あなたのみらいを見つけに行こう!

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スポーツ活動を通じて見つけた夢
~小児慢性特定疾病児童の自立とスポーツ~

田村勇志くんが車いす上で神宮球場のマウンドにいる様子

田村勇志くん 神宮球場の始球式の雄姿

 

田村 勇志(たむら ゆうじ)くん

川崎市在住・小学校6年生

2019年11月2日、東京六大学野球の秋季リーグ戦で27,000人の観客が見守る中、秋晴れの神宮球場のマウンドに上がったのは、慶應義塾大学野球部背番号「6」のユニフォームを着た、小学校6年生の田村勇志くん。

「緊張と楽しみでドキドキワクワクする!」と笑顔いっぱいに話してくれた早慶戦の始球式で、勇志くんは160人のチームメイツの声援を受け、ホームベースに向かって車椅子を少し右に向けて、頭の後ろまで大きく腕を振りかぶり思い切りボールを投げました。

“チームメイツ”として憧れの慶應義塾大学野球部に入団

川崎市の小学生、田村勇志くんは、特定非営利活動法人Being ALIVE Japanが行っている、スポーツを通じて長期療養中のこどもたちの仲間を創出し、青春と自立を支援するプロジェクト「TEAMMATES」の“チームメイツ”として、2019年2月に慶應義塾大学野球部に入部しました。
入団式ではユニフォームと背番号をもらい、その後月に数回1時間ほどのグラウンドでの練習や、大学のお祭りなどにも参加して交流を深めてきました。

しかし5月からは集中的な手術と治療のため名古屋の病院に入院することになり、始球式の前日まで練習はお休みしていたのです。久しぶりの練習となった11月1日、勇志くんは合宿所のブルペンで、このプロジェクトを担当する5人の部員と一緒に投球練習をしました。

慶應義塾大学野球部 入団式でチームメンバーと集合したり、ユニフォームを渡されたりしている様子と、練習風景

©Being ALIVE Japan
慶應義塾大学野球部の入団式/練習の様子

「今までの練習は軟球だったけれど明日は硬球。硬球は今日初めて投げるんです。入院していたので5ヵ月も間があいてしまって…」と最初は少し不安げでしたが、少しずつ捕手との間隔を広げながら、感覚を思い出していきました。車椅子に座っての投球なので、腰を回転させられないぶん、上半身と肩・腕の力を使って投げる球は、本番と同じ18mの距離まで広げても、キャッチャーミットの「ビシッ!」という快音が聞かれるほどの強さです。入院中は車椅子で過ごしていたため今は足の筋肉がほとんどない状態ですが、この上半身の力はみごとです。

部員のお兄さんやマネジャーのお姉さんとも和気あいあい、冗談を言い合ったりアドバイスをしてもらったり、勇志くんの笑顔と、チームメイツたちの温かい励ましの声にあふれた練習でした。

スポーツとの出会い、野球との出会い

田村勇志くん 入院中にスポーツ教えてくれるお兄さんたちと一緒に病室での一枚

©Being ALIVE Japan
入院中にスポーツ教えてくれるお兄さんたちと

勇志くんは、軟骨無形成症という小児慢性特定疾病に指定されている生まれつきの病気のため、小さい頃から入退院を繰り返す日々でした。

「東京にある国立成育医療研究センターに入院していたのですが、院内でスポーツ活動をすることがありました。そこでBeing ALIVE Japanの活動を知りました。小学校2年生の頃です。」

そして、3年生のころに野球に出会いました。当時学校で仲の良かったお友だちは次々と少年野球を始めるようになったそうですが、勇志くんは病気のために少年野球チームに入ることはできませんでした。
その後、5年生の時、同じ病気の先輩から、「TEAMMATES」のプロジェクトで慶應義塾大学野球部活動に参加していることを教えてもらいました。巨人戦を観にいって野球が好きになっていたので、自分でもやってみたいと思うようになり、参加することにしたそうです。

勇志くんは「このプロジェクトに参加して、野球がすごくうまくなったと思う!」と誇らしげに話してくれました。

「慶應義塾大学での練習はノックやキャッチボール、練習試合などですが、球速を計ってもらったんです。最初は62km/hくらいしか出なくて70㎞/h投げるのが目標でしたが、今は71㎞/h出るようになった!!それに打つほうでは、ぼくスイッチヒッターなんですよ!右は空振りしてしまうけれど当たったときの打球は強い。左は空振りしないけれどゴロになってしまうから、もっと両方練習しないと!!」と、その目はもっと先を見ています。

「周りの子の反応?友だちがネットでぼくのことを検索してくれて『すごい!!なんでこんなにいろいろなところに出ているの??』って、みんなびっくりしている(笑)」

野球少年が見つけた未来

勇志くんは、白い歯が印象的な、笑顔がとても素敵な少年です。
「慶應大学の野球部の人たちは、勉強しながら野球も強いのがすごい!ぼくもそんなふうになりたい!地元には野球少年が多くて、自分は下手すぎてみんなに追いつけるかな?と思っていたけれど、今は追い付けたことがうれしいです」と、キラキラした目で話してくれました。

