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更新日:2025年3月3日
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令和6年度第2回インクルーシブ教育推進フォーラムを開催しました
PDFの内容は、このウェブページにある以下の内容と同じものです。
日時 令和6年11月23日 土曜日 9時00分から12時30分まで
会場 神奈川県立地球市民かながわプラザ(あーすぷらざ) プラザホール (横浜市栄区小菅ケ谷1-2-1)
内容 1.開会挨拶、2.趣旨説明、3.公開参加型ディスカッション(前半)、公開参加型ディスカッション(後半)、4.閉会挨拶
神奈川県ではともに学びともに育つことを基本的な理念として、インクルーシブ教育を推進しています。幼少期から様々な子どもたちが当たり前にともに育つ環境づくりについて、実際に取り組んでいる市町村と協働しながら、取組を進めています。これまでに県民の方と様々な対話をする中で、地域の人々とともに学校をつくっていくことが重要なのではないか、というご指摘をいただきました。
前回のフォーラムでは、学級づくりに視点を当て、学校の中でどういう環境をつくることが、すべての子どもたちがともに学ぶ場につながっていくのかについて、実践や会場との対話の中から、様々なお話をいただきました。その中で、様々な子どもたちがいることが当たり前で、多様な学びを実現していくことは学校にとって重要な視点であり、それがなくては共生社会の実現は難しいだろうということに、あらためて気づいたところです。
今回のフォーラムでは、会場のみなさまや3人の登壇者の方々との対話を通して、地域の方々とともに学校をつくっていくとはどういうことなのかを考えていくことで、新たな課題や発見につながる会にしていきたいと思います。
本県では地域のすべての子どもが、地域の学校に通い、ともに学べる環境の実現をめざして、インクルーシブ教育を推進しています。そもそも社会は、多様な人がともに暮らしていることを前提に、互いの関係性の中で成り立っています。だからこそ、学校教育の場でも、ともに学びともに生きるということは、必然性があると思います。
インクルーシブ教育を推進する上で、大切にしたいことを2つお話します。
まずは、多様性、包摂性を前提に考えていくということです。多様性とは、自分自身を含め、多様な人が存在しているという状態をさします。そもそも、子どもは多様であるということを意識しながら、学級や学校づくりを考えていくことが大切だと考えています。次に包摂性とは、すべての子どもが参加できるという視点で考えるということです。子ども全員が大切な、そして、対等な参加者です。今ある枠組に、全員を適応させるという考え方ではなく、目の前の子どもたちの状況に合わせて、すべての子どもが参加できるように、学校教育の構造を新たにデザインするという視点が大切だと考えています。そのような、多様性と包摂性を前提に、学校教育を見つめなおしてみるということが、だれもがともに学べる学校づくりの大切な一歩なのではないでしょうか。
2つめは、対話を通して知恵を出し合うということです。みんなで対話していくことで、すべての子どもにとって、学びやすい学校がつくられていきます。この「みんな」という言葉の中には、先生方だけではなく、子どもも地域の方も含まれます。だからこそ、地域の子どもの通う学校のことを、地域のみんなで話し合うことが、大切だと考えています。
本県では、これまでもインクルーシブな学校づくりを推進する取組を重ねてまいりました。そのうえで、さらなる推進に向けて、令和6年3月に協定を結ぶ形で、海老名市を「フルインクルーシブ教育推進市町村」に指定し、県、市が連携しながら、すべての子どもたちが、地域の小学校、中学校に通い、同じ場でともに学びともに育つことができる環境を実現することを目的として、新たな取組をスタートさせたところです。この取組においても、市民や教職員との対話を大切にし、今後に向けた対応を丁寧に進めています。
本フォーラムではインクルーシブ教育の推進に向けて、多様性、包摂性を前提に、対話を通して知恵を出し合い、自分がどう動くかを一人ひとりが考えていくことを大切にしたいと考えています。そこで、本年度のフォーラムはテーマを「だれもがともに学べる学校を考えよう~みんなでつくるインクルーシブな学校~」と設定し、会場のみなさまが参加できる会場参加型のパネルディスカッションを行うことにしました。
