、令和3年の静岡県熱海市の土砂災害が起きた同じ日に発生し、二宮駅前まで土砂が到達し、約2日間通行止めになりました。夜中や朝方に約30mmの大雨が約2時間続きましたので、それほどの大雨になると、被害が多くなる恐れがあります。
 富士見が丘の小高い山の一角で、木々がむき出しになっている箇所があり、大きな台風が来た場合、崩れる恐れがあり、危ないのではないかと思っています。
 令和元年東日本台風(台風19号)のときは、二宮町では、川が氾濫しそうになりましたが、川が溢れるほどの事態はなかったと思います。令和元年房総半島台風(台風15号)の際は、二宮町内で家の屋根が飛ぶ等の被害が発生し、被害者が増えた傾向があります。

■Q3 これまでの具体的な活動内容や工夫している点、過去の表彰の受賞内容や評価された内容(平成24年防災功労者防災担当大臣表彰等)を教えてください。

 二宮町女性防災隊は平成24年に防災功労者防災担当大臣表彰を受賞しました。当時のメンバーは誰もいないのですが、当時から自分たちの防災に関するスキルアップや、地域に出向いて、毛布の搬送や心肺蘇生などの防災訓練を行っていました。消防署員が全体で教えますが、二宮町女性防災隊の隊員が一人ひとりに教えていました。そのような点が評価され、受賞に至ったと聞いています。
 今は、各世代に合わせて防災を伝えることに力を入れています。今年度(令和4年度)は、二宮町内の小学校や学童で、東日本大震災を題材にした絵本の朗読を行いました。具体的には、二宮小学校の4年生の社会科の授業や、山西学童など計4箇所の学童において、東日本大震災を題材にした絵本の読み聞かせを約30分~40分程度行いました。子どもたちにとって、東日本大震災は自分たちが生まれる前の話なので、とても興味を持って熱心に聞いてくれました。東日本大震災の際、二宮町は震度5強の揺れを観測しましたが、今の小学生は震度5以上の揺れを経験したことがなく、地震自体を知らないので、テレビのモニターを使って、地震に関するビデオの映像も流しながらお話をしました。

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 東日本大震災を題材にした絵本は「ひとりじゃない」(武山ひかる 作・絵)というもので、武山ひかるさんご自身が被災した際の経験をもとに作られた、実際にあったことを描いた絵本です。4年前に武山ひかるさんが二宮町で講演していただいたことがきっかけで知り合いとなり、絵本1冊を購入させていただいたのですが、絵本が飛ぶように売れてしまったそうです。今はネットで電子版しか購入できないそうです。絵本は武山ひかるさんが小学校4年生のときに経験した内容なので、同じ小学校4年生に聞かせたらどうかと思い、朗読の時間を作っていただきました。絵本の朗読の際は、単に絵本を読んでいるだけだと伝わりにくいので、武山ひかるさんに許可をとって、絵本の画像をパワーポイントで映しながらお話をしました。

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「ひとりじゃない」(武山ひかる 作・絵)

 聞いてくれた子どもたちの中には、感受性が強くて泣いてしまう子もいました。いきなり絵本を読んでも、イメージがわかないと思い、絵本の朗読の前に、津波の恐ろしさを知ってもらうために、津波のビデオの映像を流しましたので、子どもたちの印象にすごく残っていると思います。14時46分に地震が発生するときの映像を流しながら、たまたま二宮町女性防災隊の隊員の親戚が東北に住んでいましたので、その際の体験も併せてお話をしました。「普通なら教室の椅子に座っていられるが、14時46分には普通に座っていられず、うつ伏せになるしかできなかった」、「地震の際の集合場所を決めておこうとか、ぜひ家族にも話をしてね」と子どもたちに伝えて、自分たちの家族にも伝えてもらうようにしています。子どもたちには、「地震が来たら逃げなきゃ」というスイッチ役になってもらいたいと思っています。

 東日本大震災から生まれた絵本はたくさんありますが、年齢にあった絵本を探すのはとても難しく、あまり幼稚な内容だと高学年の子どもは聞いてくれない場合があります。「ひとりじゃない」という絵本はちょうどよい内容だと思います。小学校や学童への読み聞かせは、今年度からの初めての取組みなのですが、毎年やれたらいいなと思っています。
 それ以外の活動として、各地区の防災訓練に参加しています。毛布と竹竿を使った簡易担架作成訓練の指導をさせていただいています。簡易担架の作り方はいろいろあるのですが、竹竿がない場合や人数が一人しかいない場合など、いろいろなケースで訓練を行っています。竹竿があるが毛布がない場合は、服を竹竿に引っ掛けて担架を作るのですが、実際に自分の服を脱いで、実際の搬送に活用できるかというところまで行います。時間があれば、椅子に座った状態で固定して搬送するという椅子を使った搬送もご案内しています。
 二宮町は計20地区あり、年1回、町全体で総合の防災訓練を実施しているのですが、各地区でも年1回以上は防災訓練を行うようにしています。

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■Q4  自主防災に係る活動を行うにあたって、どのような課題がありますか。

 中学生や高校生が地区防災訓練にあまり参加できていないのが課題です。中高生は部活や塾などで忙しいので、うまく参加してもらうための策がないか、考えています。男子中高生は一番力のある年代なので、訓練に参加してもらえれば、力仕事などを中心に手伝ってもらったり、助けてもらったりすることができると思います。中高生にも訓練に参加していただきたいのですが、訓練の参加者はどうしても年配の方が多いのが現状です。
 あと、町内会に未入会の方が増えているのも課題です。町内会未入会の方の多くは、防災訓練に参加できていないのですが、いざ大地震が発生した際は、町内会未入会の方も避難所等には来ると思いますので、そういった方々の防災意識をどのように高めるのかが難しいです。

