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神奈川県微生物検査情報

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第167号

2006年9月
(平成18年12月27日発行)

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話題

インフルエンザの抗体保有状況調査について

毎年流行する「インフルエンザ」の季節が近づいてきました。今シーズンは、神奈川県域(横浜、川崎、横須賀を除く)ではまだインフルエンザウイルスの検出はありませんが、全国的に見ると、A(H1)型13例、A(H3)型4例、B型18例の検出報告(PCRのみの検出を含む、平成18年12月20日現在の国立感染症研究所感染症情報センター公表データより引用)があり、これらウイルスの動向が注目されます。今回は、感染症流行予測事業(※)の一つとして実施しているインフルエンザ抗体保有状況調査の結果について紹介します。

※感染症流行予測事業とは

集団免疫の現況把握および病原体の検索等の調査を行い、各種疫学資料と合わせて検討し、予防接種事業の効果的な運用を図り、さらに長期的視野に立ち総合的に疾病の流行を予測することを目的とした厚生労働省の事業です。神奈川県衛生研究所では、毎年、インフルエンザ流行期の前に、ワクチン接種前における一般県民のインフルエンザウイルスに対する抗体保有状況調査(感受性調査)を実施しています。

★調査方法について

平成18年9月に採取された0歳以上の県民266名(0~4、5~9、10~14、15~19、20~29、30~39、40~49、50~59、60歳以上の9区分の年齢群各30名ずつ、ただし5~9歳のみ26名)の血清について、インフルエンザA(H1N1)型、A(H3N2)型およびB型に対する年齢別抗体保有状況を調査しました。調査対象株は、A/ニューカレドニア/20/99(H1N1)A/広島/52/2005(H3N2)B/マレーシア/2506/2004(ビクトリア系統)B/上海/361/2002(山形系統)の4種類で、B/上海/361/2002(山形系統)を除く3株が今シーズンのワクチン株です。B型流行株には抗原性の異なる2系統があり、今シーズンのワクチン株がビクトリア系統株であるため、山形系統株の代表として昨シーズンのB型ワクチン株であるB/上海/361/2002が調査対象株に選ばれました。抗体保有率は、感染防御能があるとされている40HI(hemagglutination inhibition:赤血球凝集阻止)価で評価しました。

★インフルエンザ抗体保有状況

平成18年のインフルエンザ抗体保有状況を図に示します。また、比較対象として、昨年(平成17年)の値も同時に示しました。

A/ニューカレドニア/20/99(H1N1)に対しては、5~19歳までの各年齢群の抗体保有率が69.2~80.0%と比較的高い値でしたが、0~4歳と20~59歳は30%以下、平均抗体保有率は40.6%でした。昨年の調査時と比較して、抗体保有率は0~4歳が昨年の2倍の20.0%となったのを始め、5~19歳の各年齢群でも10~20%程度高くなりました。県域(横浜市、川崎市を除く、以下同じ)では、昨シーズンに小児を中心にA(H1)型の流行があったため、0~19歳の各年齢群で抗体保有率が上昇したものと思われます。

A/広島/52/2005(H3N2)に対しては、前述のA/ニューカレドニア/20/99(H1N1)に比べて全体的に抗体保有率が低く、最も抗体保有率が高かった5~9歳でも57.7%、20~50歳代の各年齢群では6.7~16.7%、平均抗体保有率は26.3%でした。昨年の調査対象株の値(昨シーズンのワクチン株A/ニューヨーク/55/2004(H3N2)、平均抗体保有率42.1%)と比較しても抗体保有率は全体的に低く、特に10~14歳では昨年は87.1%であった抗体保有率が約半分の43.3%、30歳代では昨年は36.7%であったのに対し今年は6.7%と、低い値でした。県域では、昨シーズンはA(H3)型の流行がありましたが、新しい株(A/広島/52/2005(H3N2))に対する抗体獲得は十分ではないと思われます。
B/マレーシア/2506/2004(ビクトリア系統)に対しては、30歳代に抗体保有率のピークがあるものの、他の3株に比べて全体的に低く、平均抗体保有率は9.0%でした。ここ数年、県域ではビクトリア系統株の大きな流行が起きておらず、また、非流行期の5~6月に散発的にビクトリア系統株が3株分離されていることから、この系統の株の流行には注意が必要と思われます。

