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海風と半島が育むレモン 佐宗喜久子さんが守りたい「真鶴の景観」

海風と半島が育むレモン
佐宗喜久子さんが守りたい「真鶴の景観」

取材対象
佐宗 喜久子さん

潮騒と鳥たちの歌声がこだまする真鶴半島。佐宗喜久子さんは、この“安住の地”で、レモンやオレンジなどを栽培する農園「オレンジフローラルファーム」を運営しています。佐宗さんは、「安心して食べられるレモンを栽培し、この景観を守っていきたい」と語り、今日も“わが子”に愛情を注いでいます。

たどり着いた“安住の地”

佐宗さんが真鶴半島に移住したのは、今から20年ほど前。東京で生まれ育った佐宗さんは、子どもの独立を機に夫との「海の近くで住みたい」との願いを叶えるため一念発起し、湘南や房総半島、さらには海外まで巡った上で、真鶴半島を選びました。心を奪ったのは、半島から広がるオーシャンビューと手つかずの自然。縁あって譲り受けた畑に夫婦で手を取り合って少しずつ手を加え、現在の自然と農園が共存する環境が整えられてきました。

たどり着いた“安住の地”

真鶴半島が育む果実たち

剪定ばさみを借り、レモンを収穫させてもらうと、切り口からパッと芳しいシトラスの香りが飛び出しました。「この子も、とってもいい香りなんですよ」と、佐宗さんの送る視線はまるでわが子の成長を見守る母親のよう。

オレンジフローラルファームの名の由来は、かつてこの地に植えられていたミカンに由来しており、5段に渡って広がる農地には、ポルトガル原産で一般的に流通するレモン「リスボン」や日本原産のレモンに加え、レモンの2倍の大きさにもなる「フェミネロオバーレ」といった珍しい種類が栽培されています。「真鶴半島が生んだミネラルたっぷりの海風と、林の落ち葉で作られる豊かな土壌、そしてこの温暖な気候。真鶴半島の恵まれた環境のおかげで、本当に良く育ってくれています。『ここは日本のシチリア』なんて言葉をいただくこともありますね」

真鶴半島が育む果実たち

皮まで食べられるレモンを目指して

佐宗さんのこだわりは、独自に編み出した農薬を使用しない自然な農法です。きっかけは、佐宗さん自身が安心して食べることのできるレモンを作ってみたかったから。草刈りや病虫害などの障害はありますが、自身の目指す「皮まで食べられる安心・安全なレモン」のため、これまで試行錯誤を繰り返してきました。

ついにたどり着いた「皮まで食べられるレモン」の味を聞きつけ、都内有名レストランからの注文も多く、「連絡をもらった時には、必ずこちらに足を運んでいただき、この環境に納得いただいて契約をしています」と話す佐宗さん。一つ一つの取引先が佐宗さんとの信頼の上で成り立っています。
また、佐宗さんによると、レモンの収穫体験は同園が日本で初めて取り入れたといいます。現在も収穫体験を受け付けている他、横浜市の小学校の体験学習を受け入れ、食育にも取り組んでいます。

皮まで食べられるレモンを目指して

主婦たちの就労の受け皿に

同園は、子育て中の主婦の雇用の受け皿にもなっています。「ここで働いてくれている主婦の方々は一個一個のレモンをわが子のように愛を注ぎながら作業をしてくれます。こうした思いは、きっと受け取った側も感じてくれるはず」と柔らかな笑みを浮かべます。農業における女性活躍について水を向けると佐宗さんは、「男性のイメージが強い農業ですが、先ほどの発送する時の気遣いのひとつをとっても、女性の持つ柔軟性が生きてくるところは大きい。それに、他の人と同じことをすると、ビジネス的な面で頭打ちとなってしまいますが、女性ならではのアイデアでそれを打破することもできるはずです」と教えてくれました。

主婦たちの就労の受け皿に

農園を通し、景観を守る

そんな佐宗さんは現在、ここで採れた作物などを活用した新しいスタイルのカフェレストランの開業に向けて、オリジナルアイディアを日々アップデートしています。「自分の納得のいくものを作りながら、農園を通して真鶴の景観を守っていきたい」と、芳醇な香りを放つレモンに穏やかな瞳を向けていました。

農園を通し、景観を守る