かながわなでしこファーマーズ

「収穫体験のできる農園」の先へ 10㎡の畑から始まったステップアップ 大久保
            真美さん

「収穫体験のできる農園」の先へ
10㎡の畑から始まったステップアップ 大久保 真美さん

取材対象
大久保 真美さん

横浜市泉区は、東京ドーム約53個分にあたる247haの経営耕地面積を有する市内最大の農業区です。その中で、約5,000㎡の畑を女手一つで耕し、ニンジンやダイコン、トウモロコシ、サツマイモなど10品目程の野菜を育てているのが、就農から3年6カ月(令和5年2月現在)の大久保真美さんです。家庭菜園から農業のキャリアを歩み出した大久保さんは、行政の支援を着実に身に着け、当初からの目標である親子の笑い声が響く「収穫体験のできる農園」の夢を叶えています。

子育てと仕事の両立

「生のトウモロコシが、こんなにおいしいなんて」。家族旅行の中で出合った採れたてのトウモロコシが、大久保さんの人生を大きく変えました。大久保さんは当時、片道約1時間半をかけて東京へと通勤する日々。子育てしながら働く中、仕事と家庭を両立する厳しさを痛感していました。
「元々いつか起業したいという思いも持っていましたし、子どもができて、仕事と家族と両立を図りたいと思っていました。それに、収穫体験で私が感じた、土に触れて、おいしい農作物を食べる感動を伝えることができるなら、農業に挑戦してみようと思ったんです」

子育てと仕事の両立

10㎡からのスタート 行政の支援

大久保さんが最初に門をたたいたのは、かながわ農業アカデミーの就農企業参入課の相談窓口でした。九州育ちの大久保さんにとって、子どものころから家の周りに広がる農業風景は見慣れたものであり、農業は縁遠い存在ではありませんでした。しかし、見るのとやるのとでは、全く異なるのはどこの世界でも同じ。県の窓口からは、まずは家庭菜園から始めることを勧められました。

10㎡からのスタート 行政の支援

大久保さんは早速、自身が生活する横浜市の「栽培収穫体験ファームプログラム」に申し込み、現役の農家の教えを受けながら10㎡の畑を耕しました。このプログラムで基本的な農業の流れを学ぶと、より実践的に学ぶ「かながわ農業アカデミー」へとあゆみを進めます。「独立就農チャレンジコース」では1年間、午前9時から午後5時まで、天気の見方や良い土壌の作り方、病害虫の対応法といった知識に加え、500㎡の農地で種まきから出荷までの農業のサイクルをみっちり体に染みこませました。「想像していたよりも大変な農業の現実を知りました。それでも、自分が育て上げたものを食べると、充実感がありました」と振り返ります。

アカデミー卒業後、令和元年8月に就農し、横浜市泉区に「いろどり農園」を立ち上げます。就農後も、県農業技術センターのセミナーを受講する等、学びの場に参加をし続け、かながわなでしこ farmers’では、女性就農者同士の横のつながりを手に入れました。「行政にはいろいろな支援をしていただきました。でも、ひとつの講座が終わるたびに、次のステップはここだよ、と示してくれたおかげで、迷わず進むことができました」

10㎡からのスタート 行政の支援

卒業後も続く恩師のバックアップ

「就農しても、毎日勉強です」とはにかむ大久保さん。例えば、農作物の袋詰めの作業では、「2時間くらいで終わるかな、と思って作業を始めてみると、実際には6時間くらいかかってしまったり、いろいろな失敗をしました。就農3年目でようやくある程度の目算がつくようになりましたけど、やっぱり独り立ちしてみないと分からないことも多いですね」と苦労を口にします。そんな時には、2人の子どもたちが手助けに入り、「袋詰めをしながら、友達のことや学校のことを話したり、親子のコミュニケーションの場にもなっています」と微笑みます。

卒業後も続く恩師のバックアップ

大久保さんの成長を見守ってきたかながわ農業アカデミーでの担任の先生で、現在は農業技術センター横浜川崎地区事務所の曾我部普及指導員は、「大久保さんは、アカデミーの頃から積極的に質問してきて、卒業時には、成績優秀者の賞も受賞していました。ただ、自分の畑を持つと悩みも出てきて、その大変さから挫折してしまう人もいます。それでも大久保さんは時折、相談をしてくれて、サポートすることができました」とたくましく育つ弟子の姿に目を細めます。

この日、大久保さんは収穫後のニンジン畑を耕運機で整える整地の作業を披露してくれました。大久保さんが操る自慢の一台はクボタ社製のトラクター「NB21」。小回りが利きつつ、21馬力を誇る、女性が扱うのにぴったりな一台です。大久保さんは、「このトラクターの購入も、曾我部さんに相談したんです。金額の面では行政の補助金が活用できることや、畑の広さに合った機材選びについても、具体的にアドバイスしてくれました。卒業後も、成長を見守ってくれる方がいてくれるって心強いです」と話し、慣れた手つきでシフトレバーを動かしていました。

卒業後も続く恩師のバックアップ

新たな目標へ

4期目を迎える「いろどり農園」は、大型量販店への出荷や日本を代表する小売ブランドなど、その販路を徐々に拡大させています。他農園との差別化にも取り組み、一般的なオレンジ色のニンジンだけでなく栽培は難しいが栄養価の高い黄色のニンジンも育てることで、小規模農業ならではの付加価値の高い農作物を栽培し、出荷しています。

また、農業を志した当初から胸に秘めていた収穫体験の開催にも就農1年目から挑戦しており、近隣の子育てサークルや泉区主催の農業体験などを受け入れています。「農作物を作る人のことも知ってほしい」と、農作物の紹介パンフレットを自作し、農作物を育て、収穫し、食べる喜びを伝えています。

新たな目標へ

大久保さんは、「正直、いまの農園が収支的に大きく黒字になっているかと聞かれたら、まだまだ改善の余地があると思っています。でも、私の場合は夫は働いてくれているし、子どもたちを見守って受け止めてあげることができる。仕事と子育てのバランスを図ることができています」と充実感をにじませています。今後に向けて「いつか、『先週はディズニーに行ったから、今週はいろどり農園に行こう』って言ってもらえたらな」と、新たな目標を語り、着実にステップアップをする準備を進めています。

新たな目標へ