東南アジアではデング熱など、蚊が媒介する感染症が毎年流行していますが、こうしたなかで厚生労働省では2009年2月23日に、蚊が媒介する感染症のひとつである日本脳炎の新しいワクチンを承認しています。
温暖化の進展を踏まえ、蚊が媒介する感染症として改めて「日本脳炎」について考えます。
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日本脳炎とは?
日本脳炎は日本脳炎ウイルスの感染によっておこる中枢神経の疾患です。ヒトからヒトへの感染はありませんが、日本脳炎ウイルスを持つ蚊に刺されたブタなど動物の体内でウイルスが増殖され、そのブタを刺した蚊(コガタアカイエカ*1など)がヒトを刺すことにより感染することが知られています。ヒトの場合、ウイルスを持つ蚊に刺されても多くは不顕性感染*2で終わります。発病率は100人から1,000人に1人程度で、発病すると3分の1は死亡、3分の1は重い後遺症を残すことが知られており、特に幼児や高齢者では死亡するリスクが高いと考えられています。
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日本脳炎患者の発生状況は?
日本脳炎の全国の患者数は、1967年以前は年間1,000名から2,000名とも報告されていましたが、ワクチン接種が開始されてから急速に減少し、1992年以降は10名以下に激減しました。
神奈川県でも1990年に2名の患者が報告されて以降、患者の発生は報告されていません。
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日本脳炎の流行を監視!
厚生労働省では「感染症流行予測調査」として、日本脳炎の感染源となるブタの日本脳炎ウイルス抗体保有状況を調査し、日本脳炎ウイルスの侵淫度の追跡および流行予測を行っています。神奈川県でも、毎年この調査に参加し日本脳炎の流行の監視を行っています。 |
<感染源となるブタの全国の抗体保有状況>
全国のブタの日本脳炎ウイルス感染は、九州、中国、四国地方等の西日本を中心に毎年見られています。2006年、2007年度と比較して2008年度は、10月末までに関東でも抗体保有率が80%を超え、東北でも50%を超える地域がありました。
時期、地域により抗体保有率に差がありますが、全国でウイルス感染が報告されています(図1)。 |
図1 ブタの日本脳炎ウイルス感染状況(国立感染症研究所 H.P.より) |
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<神奈川県における感染源となるブタの抗体保有状況>
神奈川県では2008年度、生後5ヶ月から8ヶ月齢の県内産のブタ210頭を対象に、7月から12月にかけて計13回、血清中の日本脳炎ウイルス抗体*5の測定を行いました。そして、抗体価の高いものについては、更に最近の感染抗体*6であるかどうかを判定するため、確認検査を実施しました。
以下の表をみると、神奈川県では9月下旬から日本脳炎ウイルス抗体が検出され始めることや、11月中旬を除き12月初旬まで各回の抗体保有率は10%であること、また、10月下旬の検体については最近の感染であることがわかりました。このことから神奈川県においても、9月下旬から日本脳炎ウイルスを持つ蚊による感染の機会があることが示されました(表)。
表 2008年度 神奈川県のブタにおける日本脳炎ウイルス抗体保有状況 |
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日本脳炎の予防に向けて
厚生労働省では、ワクチン接種による重篤な副反応*3が報告されたため、2005年5月30日から日本脳炎ワクチンの定期接種における勧奨を差し控えており、全国的に予防接種率は80%から10%未満に激減しました。こうしたなかで、2009年2月23日に新しいワクチンが承認されるなどの新たな動きもみられます。
日本脳炎の予防に向けては、蚊への対策が何より大切です。流行地域(図2)へ旅行される方は、外出時に長袖、長ズボンを着用する、虫除けスプレー等を使用する等、蚊に刺されないように十分に注意してください。またワクチン接種については、かかりつけの主治医と良くご相談ください。 |
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*1 |
水田、灌漑溝、湿地、河川敷、池沼などで発生します。 |
*2 |
感染しても気がつかない程度で済んでしまい発症しないこと。 |
*3 |
急性散在性脳脊髄炎(ADEMアデム)は、通常70~200万回の接種に1回程度、きわめてまれに発生すると考えられています。万が一発生しても通常は軽快し、その後の再発はみられません。ワクチン接種後数日から2週間程度の間に発熱、頭痛、けいれん、運動障害等の症状があらわれます。 |
*4 |
日本脳炎ワクチン接種に係るQ&A(平成21年5月末改訂版)による |
*5 |
日本脳炎ウイルス JaGAr01株に対する赤血球凝集抑制(Hemagglutination Inhibition:HI)抗体 |
*6 |
2-Mercaptoethanol ( 2-ME )感受性抗体( IgM 抗体) |
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(微生物部 原田 美樹) |
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