8月に開催した第1回フォーラムでは、パネルディスカッションのテーマを「だれにとっても学びやすいこれからの通常の学級を考える」とし、どの学校においても、子どもたちがともに学ぶ場として存在する、いわゆる通常の学級に焦点を当て、参加者の皆さまと議論を重ねました。その中では、「一人で考えるとどうしても考えが偏ってしまう、だからこそみんなで議論していくことが大切」、「学校だけで進めることではなく、地域のみんなで学校について考えることが大切」などの意見がありました。
そこで、本日のパネルディスカッションのテーマを「地域のみんなでつくるインクルーシブな学校」と設定しました。子どもたちは、地域の中で暮らし、様々なことを学んでいます。本日は登壇者のみなさま、参加者のみなさまとともに、地域のみんなでつくる意義とは何か、みんなでつくるための具体的なアイデア、それにはどのような課題があるのか、今後に向けての議論ができればと思っています。
程島:このパネルディスカッションの司会を務める程島です。まずは、ご登壇いただいているみなさまから、自己紹介をいただきます。
竹原:私は、平成17年に日本がコミュニティ・スクールをスタートした時から、神奈川県第1号の学校運営協議会に関わり、小学校、中学校、そして今は高校と特別支援学校なども学校運営協議会のメンバーとして、学校と地域を結ぶ、そして、社会総がかりで子どもを育てるということを学ばせていただいています。
内田:私は、この4月から逗子市立池子小学校の校長になりました。昨年度までは、県教育委員会生涯学習課で、主に社会教育の推進に関わっていました。社会教育に関わる中で、色々な地域で行われている、学校を核とした地域づくりや地域の方々が学校の運営に関わっている取組、地域の方々に学校の授業で一役買っていただく取組を多く見てきました。そんな取組を見ていく中で、自分もやってみたいと思い、現在、校長として学校づくりをしています。学校を元気に、そして、地域も元気に、そんな学校経営をしていきたいと思っています。
津田:私は開成町立開成小学校の校長を務めています。地域のみんなでつくるインクルーシブな学校ということで、自分自身も今後の学校経営に生かしていきたいと思っています。開成町についても、後ほどご紹介させてください。
二宮:私はもともと平塚市の小学校の教員をしていました。教員時代に、子どもたちと地域の関わりについて考えてきたことや、自分が住んでいる地域の体育振興会で、地域の行事に関わり考えたこともふまえ、今日は登壇者のみなさまと、意見を交わしていきたいと思っています。
程島:今回のテーマは「地域のみんなでつくるインクルーシブな学校」です。まず一つ目の問いは、インクルーシブな学校を地域のみんなでつくる意義は何か、そこにどんな価値があるのかについて議論を深めていきたいと思います。まずは、インクルーシブな学校づくりに普段から熱心にお取り組みいただいているお二人の校長先生に、その学校づくりについて、どんなことを大切にしているかお話いただきます。
内田:子どもたちは、大半の時間を地域の中で過ごします。学校でともに学びともに育った子どもたちが、大人になったときには、社会がインクルーシブな社会になっていてほしいと思います。そのために学校は、どんどん地域に開かれていかなければいけないと思います。学校が今やっていることを地域のみなさまにも知っていただく必要があると思います。学校の運営、学校の行事に参画いただいて、一緒に子どもたちの育ちを見守っていただきたいと思っています。
本校はコミュニティ・スクールではないのですが、この夏に、地域の人や、保護者、教職員等が、同じ場で一つのテーマについて意見を交わし合う熟議を初めて行いました。同じ方向を向いて子どもたちの育ちを見守っていくことが大事だと思ったからです。池子小の子どもたちはどういう子どもたちなのか、この子どもたちをどう育てていったらいいのかを、色々な立場の人たちで話し合いました。
色々な意見が出ましたが、学校の先生にとっては、自分たちが普段授業している子どもたちを、地域、保護者の人たちがどのように見ているのか、子どもたちのことをどのように育てていきたいのかを聞く機会になりました。一方で、地域、保護者の人たちにとっては、学校の今の取組を知るきっかけとなりました。それが、次の時代を担う子どもたちを育成するということを考えるきっかけにもなったのかなと思います。
