研究内容の紹介(畜産技術センター)

掲載日:2020年6月17日

新技術(OPU)を用いた効率的な後継牛確保対策

企画指導部企画研究課 森村裕之

森村さん(畜産技術センター)

研究を始めた経緯

2014年に県が県内酪農家を対象に行った調査では、牛舎のキャパシティの7割程度の頭数しか乳牛が飼養されていないという結果でした。言い換えれば、牛舎の3割が空いているということです。
それはなぜかと詳しく尋ねてみると
・雄牛ばかり生まれてしまった(雄牛からは牛乳は搾れません)。
・肉用子牛の相場が良かったので交雑種(ホルスタイン種の雌に黒毛和種の精液を人工授精して生産した肉用子牛)を中心に子牛を生産した。
・若い乳牛を北海道から買いたいけれど値段が高くて買うことができなかった。
などが多く回答されました。
次世代の搾乳牛となる後継牛を確保できない酪農家は、乳牛の世代交代が進まず、出荷乳量の減少から経営がピンチになりかねません。
乳牛は、約280日の妊娠期間を経て、2歳前後で初めて出産を迎えますが、産まれる子牛の性別は雄と雌の確率が半分ずつです。一度減ってしまった乳牛の頭数を増やし、出荷乳量を増加させるためには、牛乳を生産する能力の高い乳牛を選んで、後継牛となる雌子牛を計画的に生産することが必要です。
畜産技術センターでは、牛の卵巣内にある卵子を採取し、性選別精液で体外受精して雌子牛を計画的に生産するOPU(Ovum Pick Up:経腟採卵)を用いて県内酪農家の後継牛を確保する実証研究に取り組んでいます。

研究の内容

OPUでは、生きている牛の卵巣から開腹手術することなく、卵子を取り出します。写真のように術者が牛の直腸に手を挿入し(もちろん、専用のナイロン手袋をして行います)、直腸越しに卵巣をしっかり保持します。超音波画像を見ながら膣から特別な長―い採卵針を卵巣に刺して、中にある卵子を吸い出します。
吸い出した卵子は、雌子牛を生産するために性選別精液(性別が雌になるX精子を90%以上含みます)で体外受精して受精卵を育てます。ここからは実験室内での作業です。できるだけ卵子や精子にストレスをかけないよう温度・湿度・時間・培養液に細心の注意を払いながら、7~8日間培養器内でそれはそれは大切に育ててゆきます。そうして移植可能な段階に成長した受精卵は、代理母牛の子宮内に移植され、妊娠期間を経て雌子牛の誕生に至ります。
畜産技術センターでは、卵巣から採取する卵子の数を増やす前処理方法(ホルモン剤投与)の研究や体外受精卵の発育を高める培養方法の研究を行い、従来の方法より2~3倍の頭数の雌子牛を生産する技術を開発しました。
さらに、この技術の酪農現場での有効性を実証するため、卵子を取り出す牛の状況や酪農家の要望に合わせて体調管理や前処理を選択してOPUを行ったところ、所内試験と同様に多数の受精卵が生産されています。

卵子吸引卵巣受精卵

今後の展開

雌仔牛世界を見回してみると、牛の品種改良のために子牛の段階でDNA情報を調べ、将来の生産能力を評価するゲノミック評価が急速に普及しています。優れた遺伝的能力を持った乳牛を選抜して、その後継牛をよりたくさん確保することで、牛群の能力を飛躍的に高めることが可能な時代になってきています。
都市の中で営まれる県内の酪農は乳牛の飼養頭数を増やすことは難しいので、経営の安定化のためには個々の乳牛の能力アップが欠かせません。畜産技術センターでは、様々な状況の牛やゲノミック評価などの新しい技術に対応できるOPUの利用方法やたくさんの受精卵を生産する方法の研究を続けることで、優良後継牛の確保を助けて、酪農家の経営向上のお手伝いをしてゆきます。

研究職員のプロフィール(研究歴、受賞歴等)森村さんプロフィール(畜産技術センター)

平成7年神奈川県入庁。獣医師。長く家畜衛生業務を担当してきたが、現在は牛の繁殖技術や肉用牛の飼養技術に関する研究を担当。