更新日:2023年11月22日

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研究内容の紹介(畜産技術センター)

 

畜産経営から発生する臭気を低減するための取組
~環境制御型豚舎の実証試験~

畜産技術センター 板倉一斗

職員の写真

研究を始めた経緯

 都市近郊型の本県の畜産経営は、農場と住宅が隣接することから、悪臭に関する苦情の割合が多く、過去の調査では原因の約8割が悪臭に関するものとなっています。そのため、本県の畜産業において、臭気対策は経営継続に極めて重要となっています。
 本県の養豚生産者から、畜舎の効果的な臭気対策を検討して欲しいと強い要望があり、平成31年3月、畜産技術センターにドイツで臭気対策に実績のある脱臭システムと空調システムを採用した環境制御型豚舎を設置しました。
 導入した豚舎は、冬季は寒さが厳しいが、夏季は湿度も低く爽やかなドイツの気候に適応した施設です。日本での導入実績は少なく、冬の寒さはさほど厳しくありませんが、夏季には高温多湿となるドイツとは異なる本県の気候で同様の性能を発揮することができるかを検証する必要がありました。特に、脱臭装置は、臭気となる化学物質を微生物が分解する方式(生物脱臭法)によるもので、夏季の暑熱環境下で微生物がどのような状態になるのかが心配されました。
 そこで、環境制御型豚舎の空調・脱臭システムの性能及び生産性を検証するとともに、本県の気候での運転管理技術を明らかにすることで、豚舎環境に配慮した効率的な肉豚生産体制を構築し、豚舎から発生する臭気の抑制を目指すこととなりました。

環境制御型豚舎の外観 

環境制御型豚舎の外観

豚舎および脱臭装置の外観

豚舎および脱臭装置の外観

脱臭装置の内部

脱臭装置の内部

研究の内容

 令和元年5月から、環境制御型豚舎の脱臭・空調性能及び生産性の調査を開始しました。
 本脱臭システムは、豚舎から発生するアンモニアや低級脂肪酸などの豚舎で発生する臭気成分を、豚舎の外では人が感じなくなる程度まで除去できることがわかりました。しかし、脱臭システム内を循環する循環水の水質が悪化すると脱臭性能が低下し、安定した脱臭性能を維持するためには、循環水の水質を確認しながら運転する必要があることがわかりました。
 本空調システムを稼働することで、豚舎内の気温は夏季を除いて屋外より変動が小さく安定しました。一方、夏季は涼しくなる夜間に豚舎内の気温が下がりにくく、豚が暑熱の影響を受け生産性が著しく低下することがわかりました。これは、この豚舎がドイツの気候に対応したもので、日本の夏季の高温多湿には対応できなかったと考えられ、今後は暑熱対策が必要であることがわかりました。
 そこで暑熱対策として、気温が高くなる日中に微細なミストを豚舎軒下にある入気口へ噴霧しました。豚舎内に入る空気を気化熱により冷却することで、舎内の温度は外気温より1℃程度低下し、肥育豚の生産性は多少改善しましたが、実用化にはさらに改善が必要です。現在は、より日中の温度を下げるため、微細なミストの活用方法について検討を重ねています。

ミスト噴霧による暑熱対策

ミスト噴霧による暑熱対策

豚舎構造(妻側)

豚舎構造(妻側)

豚舎構造(側面)

豚舎構造(側面)

今後の展開

 今後は、脱臭システムの安定稼働のための循環水の水質維持や、暑熱対策について引き続き検討し、本県の環境下での環境制御型豚舎の運転管理技術を改善して、畜産施設から発生する臭気の抑制に寄与していきたいと思います。
 また、本システムの脱臭性能は臭気対策に有効であることが確認されていますが、導入にあたっては初期投資が高額であること、建築面積が必要であることなどから、土地が狭く建て替えが難しい等の理由で導入が難しい生産者もいます。そこで、本施設のシステムを参考に、安価で手間のかからない臭気抑制技術の検討や、既存の開放豚舎への応用の可能性などについて検討していきたいと考えています。
 本県の畜産業は、飼料価格高騰、高齢化、担い手不足などにより厳しい状況にあっても、臭気対策などの環境対策は欠かすことができません。本県の生産者は、畜産経営を継続していくためには今以上の臭気対策が必要なことを認識しており、今後もそのニーズに応えられる技術を研究していきたいと思います。

研究職員のプロフィール(研究歴、受賞歴等)

  • 企画研究課 環境グループ 研究歴1年6ヶ月
  • 畜産における臭気対策や家畜ふんの堆肥化処理などの畜産環境について担当。

 

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