津田:開成小学校は昨年度150周年を迎え、地域の中で大事にされてきている学校です。本校の今年度の学校のグランドデザインの中には、自律と共生という言葉があります。自律とは、自ら考え、自ら判断し、そして行動する力をつけたいということ。共生というのは、これまでの話の中にも出てきた、共生社会ということです。
開成小学校に校長として異動してきた昨年度の4・5月に、毎朝、何人もの子どもたちが泣いていて、送迎する車から降りられない、昇降口から教室に入れない、といった光景があり、子どもたちにとって、こんなに学校は苦しいところなのかと、なんとかこの現状を変えていかねばならないと、そういう思いを持ちました。
私には、どの子どもたちも楽しく学校に来てほしい、楽しく過ごしてほしい、という願いがあります。現実を目の当たりにして、町の教育委員会やコミュニティ・スクールに相談をしながら、年度途中に、「ほっとルーム」という校内教育支援センターの機能がある教室を開設しました。
開設されてからほぼ1年が経ちましたが、泣いていた子どもたちが、毎日笑顔で登校しています。やはり、その子のニーズに合った学びの場を提供できることが大事なのだと思っています。その学びの場が、安心安全な場、自己決定ができる場、学習保障の場であることをみんなで共有して取り組んでいます。ほっとルームは、それぞれの子どもたちが自分の学びを見つけて生活できる場だと思います。
開成小学校では、ほっとルームの他に、校内に特別支援学級、通級のことばの教室、相談ルーム、地域にあじさいルームがあり、これらを「みんなの教室」と呼んで整理をしています。通常の学級を大事にしながらも、自分のニーズに応じて、学びの場を広げていくという考え方ができるような「みんなの教室」を、子どもたちにも理解してもらいながら、学校がより楽しくなるよう取り組んでいます。
また開成小学校は、学校の中に多くのボランティアがいらっしゃる、とても恵まれている学校です。自分たちも地域に出て、アウトプットしていくような体験活動も大事にして取り組んでいるところです。
竹原:二人からコミュニティ・スクールの話がありました。コミュニティ・スクールでは内田さんがおっしゃったように、みんなで熟議することが大事です。今まで学校と地域では色々な会議があったと思いますが、それは、学校からの一方通行の説明に対する質疑応答で終わってしまうものが多かったと思います。
コミュニティ・スクールでは、多彩な人が自分事として会議に参加することがとても大事で、みんなで考えて、みんなで行動して、みんなで責任も持つということが、インクルーシブの基本ではないかなと思ってお聞きしていました。
池子小学校での熟議については、学校の中で子どもたちのことを考えながら、みんなで一体となって考えるきっかけとなったと思います。
私が関わっているあおば支援学校は、創立5年目ですが、コミュニティ・スクールとして熟議を大事に取り組んでいます。夏休みに、全教職員が参加する研修を学校運営協議会と保護者の研修にも位置付けて、総勢150人くらいで、3つのテーマに沿って色々な話をしました。
先生方も保護者も、自分でテーマを選んで入っていただき、そこで発言することで当事者意識が高まります。また、発言して終わりではなく、現状と課題を整理した上で、今できること、来年度やりたいこと、将来の夢を語り、やりっぱなしにせず次の学校運営に取り入れるサイクルをつくるようにしています。そうすることによって、みんなで学校をつくるという基盤ができます。
開成小学校のほっとルームは、皆さんの話し合いから出たのではないかと思います。子どもにとって安心安全で、自分で選んで、そこで過ごすということは、とても素晴らしい話だと思っています。
小学校になると一斉授業が始まることで、自分で選ぶということがなかなかできなくなることが課題であると中央教育審議会でも言われています。自分で選んで自分で動いていく、その延長に地域の人との出会いがあって、地域で自分が何かできたとか、出会ったとか、その自信をもって、次にステップが進むのではないかなと思いました。
二宮:津田さんの「みんなの教室」について、今の通常の学級そのものが、すべての子どもたちにとって居心地のよい場になるために、私たちに何ができるかというところも考えなくてはならないと思います。
