更新日:2025年6月20日

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神労委令和5年(不)第14号事件命令交付について

神奈川県労働委員会は、標記の事件について、申立人の不当労働行為救済申立ての一部を救済する命令を交付しました。

1 当事者

申立人 X(組合)

被申立人 Y(法人)

2 事件の概要

本件は、【1】法人が、組合に対して令和5年7月21日付け通知書(以下「本件通知書」という。)を送付したこと、【2】法人が、組合の同年8月1日付け団体交渉の申入れに対して、団体交渉の開催期日を引き延ばしたことが、労働組合法(以下「労組法」という。)第7条に該当する不当労働行為であるとして、組合から救済申立て(以下「本件申立て」という。)のあった事件である。
その後、組合は、【3】組合の同年9月4日付けでの団体交渉の申入れに対し、法人が、本件申立てを理由に団体交渉を拒否したこと及び当委員会の審査手続外で法人に対して組合が質問及び要求を行うことを禁止したことが労組法第7条に該当する不当労働行為であるとして、追加申立てをした。

3 命令の概要

⑴ 主文

ア 法人は、組合に対して交付した本件通知書を撤回し、その旨を組合に通知しなければならない。

イ 法人は、組合が令和5年8月1日及び同年9月4日付けで申し入れた団体交渉事項のうち、令和3年10月から令和4年3月及び同年4月から令和5年3月までの期間における月の労働時間が187時間を超過した教員の人数及び時間外勤務手当の支払状況について、必要な資料を提示するなどして誠意をもって応じなければならない。

ウ 法人は、本命令受領後、速やかに陳謝文を組合に交付しなければならない。

エ その余の申立てを棄却する。


⑵ 争点及び判断の要旨

(争点1)

法人が、本件通知書で、次の内容を記載して組合に送付したことは不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か

(争点1-1)
令和5年7月7日の執行委員長の行為は懲戒事由に該当する可能性があるとし、対応と再発防止について検討するとした記載

(判断の要旨)
法人が執行委員長X1による抗議(以下「本件抗議」という。)を「大声を上げ、テーブルを叩き、36協定の書面を破り、その場で説明会開催を承諾するよう強要した」と表現したこと及び本件抗議が懲戒事由に該当する可能性があるとして、就業規則に規定された「職員としての品位を失う」行為に該当する可能性がある旨を含む本件通知書を交付したことには一定の理由があり、それが、あくまで懲戒事由に該当する可能性の指摘にとどまっている点も踏まえると、X1が組合員であることやX1の組合活動を理由とするものということはできないから、組合員に対する不利益取扱いには当たらない。
本件通知書は、組合を名宛人とする通知書であるところ、本件抗議が懲戒事由に該当する可能性がある旨を本件抗議の行為者であるX1個人ではなく、組合に通知して公にする必要性があったとまでは認められない。上記記載は、組合の組織力・団結力に影響を及ぼしかねないものといえるから、組合の運営に対する支配介入に当たる。

(争点1-2)
執行委員長及びその他の組合員に対して、組合と法人とのやり取り(質問、要望、回答等)は、原則として全て文書(メールを含む)で行うこととした記載

(判断の要旨)
労組法第7条第1号は、組合員個人に対する不利益取扱いを禁止した規定であるところ、上記記載は、組合に対して通知されたものとみるのが相当であるから、上記記載はX1個人に対する不利益取扱いに当たらない。
労使対立が深刻化していた中で、法人は、本件抗議を契機として、本件抗議を行ったX1だけでなく、組合に対し、これまで認めてきた労働条件に関する組合と法人とのやり取りを全て文書で行うよう制限しており、これにより組合は労働条件に関する直接の交渉を制限されることになったと認められる。上記記載は、労働条件の交渉を行うという組合の機能を阻害し、ひいては組合の団結力を弱める可能性のある行為であると認められるから、組合の運営に対する支配介入に当たる。

