更新日:2024年6月25日
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神奈川県労働委員会(会長 浜村彰)は、標記の事件について、本日、申立人の不当労働行為救済申立ての一部を救済する命令を交付しましたので、お知らせします。
申立人 X(組合)
被申立人 Y(会社)
本件は、組合が、組合員Aの業務上の疾病による健康被害への謝罪や補償等を交渉事項とする団体交渉を申し入れたが、会社が形式的に対応するのみで、訴訟に至る可能性があること等を理由に具体的な回答や資料の提供を行わなかったことが、労働組合法(以下「労組法」という。)第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、救済申立てのあった事件である。
(1) 主文
ア 会社は、団体交渉において組合が開示を求めた労働基準監督署へ提出した回答書及び別紙添付資料について、開示可能な箇所の有無を検討し、組合に対し団体交渉において検討内容及び結果を説明し、開示可能な箇所については、速やかに開示しなければならない。
イ 会社は、本命令受領後、速やかに陳謝文を組合に交付しなければならない。
ウ その余の申立てを棄却する。
(2) 争点及び判断の要旨
(争点1)
組合員Aは、Yとの関係で労組法第7条第2号の「使用者が雇用する労働者」に当たるか否か。
(判断の要旨)
Aは、組合を通じて勤務時にアスベストにばく露したとして、アスベスト健康被害による補償を求めている。加えて、Aが申請した療養補償給付は支給決定されており、同人と会社との間には労働関係が存在していた期間に清算されていない労働関係上の問題が存在していたといえる。よって、Aは「使用者が雇用する労働者」に該当する。
(争点2)
組合が令和2年6月3日付けで申し入れた団体交渉事項のうち、「団体交渉事項1 Aが石綿肺がんを発症されたことに対して謝罪すること」、「団体交渉事項2 Aが担当した作業におけるアスベスト粉じんの発生状況と貴社のアスベスト対策について説明すること」、「団体交渉事項5 アスベスト被害に対する貴社の補償制度について説明すること」(団体交渉事項5は、Aに限る。)は、義務的団体交渉事項に当たるか否か。
(判断の要旨)
いずれの団体交渉事項も、災害補償にかかる安全衛生に関する職場環境や補償制度等に関わるもので、組合員であるAの労働条件に該当し、義務的団体交渉事項に当たる。
(争点3)
会社が令和2年11月12日付け団体交渉において、訴訟が想定されること等を理由として要求を拒否したことは、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為に当たるか否か。
(判断の要旨)
ア 団体交渉事項1について
会社は、労災認定されたとしても司法上の過失責任が認められたわけではないとの理由を示し謝罪要求を拒否したが、組合は労災認定の資料から会社に責任があるに違いないと反論したのみで、要求の根拠となる具体的な事実を主張しておらず、その後の議論は平行線であったと認められる。したがって、団体交渉における会社の交渉態度が不誠実であるとまではいえない。
イ 団体交渉事項2について
会社は、訴訟に発展する可能性のあることについて、会社の不利益になりうる資料の開示や活動はできないとするが、団体交渉について労組法上の義務があれば対応するとして、拒否しているわけではない。しかし、団体交渉以降も会社は、資料や情報の提供の可否について検討結果を説明したり、検討の上で資料等の提供をする機会を設けたりすることが可能であったが、そのような対応を取らなかった。したがって、訴訟が提起されること等を理由に組合の要求を拒否した行為には、合意形成の可能性を模索する姿勢がうかがえず、会社の対応は不誠実と認められる。
ウ 団体交渉事項5について
会社は、団体交渉において補償制度はないこと、団体交渉時点において将来設ける予定もないことを回答し、組合から追加で要望のあった就業規則中の災害補償制度の有無についても、確認の上、後日回答することを約束し、履行している。よって、会社の対応は不誠実な交渉態度とはいえない。
エ 以上のとおり、団体交渉事項1及び5について、会社の対応は不誠実な交渉態度であったと認められないが、団体交渉事項2については、不誠実な交渉態度であったと認められることから、会社が団体交渉において、訴訟が想定されること等を理由として要求を拒否したことは、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為に当たる。
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