  独居の方も今増えてきており、独居の方の防災意識をどのように高めたらよいかも併せて考えています。昔の食器棚は観音開きのタイプが多いと思いますが、そういった食器棚の扉に、荷物を梱包したひもにかけて運ぶ際に持ち手になるグッズである手提げホルダーに輪ゴムを括り付けたものを取り付けて、大地震が発生した際に扉が勝手に開いてしまうのを防ぐことができます。こういった道具を民生委員の方にお渡しして、独居の方にも紹介してほしいと依頼させていただいています。この道具は簡単に作れると提案していたのですが、手提げホルダ―をわざわざ用意する人は少ないのではないかと思い、二宮町女性防災隊が手作りでこの道具を作り、地区防災訓練への参加者に配布したところ、意外と好評でした。町内会未入会の方はこういった道具があることを知らないので、地区防災訓練に参加することで知っていただき、町内会加入につなげられたらと思います。

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■Q5 貴団体などの自主防災に係る活動に参加してみたいと考えている一般の方向けに、何かアドバイス等があれば教えてください。

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蓄光テープ

 二宮町女性防災隊の業務は決して力仕事ではなく、女性目線で防災を考えていく取組みで、家庭の中で減災ができるように日頃から活動しています。二宮町女性防災隊が消防署員のように力仕事をしているのではないかと誤解されることがありますが、あくまでも女性目線での防災、家庭でできる防災を大事にしています。被災した際に、女性でなければ気がつかないことを伝えていきたいと思っています。Q4でお伝えした手提げホルダーを活用したアイディアは、どうしたら食器棚の扉が勝手に開かなくて済むだろうか、と些細なところから女性目線で生まれたものだと思います。また、夜中に地震が発生して逃げるときはどうしたらいいだろうか、ということで、電気がなくても自動で光る蓄光テープをあらかじめ貼ることを提案しています。蓄光テープは、ホームセンターの防災コーナーなどで売っているグッズがしっかり光るので良いと思います。階段の段差やテーブルの角、ヘルメットなどに蓄光テープを貼っておくと、とても便利です。あと、紙皿がないときに新聞の折り込みチラシを使ってお皿を作る、避難の際に手鏡やブラシを備えておく、などの視点も、女性ならではの目線だと思います。
 段ボールで作れる簡易トイレもあります。大きい段ボールと小さい段ボールを重ねて、その間に段ボールを縦に入れて作れます。体重100キロの人でも使えます。自宅のトイレが使えなくなった場合に、段ボールで作ったトイレにビニール袋を入れて、その中に新聞紙などをちぎったものを入れると、水分を吸収してくれるので、トイレとして使うことができます。若いお父さんやお母さん、お子さんにも知っておいていただきたいです。
 今年初めての取組みになりますが、二宮町女性防災隊の活動を紹介する防災カフェを開催し、若いお父さん、お母さん、お子さんにも参加していただきました。大人用の紙パンツを使って和式トイレのように使い、水分を吸収して溜めることができることを実験しました。参加してくださったご家族に水を流してもらい、紙パンツの中にある吸収ポリマーが膨らみ、吸水することができました。いざというときのために、紙パンツは捨てずにとっておくとよいと思います。

■Q6 自主防災組織を活性化するためには、どのようなことが必要だとお考えですか。県や市町村に期待することもあれば教えてください。

 地区防災訓練はその地区にいる方全員が参加する必要があると思いますが、そのためには参加するメリットがあると良いのではないかと思っています。若い人向けにも何かポイントがもらえるとか、特典があると参加していただけるかなと思います。高校生がボランティアの取組みを内申書に書きたいのに、新型コロナウイルス感染症によりボランティアができておらず書くことができなくて困っているという話を聞いたことがあったので、地区防災訓練に参加した内容を内申書に書けるとか、地区防災訓練に参加したら表彰してもらえるとか、何か工夫があると参加者も増え、自主防災組織の活性化にもつながるのではないかと思います。

■Q7 今後の活動や意気込みを教えてください。

 世代別の防災を伝えていきたいと思っています。今までは防災袋に入れて備えておくべきものを一覧表にして全員に周知していたのですが、それだけでは伝わりづらいと思っています。例えば、高齢の方であれば、寝る際に、水の入った水筒、懐中電灯、眼鏡、厚底靴の4点を最低限、枕元に置くように伝えるなど、ちょっとした小さなことでできそうなことを中心に伝えていきたいですし、保育園や若いお母さんの集まりの場でも、その世代に合った防災の話をしていきたいと思っています。子どもの防災力をもっと伸ばしたいという思いもありますので、今後も楽しみながら活動を続けたいと思います。

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取材を終えて

  新型コロナウイルス感染症により活動を広げることがなかなか難しい中、二宮町女性防災隊が今年度から新たに取り組み始めた内容を伺うことができ、非常に充実した取材を行うことができました。小学校や学童における絵本の朗読の取組みについては、隊長の磯部様のご提案により行っているものとのことで、隊長の磯部様を中心に、隊員の皆様がとても積極的に活動されている印象を受けました。二宮町女性防災隊が防災について伝えたことを実践してくれている人がいて、とても嬉しいとおっしゃっていました。そういったやりがいも励みにしながら、楽しく活動を継続されている隊員の方が多いのではないかと感じました。
 今後も女性ならではの目線で自主防災活動に取り組んでいただければ幸いです。二宮町女性防災隊の皆様、取材にご協力いただき、ありがとうございました。

参考URL

二宮町女性防災隊(二宮町ホームページ)

以上

このページの所管所属はくらし安全防災局 防災部危機管理防災課です。