竹原:今、二宮さんがお話されたことを実現するために、学校建築についても見直しが図られています。私たちが育った時から教室の風景は変わっていません。黒板があって、子どもが先生に向かって座るということだけじゃなく、今は様々なレイアウトを工夫されています。さらに廊下をホールやコモンスペースとし、居心地の良い空間もあります。
津田:本校では大規模改修はできないので、今ある施設、今いる人で、どうしていくかを考えています。実施したことの一つに、教室配置の変更があります。コロナのために、校内で子どもたち同士が交流できる場面が少なかったので、今年度、1年生と6年生と特別支援学級が一つの棟で暮らせるように配置を変えました。この効果は、今後検証していく必要があると思っています。
コロナ禍を経てPTAの活動についてもできる人ができることをやろうという発想に転換し、今年度、通常の掃除の時間に保護者に来てもらって、子どもたちと一緒に掃除をしました。学校運営協議会で、委員の方にもその様子を見ていただきました。一緒に掃除をすることで、子ども同士の自然な関わりを保護者の方にも見てもらって、「うちの子はこんな関わりをしているんだ」ということを感じていただくことができたのではないかと思っています。
程島:「地域のみんなでつくる意義は何か」に対して、会場からも続々とコメントがきています。
「地域のみんなでつくるというのは、『意義ではなく必須』である」とのご指摘や、「地域のたくさんの方が関わることで、インクルーシブな学校となっていき、それがインクルーシブな社会につながっていくのではないか」、「その意義はすべての人が幸せに生きるためだ」というご意見、さらに「地域とともに歩んでいくためには、校長先生として、その学校としてどういうことが具体的にできるのか」というご質問もありました。
まずは、地域のみんなでつくる意義について、ディスカッションしていきたいと思います。
竹原:子どもの成長を、時間軸と空間軸で考えています。時間軸では、小学校・中学校・高校と、子どもはこれから長い時間を過ごします。そして、空間軸では学校・家庭・地域・もっと広い社会が待っています。この軸をつないでいくのは、すべての大人だと思っています。学校の先生や保護者は子どもの成長の大きな部分で関わりますが、すべてに関わることはできません。毎日見守り活動をしてくださる地域の人も福祉関係者も、社会総がかりで子どもに関わっています。
子どもとの関わり方は様々ですし、それぞれが持っている役目や強みは違いますが、地域と学校、保護者が一体に様々な取組が進んでいくのではないかと思っています。
程島:会場のご意見の中にも、「子どもと地域がつながっていくことで、地域の方々も、子どもを他人の子どもではなく、地域の子どもとして身近に感じられるようになる、という意義を感じる」というものもありました。
内田:「校長としてどこまでできるのか」というご質問がありましたが、私としては逆に、校長は何もかもする必要はないかなと思います。学校の中にも不登校やいじめなど様々な課題がありますが、教職員の多忙化もある中で、何でもかんでも学校でやるというのは、もう限界にきています。地域や保護者の力を借りながら、それぞれの立場でできることをやっていくことが、学校運営では必要になってきています。そのための仕掛けづくりを校長がやり、地域、保護者も含めてみんなで実行していくことが、理想的な学校運営の仕方なのかなと思っています。
そのためには、地域の方々から地域の子どもとして、当事者意識をもって見てもらえるようにしていくことが大事です。色々な人たちから見守られていると子どもたちが実感できていることが、人を思いやることや、色々な人を認め合う力につながり、学校以外のところでも子どもたちが学ぶことになると思っています。
津田:私も同じ考えを持っています。校長は異動し変わっていきます。学校に根付いた仕組みを、校長が変わっても引き継いでくれるのは、コミュニティ・スクールなのではないかなと思っています。
今年度、子どもが地域に出向く授業をカリキュラムに位置付けて、地域の資源を活用していくことに取り組んでいますが、子どもを通して学校について知ってもらうことが、学校としてできることの一つかなと思っています。