それともうひとつ、選手たちと一緒に練習をするようになってから、勇志くんにはある夢ができました。
「ぼくは野球が大好き!でもプロの選手になることは難しいので、選手を支えるトレーナーになりたいです!!筋肉の勉強をいっぱいして、なれるといいな!!」
小学校に通っているだけでは決して経験できない多くの大学生との触れ合いの時間は、勇志くんにとって野球の上達はもちろん、自分が進みたい道を教えてくれる時間でもあったようです。

今、治療しながらスポーツができる幸せ~そばで支えるご家族の思い~

勇志くんの練習をそばで見守るお母様は、このプロジェクトに出会ったとき「楽しめることが少ない単調な入院生活の中で、いろいろなスポーツや選手と子どもたちをつなげてくれる活動と知って、ぜひやらせたい」と思われたそうです。

「治療中でもスポーツが楽しめる素敵な時間なので、全力でサポートしていこうと思っています。それまでは『いつかできるようになったら』『退院したら』やらせたいと思っていましたが、それが『今、治療しながら』でもできる。我慢しなくても大丈夫。小学生の、貴重な成長過程の中でできることに、とても感謝しています。もちろん送り迎えもあるので家族も忙しくなりますが、私も一緒に楽しんでいる感じです。」と、お話ししてくださいました。

田村勇志くん 慶應義塾大学野球部員との練習風景

©Being ALIVE Japan
慶應義塾大学野球部員との練習風景

「学生さんたちは細かく手取り足取り教えてくださるので、すごく上達しました。野球がやりたくても通常の子どものようにはできなかったのですが、このプログラムのおかげで野球ができるようになって、本当にうれしいみたいです。練習が終わると帰りには『次はいつ?』と聞いてくるんです。積極性が増したし、日々の楽しみも増えました。」と、勇志くんの変化も感じていらっしゃいます。

「2月に入団してから5月に名古屋の病院に入院するまでは、それこそ毎週のように活動に通っていました。でも5月からは活動に参加できず、本人はとても残念がり、悔しがっています。それでも、早く退院して活動を再開したい、チームメイトの元へ戻りたいという気持ちが、痛い治療やリハビリを頑張るモチベーションにつながっているようです。」
現在お母様は名古屋の病院近くの患者・家族滞在施設に滞在して、勇志くんに付き添い、自宅には週に1日くらい帰ってくるような生活だそうです。勇志くんの様子を一番そばで見ているお母様は、その勇志くんの「野球をやりたい」という強い思いを感じているようでした。

そして、「活動を楽しめることにも感謝していますが、何より、応援してくださる方がたくさんいることがありがたく、自分だけのためにみんなが応援してくれていることについて、彼にも感謝の気持ちを学んでほしいと思います。将来はこんな優しくて文武両道なお兄さん達のように成長して欲しいですね」と、母としての願いがこもったことばもありました。

北野華子さんからの応援メッセージ
~誰にでも、可能性にチャレンジする機会はある~

北野華子さん顔写真

北野 華子さん NPO法人「Being ALIVE Japan」理事長

私自身が長期療養児でした。
中学卒業を控えていた頃、私は自分の療養生活の状況と身体面を考慮して、通信制の高校への進学を考えていました。でもその時、療養中の私の楽しみが学校生活だと知る院内学級の先生が「普通校をまず受けてみたら?行ってみて続けるのが難しそうだったら、通信制に行くのでも遅くはないよ。」と、私と両親に勧めてくれました。
療養中は最初からどうしても自分の可能性を過小評価し、ここまでと線を引いてしまいます。周りからも無理をしなくても大丈夫と声かけられることで線を引いてしまうこともありました。でも、院内学級の先生に背中を押される形で普通校に進学し、そこでの高校生活を通して、自分の可能性に線を引くか否かは自分次第であることに気づきました。そして、自分の可能性と向き合う療養生活に変わりました。

私自身の経験から、同じように長期療養するこどもたちには、チャレンジをする道筋をまずは描くことを大事にしてほしいと伝えたいです。誰にでも可能性にチャレンジする機会はあります。また私自身もスポーツのチカラを通して、一つでも多く長期療養のこどもたちの可能性や世界を広げる機会や場、支えてくれる存在を、病院や社会の中に拡げていきたいと思います。


北野 華子さん

NPO法人「Being ALIVE Japan」理事長。チャイルド・ライフ・スペシャリスト。
慶應義塾大学環境情報学部卒業、京都大学大学院医学研究科社会健康医学専攻を修了。資格取得のために米国に留学し、アトランタパラリンピックのレガシー団体「BlazeSport America」やシンシナティ小児医療センターでの実践を経て帰国。埼玉県立小児医療センターでチャイルド・ライフ・スペシャリストとして勤務しながら、入院中の子どものスポーツ活動を展開。2016年2月にBeing ALIVE Japanを立ち上げた。

Being ALIVE Japan ロゴ(別ウィンドウが開きます)

特定非営利活動法人Being ALIVE Japan

スポーツを通じて、長期療養中のこどもたちの仲間(TEAMMATES)を創出することで、青春と自立を支援する非営利団体です。

公式ウェブサイト:https://www.beingalivejapan.org/

公開:2020年1月
更新:2020年2月
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