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2011年9月2日更新
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腸管出血性大腸菌感染症の発生動向

   大腸菌は、家畜や人の腸内にも存在し、ほとんどのものは無害ですが、人に下痢などの消化器症状や合併症を起こす大腸菌もあります。特に、ベロ毒素を産生する大腸菌は、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群を起こすこともあり、腸管出血性大腸菌と呼ばれています。腸管出血性大腸菌感染症は夏季に多く発生していますが、冬季にもみられる疾患です。

 【感染経路】
  腸管出血性大腸菌は牛などの家畜の腸管内に生息している場合があり、動物の糞便に汚染された食品や飲料水から人に感染(経口感染)します。腸管出血性大腸菌は100個程度の菌数でもヒトを発症させることがあると考えられており、強い酸抵抗性を示し、胃酸の中でも生存します。調理器具や人の手を介して感染(二次感染)するケースもあります。

 【症状】
  腸管出血性大腸菌感染症の症状は全く症状のないものから軽度の下痢、激しい腹痛、頻回の水様便、さらに、著しい血便とともに重篤な合併症を起こし死に至るものまで、様々です。
  多くの場合、腸管出血性大腸菌に感染して、3日~7日(長いと12日に及ぶこともある)の潜伏期をおいて、増殖した菌が産生するベロ毒素により、激しい腹痛、下痢、血便などの症状が現れます。下痢などの初発症状の数日から2週間以内に、溶血性尿毒症症候群や脳症などの合併症が発症することもあります。溶血性尿毒症症候群は、死亡あるいは腎機能や神経学的障害などの後遺症を残す可能性のある重篤な疾患です。特に、幼児と高齢者は十分な注意が必要です。

 【腸管出血性大腸菌の種類】
  腸管出血性大腸菌は、菌の表面にあるO抗原(細胞壁由来)とH抗原(べん毛由来)により細かく分類されています。腸管出血性大腸菌で代表的な「腸管出血性大腸菌 O(オー)157」は、「O抗原」による分類で157番目に見つかったことを示しています。そのほかに「O26」や「O111」などが知られています。
  腸管出血性大腸菌は毒素を産生し、この毒素は「ベロ毒素」と呼ばれています。ベロ毒素には、VT1とVT2の2種類があり、VT1とVT2の両毒素を産生する菌と、VT1またはVT2のいずれか一方を産生する菌があります。腸管出血性大腸菌の確認はベロ毒素を産生しているかどうかが大切なポイントになります。

(病原微生物検出情報より)

 【患者の発生動向調査】
  腸管出血性大腸菌感染症は感染症法に基づく患者の発生動向調査において、全数把握の三類感染症に分類され、診断した医師は直ちに最寄の保健所に届け出ることが定められています。
  腸管出血性大腸菌による感染症は、全国では年間4000人近く報告があります。神奈川県では2006年に200人近くの報告があるものの、この数年は170人前後で推移しており、男女別では女子がやや多い傾向です。

 
 

 【腸管出血性大腸菌の流行】
  1982年に米国でハンバーガーを原因とする出血性大腸炎が集団発生し、原因菌として大腸菌O157が検出されました。日本では 1990年に埼玉県の幼稚園で井戸水を原因としたO157の集団発生で園児2名が死亡し注目されました。その後、国内外での発生は暫増状態で、2011年において、国内ではO111による焼き肉チェーン店の食中毒事例が発生しています。海外ではドイツを中心とするO104による集団感染事例が発生しており、生野菜が原因ではないかと推測されています。

 【予防方法】
  この菌は消毒剤や熱に弱く(食品の中心温度が75℃、1分の加熱で死滅する)、逆に低温には強いので、冷蔵庫のなかでも生存し、また、少しの菌でも感染します。
  汚染された食品からの感染が主体であることに留意して、食品は十分な加熱処理などにより、食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、人から人への二次感染を予防することが重要です。

  ☆   生の肉(ユッケ、レバ刺し、鶏刺しなど)は避けて、肉類は十分に加熱しましょう。
  生の肉を扱った後の手指は石けんと流水で十分に洗いましょう。
       

生の肉を扱ったまな板や包丁は洗剤で洗い、熱湯等で消毒しておくと良いでしょう。(まな板や包丁は、肉用、野菜用を別々にそろえて使い分けるとさらに安全です。)

  トイレの後、調理や食事の前に、石けんと流水で十分に手を洗いましょう。
  動物に触れた後は、石けんと流水で十分に手を洗いましょう。
 
 【分子疫学的解析】
  衛生研究所では、腸管出血性大腸菌が検出されると、検出菌の血清型や毒素型等を確認し、さらに分子疫学的解析を行っています。この解析方法はパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)と呼ばれ、それぞれの検出菌のDNA遺伝子のパターンを比較することにより感染源が同じかどうかを推定することができます。このPFGEデータを解析することで、一見散発的に見える事例が実は同じ原因による集団事例であることを早期に探知し、感染の拡大防止につながります。
 神奈川県衛生研究所においても、PFGEデータを解析することで、同一感染源が示唆された腸管出血性大腸菌O157感染の事例もありました。
図 EHEC O157:H7のPFGEパターン

【参考リンク】

腸管出血性大腸菌の予防について(厚生労働省)

ドイツの大腸菌 O104 アウトブレイク関連情報(国立医薬品食品衛生研究所)

神奈川県感染症情報センター(神奈川県衛生研究所)

同一感染源が示唆された腸管出血性大腸菌 O157 感染事例―神奈川県(国立感染症研究所感染症情報センター)


(企画情報部)