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女性農業後継者の交流の場 「農娘会」活動レポート

女性農業後継者の交流の場 「農娘会」活動レポート

「男社会」というイメージが強い農業の世界ですが、横浜市の女性農業後継者が立ち上げた「農娘会」では、野菜の栽培に関する勉強会や農家の視察、マルシェへの出店などを通して、同じ境遇で農業に取り組む女性同士が交流の輪を広げています。

広がる「跡取り娘」のネットワーク

農娘会は、同世代で農業のことを話せる場を作ろうと、平成27年にJA横浜の女性農業後継者6名で結成されました。現在は、野菜や果樹などさまざまな農業に従事する11名のメンバーが精力的に活動しています。

平成31年2月28日に藤沢市内で行った研修では、母娘で野菜農家を営む「みどりふぁーむ」(藤沢市亀井野)と、農家レストラン「いぶき」(藤沢市遠藤)などを視察。「みどりふぁーむ」では、女性就農者同士和気あいあいとした雰囲気の中で、経営方針やトマトの栽培方法などについて話を聞きました。

広がる「跡取り娘」のネットワーク

母娘3人、農作業に汗

「みどりふぁーむ」は、田中美登利さんと長女の悠子さん、次女の千砂さんの3人で経営しています。「始めは女性だけで務まるのかと、周囲に心配もされました」と振り返る美登利さん。それでも、自らトラクターの免許を取得し、千砂さんも大型特殊の免許を保有するなど、男性顔負けの行動力で家業を切り盛りしています。

母娘3人、農作業に汗

新鮮トマトを求め早朝から行列

「みどりふぁーむ」で栽培しているのは、ハウス2棟(600坪)で育てるトマトをメインに、リーフレタスやホウレンソウ、コマツナなど。最近は、使い勝手の良さから需要が高まっているミニダイコン、ミニハクサイにも力を入れています。中でも代名詞となっているのが、二本仕立てにこだわって栽培するトマトの直売です。千砂さんは「以前の一本仕立てと比べて根の張りが良く、品種や施肥量を変えたわけではありませんが味にコクが出るようになりました」と胸を張ります。販売時間も特徴的で、オープンは早朝の6時30分。これには農娘会の皆さんも一様に驚きの声をあげていました。直売所に面した道路は朝の散歩やラジオ体操に向かう人が多く行き交い、以前から野菜を売ってほしいと頼まれることが多かったそう。10年ほど前に直売を始めたところ口コミで評判が広がり、多い日は300人もの人がトマトを買い求めに訪れます。

新鮮トマトを求め早朝から行列

女性目線で「お得さ」にも力

トマトは、実がやわらかくなりすぎたものや形が悪いもの、割れ・傷があるものなどの状態で価格を分け、1㎏単位で100円から販売しています。美登利さんは「昔は、良いもの以外は売りたくない」と考えていましたが、お客さんからの要望もあって廃棄していたトマトも提供するように。「安く販売することでお客さんに喜んでもらえるし、廃棄ロスがなくなりごみの削減にもつながっています」と話します。千砂さんも「母の考えを取り入れて経営していることもあり、主婦目線に立った価格設定や、販売に向かないトマトをおまけでプレゼントするなど、女性ならではのアイデアを取り入れている点もお客さんに喜ばれる理由かもしれません」と話していました。

女性目線で「お得さ」にも力

母娘で農業「幸せな時間」

娘2人との「三人四脚」で農業を行う美登利さんは、「娘たちは本当によくやってくれて、一緒に仕事ができるのは幸せです」と目を細めます。農娘会のメンバーには、「女性が農家を継ぐのは素晴らしいこと。これからは縁の下の力持ちだけではなく、女性も積極的に農業に関わっていく時代です」とエールを贈りました。親子愛がひしひしと伝わってくる田中さん一家のお話に、参加者たちは「思わず聞き入ってしまいますね」と笑顔を見せていました。

母娘で農業「幸せな時間」

国家戦略特区を活用した農家レストラン

続いて農娘会が訪れたのは、農家レストラン「いぶき」です。地方創生を目的に、農地での店舗開業を可能にする国家戦略特区を活用した施設で、平成30年5月に開業しました。農家レストラン設置の特例が認定されたのは全国では6例目、関東では初となります。

国家戦略特区を活用した農家レストラン

地場野菜たっぷりのランチを堪能!

「いぶき」では、地元藤沢で採れた野菜や畜産品を中心にブッフェ形式で料理を提供しています。麹や醤(ひしお)といった発酵調味料を使った健康志向の料理が売りで、決して立地環境に恵まれているわけではないものの、当日は女性客を中心に満席の賑わいぶり。農娘会のメンバーも、取り皿一杯にメニューを盛り付け、満足そうな表情で頬張っていました。

国家戦略特区を活用した農家レストラン

地域と農業振興の拠点に

食事の後は、レストランを経営する株式会社いぶき代表取締役の冨田改さんに、開設までの経緯や今後の展望などの話を聞きました。冨田さんは「地元の農家を巻き込んで、農業振興や地域活性化につながる施設運営を目指しています」と語ります。レストラン経営以外にも、藤沢市北部の地域と農業の再生プロジェクトに取り組むNPO法人で理事長を務め、山野草園「藤沢えびねやまゆり園」の運営なども担っています。

地域と農業振興の拠点に

菖蒲園の開園なども目指しているそうです。これらの取り組みが観光客の増加につながり、「いぶき」に足を運ぶ人が増えれば野菜の購入先である農家も潤う―。冨田さんは、こんな好循環を生み出す拠点として、「いぶき」を活用していこうという青写真を描いています。「どこにでも可能性はありますが、大切なのはそれに気が付けるかどうか。皆さんも、農業を通していろいろなことにチャレンジしてください」と話しました。地域と農業を愛する冨田さんの言葉に、農娘会のメンバーは熱心に聞き入っていました。

地域と農業振興の拠点に

収穫感じた農家の未来

研修を終えた農娘会リーダーの松本こずえさんは、「みどりふぁーむでは女性が輝く農家の未来を見ることができ、国家戦略特区を活用した「いぶき」についても、農業経営の新しいスタイルとして興味深く話を聞くことができました」と振り返っていました。

地域と農業振興の拠点に