更新日:2023年10月11日

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研究内容の紹介(水産技術センター)

水産技術センターの研究内容を紹介するページです。

三浦の野菜残渣を活用したムラサキウニの養殖技術開発 ~キャベツウニ~

企画指導部 臼井一茂

臼井さん(取材時)

研究を始めた経緯

神奈川県沿岸では15年ほど前から、海藻が消失する磯焼けが発生し、その原因生物である暖海性の植食性魚種のアイゴと、在来種のムラサキウニの除去が行なわれてきました。ムラサキウニは雑食性であることから、様々な食材を与えたところ、好き嫌いはあるものの様々な食材を食べたのです。特にキャベツなどの野菜が気に入ったのか、飽きることなく食べ続けました。

そこで、ウニの食用部位である身(生殖巣)が肥大する4~6月にかけて、同時期に生産される三浦半島名産であるキャベツの流通規格外品を与えたところ、身が大きくなり、しかも甘くて苦みや臭みが無く、さらに臭みが無く美味しくなることを発見しました。野菜だけで育てるウニの養殖は全国初の取組です。
これにより、磯焼けの原因物質であるムラサキウニと、規格外で流通しないキャベツの有効利用による、新たな地域産品を創出する可能性がでてきました。
今後は、実用化に向けた短期養殖の技術開発のため、ウニの生理生態や飼育特性、そしてより美味しく、より身が大きくなる給餌方法など、具体的な問題を解決していきます。

磯焼け

磯焼けした岩礁に分布するムラサキウニ

 

キャベツウニ

 

展示水槽のキャベツを食べるウニ

 

研究の内容

ムラサキウニに三浦半島で生産されているキャベツやダイコン、ブロッコリーなどの野菜を与えたところ、よく食べ、そして食べ続けるのが観察されました。しかし、ジャガイモやサツマイモなどは殆ど食べず、臭いの強い春菊などは嫌がりました。
痩せたムラサキウニに流通規格外のキャベツを与えて4~6月に短期養殖を行ったところ、養殖開始前の身入り率は2%程だったものが、平成28年度は飼育日数77日で平均12.5%、平成29年度は飼育日数58日で平均10.1%、平成30年度は58日で平均12.4%と十分に身入りすることを確認できました。なお、最大では18.4%に達する個体もありました。
ウニの甘味成分はグリシンとアラニンが主成分です。キャベツ、海藻類、国産乾燥コンブ、茹でブロッコリーを餌料とした比較試験を行ったところ、キャベツのみで飼育するとグリシン、アラニン含量が最も多く、流通する天然ウニと同等量を含んでいました。そして苦味成分のバリンの含量が最も少ないことが明らかになりました。
ウニは水温変化に弱く、輸送時の温度変化が致命的になることや、太陽光にも弱いことも分かってきました。底より横壁に集まること、アンモニアの排出がとても多いこと。そして、海水温が17℃以上から餌をよく食べる事、25℃に達すると小さな刺激で産卵が始まることなど、飼育に関わる生態も分かってきました。

実入りキャベツウニ

身入りの様子

 

実入り最大

身入り最大のウニ

 

今後の展開

効率的に大量飼育するためには、(1)全てのウニにまんべんなく餌を十分に与える方法、(2)たくさん飼育するための水槽の形状などの改善、(3)調子を落としやすい水温変化を少なくすることなど、養殖方法の改善が必要となりました。また、更に身入りを良くする餌の組合せ、茶褐色をした身の色合いの改善方法の開発が必要となりました。

現在、可食部である生殖巣の肥大化と産卵期での成熟について細胞レベルでの観察による生理生態を解明するとともに、生殖巣の色合いの成分について研究しています。これらが解明できれば、鮮やかな黄色をした身にする補助餌料の開発と、マニュアル化した飼育方法が確立でき、まもなく産地ブランド品として地域の飲食店で食べられるようになると思われます。

キャベツウニ飼育

飼育の様子

 

キャベツウニ肥大化

内臓に食べたキャベツ片と肥大化した身

 

研究職員のプロフィール(研究歴、受賞歴等)臼井さん

  • 平成22年4月 東京海洋大学客員准教授兼務(1年間)
  • 平成20年3月 日本水産学会論文賞:マグネシウムイオンの鎮静作用を用いたイカ活輸送
  • 平成30年11月 全国知事会 優秀施策(農林水産分野):キャベツでムラサキウニを育てる!!
  • 著書:塩辛づくり隠し技(創森社)、魚のあんな話、こんな食べ方(恒星社厚生閣)、食べちゃれクイズ(ダイヤモンド社)ほか

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