程島:子どもの視点で見ると、地域のみんなでつくるということには、どんな意義があるとお考えでしょうか。
竹原:子どもにとって地域の自然や産業や団体の方に会い学ぶことが、とても大事なことだと思います。地域の宝を活かしてこそ実現できる学びがあります。学校に地域の方が入ってきてくださることで、多様な学びがあります。教科書の学びも大切ですが、本物と出会えるのが地域だと思います。地域に出かけて学ぶこともあります。田んぼの学習では、教科書を読んだり、ビデオを見たりするよりも、実際に行った方が、生きた学びになります。地域に深く関わることで、地域を愛するようになるともいわれています。
中学校ブロック(小学校3校・中学校1校)で、学校と地域との活動について、教科を縦軸、学年を横軸にし、可視化してみると気づくことがあります。小・中学校で地域と関わる授業内容を共有していないため、同じことを2回やっていたなど、色々な発見がありました。カリキュラムをみながら、見直していくことがこれからは必要ではないかと思います。
多忙で地域との活動をやっている時間がないという先生もいますが、地域と一緒に学びをつくる意義を考え、子どもにとって深い学びができるよう、カリキュラム表を物差しに現状把握し、変更したりスクラップしたりすることを考えるとよいと思います。
津田:竹原さんに教科の中の学びが深まるというお話をしていただきました。地域と学校とのつながりを改めて整理すると、自分も気がつかなかったところで、たくさんの地域の方、保護者の方に支えられているということを、可視化できることが素晴らしいことだと思ったので、私もぜひ取り入れていきたいと思いました。
さらに、子どもたちが地域に出ることで、子どもたちに対するまなざしがとても温かくなります。地域の方からありがとうと言葉をもらうこともあり、子どもたちは、教科での学びに加え、喜んでもらえてよかったという自己肯定感が高まっていきます。そういう意味で、自分はこの地域に生きていてよかったとか、何か困ったときにはここに戻ればいいとか、そんな心の土台づくりができ、地域での学びは、大きな学びがあるという気がします。
程島:ありがとうございます。地域の学校があることで地域が元気になる。子どもは地域で生きることで、生きる力を身につける、教科書だけではない生きた学びを提供できる、というふうに、地域のみんなでつくるという意義は、子どもの学びというものをある意味捉え直す、一つの大事な要素になっているのかなと思います。
会場の皆さんもから、お声をいただきたいと思います。
会場:地域の学校で育ってきた中で思うのは、小さいころから、子どもたち同士でつながっていたというのが、すごく大切だったのだと思います。そのためにも地域の方とともに考えていく必要があると思います。そして地域としての発信をどんどん積み重ねていってもらいたいと思います。
会場:障がいのあるお子さんも、通常の学級に通うことが当たり前だということを子どもたちが感じることが大事です。お互いが助け合うことが当たり前にできるような子どもたちが増えると、すべての子どもたちが生きることが楽になると思います。
竹原:子どもたち同士、小さいころから当たり前に一緒にいる環境が大事だという意見がありました。障がいがあるお子さんだけではなく、みんなで育つ環境が、とても大事だということを改めて感じました。
内田:本校が行っている校内研究が、今のお話に関連してくるかなと思います。本校は、「共に作ろう、夢あふれる未来―この子にとって意味ある授業づくりを通して―」というテーマで、校内研究を行ってきました。これは、子どもたちの学びに焦点をあて身に付けさせたい力に対して、子どもたちが自分たちで学び方を選択していく。その学びを教員がどうサポートしていくかという研究です。そこで必要になってくるのが、子どもの実態把握です。「子ども理解ウィーク」を設定し、色々な目で子どもたちにとっての学びをみて、どのような取組が必要かを考えていきました。個々の伸ばしたい力や身に付けさせたい力について、共通理解をはかり、授業の中で取り組んでいきました。その中に、インクルーシブな視点や、主体的、対話的で深い学びの視点などを組み込んでいきます。色々な意見に触れる、あるいは、自分の考えを相手に伝えるという場の設定をすることで、授業を組み立てています。こういった取組をすることで、子どもたちが色々な意見を認め合ったり、聞き合ったりするようになってきました。
