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更新日:2024年1月11日
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農業技術センターで実施している研究内容について紹介するページです。
スイートピーはマメ科のつる性一年草で花色が豊富で、甘い芳香をもつことから世界的に園芸利用されています。欧州やオーストラリア等では、花壇での植栽が中心であり、日長が長い時期に開花する長日性の品種(夏咲き性)が用いられています。日本は晩秋から春にかけて温室で切り花栽培が行われる世界で最大の切り花産地であり、その品質は高く、輸出品目となっています。切り花用の品種は、短日期に開花する冬・春咲き性で、花茎の長さや太さ、小花の数や花形、栽培管理のしやすさなど切り花栽培に適応した改良が進んでいますが、夏咲き品種に比べて花色や芳香性などのバリエーションが少ないのが課題でした。
神奈川県はスイートピー栽培発祥の地と言われており、昭和初期から本格的に営利栽培が始まり、長い歴史がありますが、平成に入り宮崎県、大分県、和歌山県などの新しい産地ができ、産地間の競争が激しくなっています。
当所では、産地支援策として他産地にはない特徴あるオリジナル品種の育成を行ってきました。その中で、花壇植栽用の夏咲き性品種だけが持っていた、多様な花びらの模様や強い芳香を切り花用へ導入して切り花品種のバリエーションを広げてきました。育成した品種は神奈川オリジナル品種として産地への導入・普及を図るとともに、開花の習性や花弁模様の発現など有用な形質の遺伝様式を明らかにして育種の効率化を目指しました。
スイートピーの栽培風景
スイートピーは本来、甘い香りを持つ花ですが、切り花のスイートピーは香りが弱いことから、強い香りの形質を切り花品種へ導入しました。栽培のしやすさと香りの特徴、花色に着目して、小輪系で香りが強い「スイートピンク」と「スイートスノー」の2品種を育成しました。また、切り花はピンクなどの単色が主体だったため夏咲き品種のもつ花びらの模様を切り花品種へ導入しました。模様は花びらの糸覆輪とスプレーで吹いたような細かい斑が入る吹きかけタイプと、花びらの両面に刷毛ではいたような斑が入る刷毛目模様の2タイプがあり、それぞれで複数の花色を育成しシリーズ化しました。
「スプラッシュシリーズ」は花びらの両面に入る刷毛目模様が特徴で、模様色が紫の「パープル」、赤い「レッド」、青い「ブルー」、赤ワインのような「ヴィーノ」の4品種、「リップルシリーズ」は、花びらの片面に入る糸覆輪と吹きかけ模様が特徴で、模様色が淡紫の「ラベンダー」、ピンクの「ピーチ」、チョコレート色の「ショコラ」の3品種となっています。
品種育成の過程から、香りの強いものは花の大きさや花びらのウエーブが小さく、香りの強さと花の形質は強く関係していること、冬咲き性品種は、刷毛目模様となるのに必要な2つの遺伝子のうち1つを持っていないことがわかりました。また、新たに吹きかけ模様は、1つの遺伝子に支配される潜性形質であり、吹きかけ模様と遺伝子型の関係を明らかにしました。さらに、開花習性、香りの強さ、花弁の模様、着色の有無などの形質は互いに独立して遺伝していることがわかりました。
(左から)パープル、レッド、ブルー、ヴィーノ
スプラッシュシリーズ
(左から)ラベンダー、ピーチ、ショコラ
リップルシリーズ
表現型と遺伝子型の関係(上)とF₁およびF₂世代で想定される表現型と遺伝子型(下)
※A、a:着色遺伝子 V、v:吹きかけ模様遺伝子
吹きかけ模様と遺伝子型の関係
育種の目標とする形質の遺伝様式を明らかにすることで、交雑後に形質を固定するために必要な自殖世代数を推定したり、目的の形質をもつ個体の出現数を想定して選抜集団の大きさを決めるなど効率的・効果的に品種育成を進めることができます。
育成した品種は、身近で香りを楽しむことができ、ブルーや濃赤紫模様のある花は、印象的で、これまでのスイートピーにはないシックな雰囲気をもつので、大人向けのブーケやアレンジメントなどの利用シーンを広げることができます。
神奈川県産のスイートピーは品質が高く、消費者の手元に早く届くので鮮度がよく、美しい花色やフレッシュな香りを長く楽しんでいただくことができます。生活様式が変わり、心地よく家で過ごすため、生花を飾る機会が増え、花の香りへの関心も高まっています。新たに育成するオリジナル品種が県内の生産振興に貢献すると共に、多くの消費者へ、癒しや潤いを提供できればと考えています。
このページの所管所属は環境農政局 総務室です。