1 患者発生動向 |
平成18(2006)年には、腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症患者及び無症状病原体保有者が神奈川県においては210例報告された。平成17年に比べて26%増加しており、特に横浜市、川崎市を除く地域では約2倍の報告があった(表1)。
平成18年の月別報告数は、例年同様、夏季に流行のピークがみられたが、平成16年、17年は7月、8月の2ヶ月に集中していたのに比べ、平成18年は7月から11月の5ヶ月にわたって報告があった(図1)。
年齢別にみると、平成18年のEHEC感染者は例年同様0~9歳が最も多く、20歳台がこれに次いでいた(図2)。
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2 腸管出血性大腸菌検出動向 |
平成16年から平成18年に報告されたEHEC感染者の分離株の血清型は、O157が75~79%を占めていた。O26は14~16%、全国的に増加傾向であるO111は0.6~1.8%で、その他にも多様な血清型が検出された(図3)。
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平成18年の神奈川県域(横浜・川崎市を除く)の検出報告107例について分離菌株が産生しているVT(または保有している毒素遺伝子)の型をみると、O157ではVT1&2が68.0%を占め、O26はVT1が96.3%を占めた(表2)。なお、神奈川県域ではO111は分離されていない。
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O157が検出された75例の主症状については下痢、腹痛がそれぞれ66.7%、血便49.3%、発熱21.3%であった。なおHUS(溶血性尿毒症症候群)が1例報告された。O26が検出された27例の主症状と比較すると、O157では血便が約5割と割合が高くなっていた。また血清型不明からHUSが1例報告された(表3)。HUSの両事例ともに血便がみられた。
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3 集団発生
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平成18年の神奈川県域(横浜・川崎市を除く)では、2例の集団発生があった。1例は藤沢市において9月に発生し食品媒介と推定された。摂食者数1,002名、藤沢、横浜、東京、茅ヶ崎の医療機関から届け出のあった患者数は16名で、O157:HNT(VT2)が検出された。他の1件は藤沢市の幼稚園で11月に発生した。O26:H11(VT1)によるものであり、感染経路は特定できていない。
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4 分子疫学的解析(パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)解析) |
EHECの検出後、血清型、毒素型を確定し、さらに分子疫学的解析(PFGE解析)を行って感染源や感染経路の推定が行われる。
PFGE解析とはDNA遺伝子のパターンを比較し、パターンの同一性を解析する分子疫学調査法である。
図4は、感染源が同一と推定された事例で、食中毒発症者から分離された菌(O157で毒素型VT1&2)と同時期にこの事例とは関連がないと考えられた病院受診者から分離された菌(O157で毒素型VT1&2)のPFGEパターンを示したもので、これら4名のパターンがほぼ同一であったため同一の原因による感染であることが推定された(感染源の推定)。この例では聞き取り調査により同一のものを喫食していたことが判明した。図5は感染源が異なると推定された事例でパターンが異なるため感染源も異なると推定され、類似したパターンもみられるが、聞き取り調査では関連がないことが判明している。
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(微生物部提供)
図4 感染源が同一と推定された事例
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(微生物部提供)
図5 感染源が異なると推定された事例
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(企画情報部 折原直美)
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メモ
「腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症」は、感染症法に基づく発生動向調査において全数把握の3類感染症として医師の届出が義務付けられている。2006年4月に感染症発生届出基準が一部改正され、溶血性尿毒症症候群(HUS)発症例に限っては、便からVero毒素を検出した場合、並びに患者血清におけるO抗原凝集抗体または抗Vero毒素抗体検出によって診断した場合も届出が必要となっている。
さらに、食品が原因と疑われ、医師から食中毒の届出があった場合や、保健所長が食中毒と認めた場合には「食品衛生法」に基づき、各都道府県等において調査および国への報告が行われる。
一方、病原体サーベイランスでは、地方衛生研究所がEHECの検出、血清型別、毒素型別を行って、国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)に報告し、国立感染症研究所細菌第一部では送付された分離菌株について詳細な分子疫学的解析を行ってパルスネットで情報提供している
(国立感染症研究所 IASR Vol.27 No6 より抜粋)
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