程島:ここまでは、インクルーシブな学校について、何を大切にされているのかから始め、地域のみんなでつくっていく意義について語りました。この後、その意義について具体的なことをどう進めていくのか、ディスカッションできればと思います。
津田:時に子どもは、「先生は同じことをしてくれない」と言うことがあります。子どもがそう発言するということは、もしかすると、教師の真意や意図が子どもに届いていないのかもしれません。
その子の学びにとって必要な支援をしているという姿から、公平とは何かを理解してもらいたいと思い、昨年度は朝会で「その子のニーズに応じて先生たちは関わり方が違う」ということを話しました。学校だよりにも掲載したところ、地域の自治会長の方から、自治会の会議で学校だよりの内容を紹介してくださったと聞きました。自分が意図しないところで話題にしていただいたことに感動するとともに、日々の取組を発信する小さな積み重ねが大事だと改めて思いました。
二宮:私は、地域の体育振興会の行事づくりに関わっています。行事案内を地域の学校を通じて、子どもたちに伝えているのですが、考え直してみると、本当に地域のすべての子どもたちに案内ができていたのか、すべての子どもが参加できる地域行事を考えていたのか、と反省することがあります。少なくとも、すべての子どもが地域行事に参加したいと思えば、参加できる環境を実現していく必要があり、そのためには、地域にいる子どもの声を聴きながら、そこに関わっている人でつくっていきたいと考えています。それが、地域のみんなでつくる意義なのではないかと思います。
もう1点は、子ども同士の関係性を大切にするということです。本来、子どもたちは色々なアイデアを出して、関係をつくっていく力があるけれど、それを発揮できない環境を大人がつくってしまっているのではないでしょうか。そういった子どもの「学び」を見直していくためには、地域のみなさんとともに議論していく必要があるのではないかと思いました。
程島:会場のご意見の中にも、「これまでの『学び』というものを捉え直していくことが大事なのではないか」、「一律、一斉の授業の学校の能力主義への在り方への疑問」、「地域と接することで、子どもたちは多様な価値観を知る機会になる」等がありました。
また、「まだまだ地域がインクルーシブになっていないのではないか」、「地域のみんなでつくるのには、学校の先生という立場からすると、とても負担感がある」というご意見もいただいております。
竹原:教職員の方々にとっては負担になるという話はよく聞きます。地域ならではの出会いや学びがあることを生かすためには、ビルドでなくスクラップすることが大切だと思っています。今、この学校は何を大事にして地域の子どもを育てるか、ということをみんなで考えて、カリキュラムマネジメントをしなければいけないと思います。
例えば、地域行事は10月、11月が多く、先生方が出ずっぱりになると聞きますが、先生も休養を取り、家庭生活を大事にしなければなりません。ですから、行事の主体を明確にすることも大切です。先生方が、地域とともにある学校でよかったという実感が持てるように、工夫をしていくことが必要だと思います。
内田:先生方には、授業に積極的に地域の方を呼んだり、地域の資源を活用したりして地域と一緒に学校を創っていきましょうと話をしました。子どもたちが地域に出ていって、自分の目で実際に見て関わったり、体験したりすることで、子どもたちの学びが深まっていくと思います。
しかしながら、地域の人たちからしてみると、学校のお手伝いばかりで、学校は自分たちに何をしてくれるのかと思っていることもあるのではないかと思います。確かに、休日に地域のお祭りに教職員が行くことは負担になるとも思うのですが、そうすることで学校と地域の方との関係が良くなって、それが子どもたちの学びの深まりにもつながっていくのではないかとも思っています。
本日(11月23日)保護者中心で成り立つ組織が、本校で「池子やま文化祭」という催しを実施しています。私もこのあと駆けつける予定ですが、そのようなことが地域とのつながりを深め、授業に生かされるきっかけになり、子どもたちの学びに結びついていくと思います。
津田:学校の職員は地域の一部であると思ったことをお話します。開成町では、地域、先生、子ども、保護者も共通語として、「すてきさん」という言葉があります。