(争点1-3)
執行委員長及びその他の組合員に対して、他の教職員がいる場において、組合と法人とのやり取り(質問、要望、回答等)に関する発言を禁止した記載

(判断の要旨)
労組法第7条第1号は、組合員個人に対する不利益取扱いを禁止した規定であるところ、上記記載は、組合に対して通知されたものとみるのが相当であるから、上記記載はX1個人に対する不利益取扱いに当たらない。
上記記載の通知は、就業時間中の職員会議等の場において、労使協議の場で行うべき質問、要望、回答等を行うことを禁止することを確認しようとするものにすぎず、その限りで組合活動を阻害するものとは認められないから、組合の運営に対する支配介入に当たらない。

(争点1-4)
執行委員長及びその他の組合員に対して、組合活動に関し、法人が指定する一部の書類の印刷を除き、法人の全ての備品等の使用を禁止した記載

(判断の要旨)
労組法第7条第1号は、組合員個人に対する不利益取扱いを禁止した規定であるところ、上記記載は、組合に対して通知されたものとみるのが相当であるから、上記記載はX1個人に対する不利益取扱いに当たらない。
組合と締結した労働協約に違反する上記記載は、組合の情宣活動上の不利や不便を招来し、組合を無視ないし軽視する行為であるから、組合の運営に対する支配介入に当たる。

(争点2)

組合の令和5年8月1日付けの団体交渉の申入れに対して、法人が、令和5年8月3日付け回答書を送付したことは、正当な理由のない団体交渉の拒否及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か

(判断の要旨)
法人は、X1による暴力的言動の危惧が払拭されるまでという抽象的な理由をもって団体交渉の開催を留保するとして、団体交渉に応じていないことからすると、団体交渉を拒否していたと認められる。本件抗議は相対するY1理事長の身体に危害が及ぶ性質のものであったとまではいえないこと、本件抗議は突発的に起きた行為と認められること、同様の行為を繰り返さないとの組合の意向を示しているといえることからすると、組合が、将来の団体交渉において暴力的言動を行使する蓋然性が高いとまではいうことができないから、法人の団体交渉拒否に正当な理由は認めらない。また、団体交渉拒否は組合の団結力を弱める可能性のある行為といえる。したがって、組合の令和5年8月1日付けの団体交渉の申入れに対して、法人が、令和5年8月3日付け回答書を送付したことは、正当な理由のない団体交渉拒否及び組合の運営に対する支配介入に当たる。

(争点3)

法人が、本件申立てを受けて、今後の協議(質問、要望、回答等を含むが、これに限らない。)は労働委員会の手続の中で行うとし、組合の令和5年9月4日付けの団体交渉の申入れに対して、団体交渉の開催を留保したことは、正当な理由のない団体交渉の拒否及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か

(判断の要旨)
法人は、団体交渉の開催を留保し続ける意思を明示し、かつ、団体交渉に応じていなかったのだから、団体交渉を拒否したと認められる。組合が、将来の団体交渉において暴力的言動を行使する蓋然性が高いとまではいうことができないから、法人の団体交渉拒否に正当な理由は認められない。また、団体交渉拒否は組合の団結力を弱める可能性のある行為といえる。したがって、組合の令和5年9月4日付けの団体交渉の申入れに対して、団体交渉の開催を留保したことは、正当な理由のない団体交渉拒否及び組合の運営に対する支配介入に当たる。

(争点4)

法人が、本件申立てを受けて、組合の令和5年6月22日付けの要求に対して、法人がその回答を労働委員会の手続の中で行うとしたこと及び労働委員会外における理事長に対する質問、要求、進捗確認等の行為を法人が禁止したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か

(判断の要旨)
法人による上記禁止等は、憲法第28条の保障する団結権・団体交渉権を軽視し、組合あるいは組合執行部の法人に対する交渉力について組合員に疑義を抱かせるものであって、ひいては組合の団結力を弱める可能性のある行為といえるから、組合の運営に対する支配介入に当たる。

 

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