研究内容の紹介(環境科学センター)

掲載日:2021年6月1日

ブナ林再生に向けた総合的なリスク評価に関する研究

環境科学センター 調査研究部 水源環境担当 主任研究員 武田麻由子

写真:武田研究員

研究を始めた経緯

神奈川県北西部に位置する丹沢山地では、1970~80年頃からブナ林の衰退が顕著となっています。1993~96年度に丹沢大山自然環境総合調査が実施され、ブナ枯れの原因として土壌乾燥化、動物及び食葉昆虫による食害やブナ自体の老齢化など、様々な要因が指摘されましたが、大気汚染物質の影響も懸念されました。そこで、環境庁(当時、現環境省)は、1995年に西丹沢犬越路(山北町中川、標高920m)に国設酸性雨測定所を設置し、同年より環境科学センターで山間地における大気汚染物質のモニタリングを実施することになりました。以降山間地の大気汚染物質の状況把握、大気汚染物質のブナへの影響調査、リスク評価手法の開発などに取り組んでいます。自然環境保全センターといった神奈川県の試験研究機関や国立環境研究所などと共同で研究を行い、丹沢山地の植生回復を目指しています。

写真:山間地での調査の様子1

山間地での調査の様子1

写真:山間地での調査の様子2

山間地での調査の様子2

研究の内容

〇山間地の大気汚染とブナへの影響

西丹沢犬越路における大気汚染物質のモニタリングの結果、二酸化硫黄や窒素酸化物は都市域に比べ十分に低い濃度でした。また、都市域におけるボイラーなどの固定発生源や自動車などの移動発生源等の対策に伴い、都市域だけでなく西丹沢犬越路でもこれらの濃度が低下していることがわかりました。一方、オゾンは都市部の2倍近い高濃度であることが明らかとなりました。オゾンは植物に対し最も危険なガス状大気汚染物質のひとつとされているため、同地点において、野外実験を実施しました。一方は現地大気をそのまま通気し、もう一方は活性炭フィルターで大気汚染物質を除去した正常空気を通気して、その中で丹沢産ブナ苗木を生育させたところ、現地大気中のブナ苗木は生育が阻害され、3生長期間(4~10月のブナ生長期間を3回含む2年半)後の生長量が後者に比べ半分程度になり、オゾンをはじめとする大気汚染物質がブナへ悪影響を及ぼしていることが明らかになりました。

写真:丹沢の大気中で育てたブナ

丹沢の大気中で育てたブナ

写真:清浄空気中で育てたブナ

清浄空気中で育てたブナ

〇山頂付近のオゾンリスク評価

パッシブサンプラーという器具を用い、電源のない槍洞丸山山頂付近で月ごとの平均オゾン濃度を測定し、標高や下層植生の状況などが異なる場所でのオゾンリスク評価を実施しました。その結果、標高が高い芭蕉のほうがオゾンリスクが高く、さらにシカの食害などにより下層植生が貧弱な場所でオゾンリスクが高いことがわかりました。

 

写真:大気汚染の植物への影響を調べる装置

大気汚染の植物への影響を調べる装置

今後の展開

今後も西丹沢犬越路における大気汚染物質のモニタリングを継続します。都市域のオゾン濃度は現在増加傾向にありますが、西丹沢犬越路のオゾン濃度は以前より低い濃度で横ばいに推移しています。その原因を明らかにし、今後のオゾンのブナへの影響の変化を予測したいと考えています。また、山頂付近のオゾンリスク評価では、現在進められている植生保護柵の設置について、オゾンリスクの観点からも効果検証ができればと考えています。また、農業技術センターと共同で、ブナ枯れの原因のひとつとされる土壌乾燥化のブナへの影響を調査しています。

研究職員のプロフィール(研究歴、受賞歴等)

平成9年神奈川県入庁、環境科学センターに配属以来、大気汚染にかかる調査研究を実施しています。