校長、園長の中でも、毎年、学校のグランドデザインの中に、「すてきさん」という言葉を入れており、保護者間でも、子どもの色々な行動を見ていいなと思ったことを「すてきさん」という言葉で表現をしています。地域の方も同様です。地域で共通の価値付ける言葉として広まっていることは、地域全体のインクルーシブということにもつながっていくと思います。
二宮:共通の言葉というのはいいですね。
地域行事に参加している先生はいい先生というような、何かと比べる評価になってしまう世の中ではなくて、お互いに尊重していけるインクルーシブな関係性のある地域になっていくことに価値があるのではないかと思いました。
程島:「地域のみんなでつくるということは、地域の方が学校に出向いたり、学校の方が地域に出向いたりすることだけだろうか」というご意見もあります。地域のみんなでつくるというのは、なにも学校だけで行うことではないというメッセージだと思ったのですが、いかがですか。
竹原:私は、横浜市青葉区で青少年の地域活動拠点を運営しています。青少年が中心ですが、赤ちゃんからお年寄りまでがその場所を利用しています。様々な人が出入りし、お喋りする空間が心地良く、それが当たり前の光景になりつつあると感じます。
内田:人と人がつながるときに、例えば地域の方とともに作業する機会があると、作業を通してコミュニケーションが取れるので、そういった場や活動の提供を、学校の行事、授業などを介してつくっていくことが大切だと思っています。
「夢見るツリーハウスプロジェクト」を本校では行っています。これは、子どもたちが池子小学校をよりよくするために何ができるかを考えたときに、「遊具がもっと欲しい」という意見が出てきたことがきっかけです。その遊具をどのように作っていくかを、子どもたちが絵にしたり言葉にしたりしました。
様々な意見が出てきた中で、それをゲストティーチャーで来てくれていた大学の学生がデザインをしてくれました。そのデザインを基にツリーハウスを作る取組を始めました。
一番の課題は資金面でした。私はクラウドファンディングをやってみたらどうかと思ったのです。保護者の方に話すと、ITが得意な保護者の方がホームページを作ってくれ、クラウドファンディングを行うことになりました。
子どもたちは資金を集めるのに、大人だけに任せず自分たちで考えました。自分たちで何ができるかと考え、チラシを作って地域のお店に貼るという意見や、戸別にポスティングしていこうという意見が出てきて、実際に取り組みました。
このプロジェクトをきっかけに、地域の雑誌・新聞・FM局等の取材を子どもたちが積極的に受けるなど、学校ではできない経験を地域の中で行うことができました。子どもたちが学校のことを考えて、自分たちの言葉でプロジェクトへの思いを語り、行動してくことで、地域の方と協働することに価値があると思います。子ども、学校だけではこういうプロジェクトは成功しなかったと思います。私はこのツリーハウスが学校と地域をつなぐ一つのシンボルのような場所になればいいと思います。
程島:会場からは「立場に関係なく話ができる機会があれば、意見を聞きやすいのではないか」、「学校に入っていきたいが、少し敷居が高いイメージがあり、どう入っていくかを示していくことも必要ではないか」というコメントをいただいています。地域のみんなでつくるための具体的なアイデアという視点で会場の皆さんから発言をお願いします。
会場:私は、中学校教員をしています。ツリーハウスの話がありましたが、地域の方との交流が生まれ、そこに参加していた子どもたちにとっても大切な学びになっていて、すばらしいと感じました。
また、中学校で働いている者からすると、結局最後は高校受験があることで、枠にはまっていくように感じます。インクルーシブをめざしているはずなのに、受験のある中学校3年生になるにつれて、どんどん枠を強化してしまっている気がして、もどかしく感じています。
会場:一部の人が頑張る取組は、その方にしわ寄せが行き、長続きしないと思います。先生方は今でも頑張っていると思います。先生方の仕事はそんなにやらなければならないのでしょうか。
津田:最後は受験が壁になってしまうということを私自身も考えていますが、子どもが自分を好意的に捉えられる力をつけることが小学校の役目ではないかと思っています。自分はここにいていい存在だと思える土台があることで、壁に当たったときに乗り越えられるようになると感じています。
