研究内容の紹介(自然環境保全センター)

掲載日:2021年7月1日

丹沢山地における奥山域の自然再生 
~鬱蒼(うっそう)としたブナ林を目指して~

自然環境保全センター 研究企画部 研究連携課 谷脇徹

写真:谷脇徹研究職員

研究を始めた経緯

 ブナ林は、丹沢山地の奥山域の代表的な植生景観であり、丹沢を特徴づける生物相を育むとともに、県民の貴重な水源地域でもあるかけがえのない森林です。しかし、丹沢山地の高標高域ではブナ林の衰退、すなわちブナを中心とする高木の衰弱や立ち枯れが生じ、森林の疎林化や草地・裸地化が進行して問題となっています。このようなブナ林の衰退は、2004~2005年に実施された丹沢大山総合調査を経て、大気汚染(オゾン)や乾燥化等による水ストレス、高標高で過密化したニホンジカ採食影響による植生劣化と森林の更新阻害、さらには大発生したブナハバチの葉食被害が複合的に作用して生じると考えられています。とりわけブナハバチについては、当初はブナハバチの葉食被害でブナは枯れないと思われていましたが、調査が進むにつれ、年輪幅の減少や枝先枯れが生じることが分かり、さらに複数回の葉食被害を受けることで衰弱・枯死する個体があることが明らかとなってきました。
 このような現状に対して、ブナの立ち枯れに歯止めをかけ、あわせて立ち枯れで生じた林冠ギャップ(林冠が開けた場所、以下ギャップ)の閉鎖を促進するための対策を進めることで、多様な樹種から構成される欝蒼(うっそう)としたブナ林を再生していくことを目指しています。

写真:衰退が進むブナ林の例(檜洞丸)

衰退が進むブナ林の例(檜洞丸)

写真:再生目標とするブナ林の例(菰釣山)

再生目標とするブナ林の例(菰釣山)

写真:ブナハバチの葉食被害(2011年7月1日檜洞丸にて)

ブナハバチの葉食被害(2011年7月1日檜洞丸)

研究の内容

〇ブナの保全対策
 現存するブナを保全するためには、ブナハバチの大量発生時に防除を実施することで葉食被害を回避・軽減し、立ち枯れを防止してこれ以上ギャップが拡大しないようにする必要があります。そこで、ブナハバチ防除事業の実施に向けて、発生予察と大量発生予測時の緊急防除による防除体系を確立しました。発生予察としては、ブナハバチが土中に形成した繭で越冬し、羽化したメス成虫がブナの展開途中の若葉に産卵する生態を踏まえ、繭の蓄積量による発生ポテンシャル評価とブナ展葉・成虫発生・卵密度の事前予測および密度調査を組み合わせた予測手法を開発しました。防除法としては、葉の摂食後に一旦落下し樹幹をよじ登る幼虫を粘着シートで捕獲する手法や、薬剤を樹幹に注入して葉に到達した薬剤で幼虫を防除する樹幹注入法などを開発しました。

樹幹注入によるブナハバチ防除試験

樹幹注入によるブナハバチ防除試験

〇ギャップ閉鎖対策
 ギャップを閉鎖するためには、シカの採食影響を抑えて更新木を保護・育成し、林冠を構成する高木の再生を促進する必要があります。そこで、ギャップの大きさが異なるブナ林再生試験地に設置された植生保護柵内の更新状況を10年間にわたりモニタリングし、事業効果を検証しました。その結果、小ギャップや高茎草本群落の大ギャップでは高木種を含め樹高成長が早く階層構造が発達してきていること、ミヤマクマザサ群落の大ギャップでは個体数は多くないが小高木種を中心に樹高成長してきていること、また、ギャップが形成されていない林冠下では樹高成長は遅いが高木種を含め個体数が多いことがそれぞれ明らかとなりました。

写真:更新木モニタリング調査

更新木モニタリング調査

写真:植生保護柵内の再生状況(小ギャップ)

植生保護柵内の再生状況(小ギャップ)

今後の展開

 2017年からはブナハバチの関与によってブナ林の衰退が進行している西丹沢の檜洞丸を重点対策地区として位置付けて、所内各課の事業連携により、植生保護柵の設置、シカ捕獲、ブナハバチ防除試験、および効果検証モニタリングを組み合わせたブナ林再生事業を実施し、短時間ながら成果は表れ始めています。今後は、より広域でブナ林再生を推進していくため、同様の取り組みを実施する重点対策地区を拡大していく予定です。自然力を活かした森林の再生には50年、100年といった長い時間を想定する必要があるので、長期にわたる対策の効果的・順応的な実施に向けて、再生に要する時間と各時点で必要となる対策を示すロードマップを作成し、モニタリングによって効果を検証・評価し、定期的に計画と手法を見直す進め方としています。ブナハバチについては依然として高密度状態の地区があるため、大量発生時に効果的な緊急防除を実施できるように、毎年発生予察を行い、大量発生に備えていくことを考えています。

研究職員のプロフィール(研究歴、受賞歴等)

  • 令和2年神奈川県入庁
  • 全国林業試験研究機関協議会研究功績賞(平成26年1月)
  • 森林防疫賞奨励賞(平成30年7月)
  • 丹沢のブナ林再生のほか、ナラ枯れ対策支援やシカ対策連携、森林生態系調査など森林の保全・再生にかかる調査研究を実施