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更新日:2025年3月10日
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環境科学センターで実施している研究内容について紹介するページです。
神奈川県を流れる相模川と酒匂川は、県内の水道水の約9割を賄っており、県民の皆様の重要な水源となっています。
しかし、近年では上流の森林荒廃や生活排水対策の遅れによるダム湖の水質汚濁、中下流域では河川の護岸コンクリート化による湧水の遮断等、自然な流れの阻害が懸念されています。
そのため県では2007年度(平成19年度)より水源環境を保全・再生する取組を進めており、当センターはそれらの取組を主に河川環境の健全度の視点からモニタリング・評価を行っています。
河川環境の健全度の指標としては、水質だけでなく生物の多様性も対象としており、モニタリングにおいては取組の効果としての生物多様性の変化をどのように定量的・客観的に評価するかという点が課題となっています。
私の研究は主に上記の課題解決を目的としており、生物多様性を定量的に評価可能な手法を開発することを研究目標としています。
この目標を達成するために必要となる大量の生物データを取得するため、効率的かつ簡便に生物調査が可能となる環境DNAを研究領域としています。
大きな川でも水が取れれば調査可能です
環境DNAとは
生物(ここでは主に目に見える大きさの生物を意味しており、微生物などは含んでいません)は糞や粘液の剥離などに由来すると考えられる細胞片を環境中に放出しています。
2008年にフランスの研究チームが池の水からウシガエルのDNAを検出したことから、環境中にはそこに生息する生物由来のDNAが存在しており、それらを分析することにより生物の生息状況を把握できることが明らかとなりました。
環境DNA分析機器(次世代シーケンサーとリアルタイムPCR)
ここでは過去に私が行った2件の研究を紹介します。
(1)丹沢山地に生息するサンショウウオ類の環境DNA調査研究
丹沢山地に生息するサンショウウオ類2種(ハコネサンショウウオ、ヒガシヒダサンショウウオ)を対象として、季節や採水時刻による検出率の変化を評価するため、初夏と冬季にそれぞれ24時間調査(3時間ごとに採水)を実施しました。
その結果、採水時刻による変化よりも採水する季節の影響の方が強いことが明らかとなりました。
水の中からポンプと円筒フィルターでDNAを捕集
DNA抽出サンプル(様々な生物のDNAが溶け込んでいいます)
(2)県内全域の河川における魚類の環境DNA調査研究
2008年(平成20年)から2010年(平成22年)にかけて魚類の捕獲調査を実施した県内の24河川99地点に対し、経年的な変化の把握と調査手法間の違いの検証を目的として、2020年(令和2年)に同地点で魚類の環境DNA調査を実施しました。
その結果、全体の傾向としては多くの河川で以前の調査と今回の調査で同じような種が確認されており、環境DNA調査でも捕獲調査と同等の結果が得られることが分かりました。
一方で、以前の調査で確認されていたカマキリ等の希少な種が確認されず、また各河川の外来種比率は若干増加する等、河川環境は良くなっているとは言えない状況が明らかとなりました。
関係のないDNAが混入しないように慎重に分析作業を進めます
分析作業の要所要所でクオリティチェックをします
上でも触れたとおり、環境DNAは2008年に初めて生物から放出されたDNAが環境中に存在することが明らかとなり、生物調査に活用された比較的新しい技術です。
一度に生物群集の生息情報を入手することが可能な手法(網羅的解析)については従来実施されてきた捕獲による生物調査を代替・補完することが可能となる有望な技術と目されており、様々な生物群を検出するための手法開発が精力的に進められていますが、現状で国内において広く実用化されているのは魚類のみとなっています。
手法の開発には対象とする生物群集に対応した試薬(プライマー)を設計するだけでなく、それぞれの種のDNA配列情報も必要となりますが、例えば昆虫のように種が非常に多い生物群では、公共のDNAデータベースに登録されたDNA配列情報がまだ十分とは言えない状況です。
そのため、当センターでは水環境の健全性等と関係の深い水生昆虫類を中心にDNAデータベース整備を進めるとともに、様々な分類群(両生類や甲殻類等)、環境での調査が可能となるよう技術開発を行い、他の県試験研究機関や県民の皆様と連携して県内の生物多様性保全を推進したいと考えております。
このページの所管所属は環境農政局 総務室です。