学校の先生も限界があります。できないことは、色々な方々の知恵を借りながら、どうしていったらいいのかを常に考えていくようにしています。
程島:会場からも、「地域の方が参加してみたくなるきっかけを学校が提案し、それを共有することが必要なのではないか」、「インクルーシブという言葉自体がまだまだ地域に浸透していない。言葉に触れる機会が学校という場を通してあるだけでも、地域が意識できる一つのきっかけになるのではないか」といったご意見がきています。
最後に地域の一人として、これから自分自身でどんなことができるとお考えになっているかお聞かせください。
竹原:平成18年から私たちはコミュニティカレンダーというものを作ってきました。これは、学校と地域の情報がすべて入っています。これは、先生方が作るのではなく、地域コーディネーターたちが作っています。作製プロセスで学校と地域がつながり、互いの理解が深まります。
話し合いを行う中で、それぞれのベクトルや認識が異なることもありますが、情報共有することが土台になると思います。大人同士も学び合いながら、新しい社会を、そしてインクルーシブな世界をつくっていきたいと思いました。
内田:私は、学校に色々な人が入り、だれが生徒か先生か分からないような学校になったら面白いと思います。そうなるために、できるところから取組を進めていきたいと思います。本校の地域は子どもたちとしっかり向き合ってくれています。今後も学校と地域が良い関係を続けていけるように、努めていきたいです。
津田:インクルーシブはみんなでつくるという原点に、もう一度立ち返ることができました。学校が困っていることや助けてほしいということを、コミュニティ・スクールや地域、保護者に情報発信しながら、子どもたちの幸せのために、教職員の幸せのために、みんなの幸せのために、何ができるかを考えながら学校経営していきたいと改めて思いました。
二宮:私は、地域のすべての子が地域の学校に通い、ともに学べることを実現していくために、様々な立場の方と対話を重ねながら、学校のあり方をデザインし直す必要があると感じています。そのためにも、地域の住民として自分から行動を起こしたり、周りに声をかけたりしたいと思いました。
程島:会場からもご自身ができることとして、「改めて子ども一人ひとりの良いところを意識的に見ていきたいと感じた」、「まずは自分ができることからやっていきたい」というご意見もありました。私自身、子どもの学びとはどういうものなのか、教職員、行政、地域のみなさんで考え続けていくことが、これからも大事だと感じました。
本日のフォーラムの柱でもあった「インクルーシブな学校を地域のみんなでつくる意義」とは、地域の新たな文化をつくるということではないかと感じました。これからの地域に必要なのは、多くの方々が対話や熟議を通して、どういう社会をつくっていきたいのかということを共有することです。そのような対話から地域の新たな文化がつくられ、それを発信していくことで次世代への道となり、インクルーシブな社会を実現していくのではないかと思います。互いの価値を認め合い、一人ひとりを尊重するということを基盤に置きながら、みんなで社会をつくっていくことが、とても大事だと思います。
また、「インクルーシブな学校を地域のみんなでつくるアイデア」では、県教育委員会の役割を考えたときに、こういったフォーラムも一つの役割を果たせるのではないかと思います。色々な方々が参加できるようなフォーラムの在り方を考えてまいります。また、神奈川県と海老名市が取り組んでいる「フルインクルーシブ推進市町村の取組」も県と市で連携しながら、みなさまとの対話を大切に丁寧に進めていきたいと思います。
本日ご参加いただいたみなさまが、それぞれの立場で、できることはなにかを考えたり、行動したりしていただき、それを周りにつなげていくことをお願いしたいと思います。
今回のフォーラムは、今後の神奈川のインクルーシブ教育の推進を考える上で、貴重な機会となりました。神奈川県教育委員会では、市町村とも連携しながら県内すべての学校において「インクルーシブな学校」づくりに向けた取組を進め、共生社会の実現につなげてまいります。
主催 神奈川県教育委員会
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