更新日:2023年11月22日

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研究内容の紹介(水産技術センター)

丹沢ヤマメ復活作戦!
~在来ヤマメ漁場環境再生事業~

内水面試験場 古川 大・勝呂 尚之

写真:古川技師写真:勝呂専門研究員

研究を始めた経緯

 県の水源である丹沢山塊は、昔から渓流釣りの人気スポットでもあります。その代表はヤマメで、姿は美しく、釣っても楽しく、食べても美味しい、の三拍子が揃った魚です。本県では相模川や酒匂川などの自然度の高い渓流域に生息していましたが、生育環境の悪化のため、県レッドデータでは絶滅危惧種に指定されています。
 他方、ヤマメは釣りの対象魚として人気があり、昔から各河川への移植放流が行われており、現在では多くの渓流域で釣りを楽しむことができます。しかし、その一方でこの地域に生息していた丹沢在来のヤマメは、絶滅の危機に瀕しています。
 丹沢大山総合調査では、在来ヤマメの調査が行われ、採集魚のパーマークや朱点等の外部形態の解析や聞き取り調査から、在来個体群の生息河川が推定されました。加えて、NPOや日本大学と連携して遺伝子分析を行った結果、相模川水系2河川、酒匂川水系3河川に在来個体群が生息する可能性が示唆されています。
 在来ヤマメは、体側の一部に朱斑を持つタイプ(写真1)やパーマークが小さくて数が多いタイプ(写真2)等、外部形態に特徴があります。内水面試験場では、これらの丹沢ヤマメの生息状況を把握し、その外部形態と遺伝子を解析し、在来系の特定を行うとともに、種苗生産技術を開発して、ブランド化も含めた有効活用を検討しています。

写真:体側に朱斑が出る丹沢ヤマメ 

写真1:体側に朱斑が出る丹沢ヤマメ

写真:パーマークの多い丹沢ヤマメ

写真2:パーマークの多い丹沢ヤマメ

研究の内容

 最近の生息状況調査と外部形態及び遺伝子解析(mt-DNA調節領域)の比較から、酒匂川における丹沢ヤマメの生息域を6河川特定しました。その個体群の中から、天然魚(天然F₀)を親魚として確保し、天然F₀同士を交配して、在来個体群由来の遺伝子を持つ稚魚(天然F₁)を作出しました。しかし、抱卵数が少なく、種苗の大量生産ができませんでした。そこで、天然F₁の稚魚を大型の親魚に養成し、1尾あたり3,000粒前後の卵を得ることができました。天然F₁の雌と天然F₀の雄を交配したことで、在来個体群由来の遺伝子を持つ遺伝子を持つ受精卵を大量に生産できたのです(写真3)。
 さらに、その受精卵から孵化した稚魚を酒匂川水系の河川内に試験放流したところ、飼育下で継代した養殖魚に比べて、放流直後に群れず、素早く岩などの物影に隠れることが確認されました。また、放流から20ヶ月後に放流地点で放流魚が採捕されたことから、長期間の定着が確認されました(写真4)。
 また、酒匂川の丹沢ヤマメの生息地では、市民団体や漁協と連携して、人工の産卵場を造成し(写真5)、魚を増やす取り組みも行っています。台風の襲来後に合わせて産卵場を造成することで、荒れた渓流域においても、繁殖効果を上げることができます。

写真:半天然魚のヤマメ発眼卵

写真3:半天然魚のヤマメ発眼卵

写真:河内川で定着した半天然魚

写真4:河内川で定着した半天然魚

写真:人工産卵場造成の様子

写真5:人工産卵場造成の様子

今後の展開

 現在、丹沢ヤマメの生息地は、地球環境規模の気候変動により、水温が上昇したり、土砂が流入したりして、環境がさらに悪化しています。今後も魚を増やす積極的な対応が必要です。また、ヤマメの無秩序な移植放流についても、基本的なルール作りをはじめ、渓流域の保全と利用についての話し合いなどソフト面の対応も不可欠です。
 これらの課題に対応しながら、今後は相模川水系でも、丹沢ヤマメの復活に向けて研究を進めます。従来の生態系を保全・復元しながら、丹沢ヤマメを地域特産物としてブランド化し、各漁協でそれぞれのヤマメを利用することで、地域振興にも貢献できます。さらに、在来個体群に近い遺伝子を持つ魚を量産できれば、適応能力に優れた丹沢在来ヤマメの放流が可能になり、効率的な増殖が期待されます。

研究職員のプロフィール(研究歴、受賞歴等)

  • 古川 大(技師) 今年度からヤマメ増殖と魚病の研究に取り組んでいます。
  • 勝呂 尚之(専門研究員・農学博士) 第4回丹沢大山総合調査より、本格的なヤマメの分布、形態、遺伝子の研究等を行っています。

 

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