B/上海/361/2002(山形系統)に対しては、10~39歳までの各年齢群の抗体保有率が53.3~90.0%と比較的高い値でしたが、0~9歳と50歳以上は10.0~30.0%、全体の抗体保有率は47.0%でした。昨年の調査時と比較して、抗体保有率は10~14歳では昨年の38.7%が76.7%、15~19歳では73.3%が90.0%、20~29歳では23.3%が66.7%に上昇しました。また、他の3株に対しては抗体保有率が低い傾向にある50~59歳においても、昨年の6.7%から30.0%にまで上昇しました。県域では、昨シーズン中も非流行期においても、山形系統株の流行は確認されておらず、それでもなお抗体保有率の上昇がみられた年齢群があったことは、興味深いことです。
  各型に対して抗体保有率が低い年齢群(乳幼児や成人層)においては、ワクチン接種により免疫効果を高めておく必要があると思われます。

★補足

インフルエンザウイルス株の命名法:型/地域名/通し番号/西暦(亜型名)で表します。

型:A、B、Cのいずれか
地域名:そのウイルスが分離された国名、都市名等
通し番号:同一地域内で分離されたインフルエンザウイルスの年間(1~12月)通し番号
西暦:1999年までは末尾2桁、2000年以降は4桁で表記する
亜型名:A型の場合は、HA亜型(1~16)、NA亜型(1~9)を表記する
(例)A/ニューカレドニア/20/99(H1N1):ニューカレドニアで1999年に分離された20番目のA型インフルエンザウイルス。HAの亜型分類は1、NAの亜型分類は1となります。
(例)B/上海/361/2002(山形系統):上海で2002年に分離された361番目のB型インフルエンザウイルスで、山形系統に属する株です。

B型インフルエンザウイルスの系統について:B型ウイルスのHA(Hemagglutinin;赤血球凝集素)タンパクの抗原性の違いは、A型ウイルスの場合と異なり亜型分類が必要なほど大きくないため亜型分類はありませんが、大きく分けて2つの系統に分類されます。B/ビクトリア/2/87に代表される系統と、B/山形/16/88に代表される系統の2系統です。それぞれ代表株の地域名をとってビクトリア系統株、山形系統株という呼び方をします。


(エイズ・インフルエンザウイルスグループ 渡邉 寿美)



<検出状況>

  • 9月の病原体検出数は合計38件、細菌20件、ウイルス18件であった。
  • 食中毒および感染症発生に伴う行政検査等では細菌が10件検出された。
    また、病原体定点等の医療機関からの検査では、細菌が9件、ウイルスが17件検出された。

<検出状況>

  • 腸管出血性大腸菌感染症の届出は9月は14件あり、関係者調査から横須賀市保健所管内で腸管出血性大腸菌がO26:H11(VT1保有)が1件検出された。
  • 細菌性赤痢(sonnei)が横須賀市保健所管内で、海外渡航歴のない散発患者から検出された。


<検出状況>

  • 藤沢市保健所管内で、腸管出血性大腸菌O157(VT2保有)による食中毒事例が発生し、6名から菌が検出された。横須賀市保健所管内では、毒素原性大腸菌O6(LT、ST保有)による有症苦情事例が発生した。
  • 手足口病の取り扱い検査数は8月と同様であり、コクサッキーA16型が6件、エコー18型が3件検出された。
  • 無菌性髄膜炎患者から、それぞれコクサッキーB3型、エコー18型、ムンプスが検出された。
  • 横須賀市保健所管内でデング熱患者(フィリピンへの海外渡航者)からデングウイルス遺伝子が検出された。


<検出状況>

  • 肺炎マイコプラズマ分離件数が平成18年9月現在で合計が21件となり、前年(計8件)と比べ増加している。国立感染症研究所感染症情報センターによれば、本年はマイコプラズマ肺炎の報告数が例年になく増加しており、8月の時点で昨年の約2倍となっており、今後の動向が注目される。
  • 腸管出血性大腸菌は、8月に引き続き9月も検出された。


<検出状況>

  • コクサッキーA16型は8月に引き続き手足口病患者から検出された。
  • エコー18型が7月に引き続き、無菌性髄膜炎患者及び手足口病患者から検出された。

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