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神奈川県微生物検査情報


神奈川県衛生研究所

第165号

2006年7月
( 平成 18年10月24日発行 )


話題


青白蛍光のあるレジオネラ属菌の検出!


  レジオネラ属菌( 50数菌種)はレジオネラ症の原因菌であり肺炎やポンティアック熱を引き起こすことが知られていますが、この中でもレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophilaの検出例が大部分を占めています。今回、蛍光を発する レジオネラ・アニサ(表中 L.anisaが冷却塔水から分離されたので、蛍光を発する菌種を含めたレジオネラ属菌の同定の留意点と検査を実施する上での課題について説明します。

レジオネラ・アニサとは

   この菌は、冷却塔水から分離される菌種としてはレジオネラ・ニューモフィラに次いで分離例が多い(1~2%)菌種ですが、患者からの分離例もあることから、ヒトの感染症の原因になると考えられています。
   レジオネラ・アニサのコロニーは青色蛍光を発しますが、稀に蛍光を発しない菌株があると報告されています。

レジオネラ・アニサと同定した経緯

  • 蛍光が認められ、かつ市販血清でレジオネラ・ミクダディ(L.micdadei)に凝集する、という非定型的性状を示すレジオネラ属菌が地域調査部小田原分室で分離されました。本菌が蛍光を発する報告がないことから当該菌株について精査を行いました。
  • 当該菌は PCR法でレジオネラ・ニューモフィラ以外のレジオネラ属菌であることが確認されました。※1
  • 市販のレジオネラ免疫血清による凝集反応では、レジオネラ・ミクダディとレジオネラ・ボウズマニイ (表中 L.bozemanii ) に凝集が認められ、さらに国立感染症研究所から配布されている免疫血清で調べた結果、レジオネラ・ボウズマニイの血清群 2にも凝集が認められ3種の免疫血清に凝集を示しました。 (交差反応 ※2
  • 国立感染症研究所で、この菌株の 16SrRNA 遺伝子塩基配列を解析した結果、レジオネラ・アニサと同定されました。


蛍光を発する菌種を含めたレジオネラ属菌の同定の留意点

1)自発蛍光

    今回の事例では、コロニーの蛍光観察を検査項目に加えていたため、最終的に正確な同定に繋がりました。レジオネラ属菌( 50数菌種)の中で蛍光を発するのは 13 菌種で、その中でも青白蛍光が観察されるのは 10 菌種です。レジオネラ属菌は菌種同定に有用な生化学的性状が乏しいため、蛍光の有無は菌種の同定に直結はしないまでも、菌種を推定する上では比較的有効な指標になっています。

今後の課題

  今回分離されたレジオネラ・アニサのように、レジオネラ・ミクダディや ボウズマニイ と交差反応がある例は極めて希と考えら れますが, 今後もこのような菌株が分離される可能性はあります。レジオネラ属菌の同定を行う際、少しでも結果に疑問が生じた場合は、免疫血清反応だけではなく、 DAN- DNAハイブリダイゼーション法や 遺伝子塩基配列の解析を行ってみることも必要と考えられます。

※1 当該菌の同定方法

    簡易凍結法で保存された菌株を BCYE 培地で 36 ℃、 3 日~ 5 日培養後、発育したコロニーに紫外線( 360nm )を照射したところ、コロニーによって強弱のある青白蛍光が観察された。これらのコロニーを釣菌し、レジオネラ属菌の特徴であるL -システイン要求性を確認した後、 PCR 法により同定を試みた。

※2 交差反応

   免疫血清を作製する際に、共通抗原を持つ他の菌種との交差反応が認められる場合、吸収操作を行い、特異性の高い血清にする必要があります。しかし、吸収操作により特異抗体の力価も低下することがあるため、この操作には限界があります。このため、国立感染症研究所から配布されたレジオネラ・ボウズマニイ血清群 2の免疫血清のように、レジオネラ・アニサとの弱い交差反応がある場合があるとわかっていながらも使用することもあります。


(微生物部 呼吸器グループ 渡辺祐子)


検出概要
  • 7月の病原体検出数は合計39件、細菌15件、ウイルス24件であった。
  • 食中毒および感染症発生に伴う行政検査等では細菌5件、ウイルス1件が検出された。
    また、病原体定点等や医療機関などからの検査では、細菌10件、ウイルス23件が検出された。
  • 腸管出血性大腸菌感染症の届出が7月は14件であり、関係者調査から腸管出血性大腸菌が3件 検出され、厚木保健所管内および足柄上保健所管内ではいずれもO157:H7(VT1,VT2保有)であっ たが、大和保健所管内ではO157:HNM (VT1,VT2保有)であった。
  • コリネバクテリウム・ウルセランスがジフテリア様症状を呈した患者から、県内では始めて検 出された。同菌は、ジフテリア様の臨床症状を呈する人獣共通感染症の起因菌であり、一般に牛や羊などの家畜、犬、猫などのペットとの接触、または生の乳製品などを摂取することにより感染することが知られている。



検出状況
  • A群溶血レンサ球菌が咽頭炎患者2名からいずれも検出され、血清型はT1およびT12と異なっていた。
  • 手足口病患者10検体から、コクサッキーウイルスA4型が1件、同A16型が6件、エンテロウイルス71型が1件検出され、前月に比して検出率がやや増加している。
  • 7 月の手足口病の患者報告数のやや増加に伴い、コクサッキー A4 型が1件、 A16 型が6件と検出され前月に比してやや増加している。
  • 無菌性髄膜炎患者から、コクサッキーウイルスB5型が平成16年8月以来、エコーウイルス30 型が平成14年10月以来、それぞれ検出された。



検出概要
  • 7月は前年同月に比べ、カンピロバクター・ジェジュニが大幅に減少した。
  • A群溶血レンサ球菌は、患者報告数が6月をピークに下降し、それに伴い検出数は2件と大幅に減少した。



検出概要
  • 7月のヘルパンギーナの患者報告数は減少傾向であるものの、前月に引続きコクサッキーウイルスA4型が検出された。
  • 手足口病の患者報告数が漸増しており、それに伴いコクサッキーウイルス A16型が6件と増加した。

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