食中毒というと、細菌やウイルスによる感染症を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし、食中毒の原因は微生物だけではありません(図1)。
食品中に含まれる有害な化学物質によって発生する食中毒いわゆる「化学性食中毒」も毎年報告されています。発生件数は多くありませんが、私たちの身近なところで起こる可能性があります。今回は化学性食中毒について紹介します。

図1 食中毒の分類
化学性食中毒とは?
化学性食中毒とは、食品に含まれる有害な化学物質の摂取によって発生する健康被害をいいます。厚生労働省によると、化学性食中毒は毎年10件前後の発生があり、令和7年(2025年)は14件、患者433人が報告されています(表1)。
細菌性食中毒は細菌が増殖した食品や細菌が産生した毒素を含む食品を摂取することで発症しますが、化学性食中毒では食品に含まれる有害な化学物質によって発症します。化学性食中毒の多くは急性の中毒であり、摂取後比較的短い時間で発症します。化学性食中毒の原因として、表1に書いてある物質以外に農薬や動物用医薬品なども知られています。

表1 化学性食中毒発生件数と患者数の推移
ヒスタミン食中毒
化学性食中毒の中で最も多く報告されているのが、ヒスタミン食中毒です。厚生労働省によると、ヒスタミン食中毒は毎年発生しており、令和7年(2025年)は13件、患者431人が報告されています(表1)。
マグロ、サンマ、サバ、イワシなどの赤身魚や青魚にはヒスチジンというアミノ酸が多く含まれています。魚の鮮度が低下すると、魚肉中のヒスチジンが細菌の産生する酵素の働きによってヒスタミンへ変わります。このヒスタミンを多く含む魚を食べると、
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上記の症状は、アレルギー症状によく似ているため、「アレルギー様食中毒」と呼ばれることもあります。ヒスタミンは熱に強く、通常の加熱調理では分解されません。このため、予防には魚介類の鮮度管理や低温保存により細菌を増やさないことが重要です。
洗浄剤・漂白剤による中毒
洗浄剤・漂白剤は、食品工場や給食施設、飲食店などで衛生管理のために広く使用されており、代表的なものとして次亜塩素酸ナトリウムがあります。
野菜の殺菌や調理器具の消毒に利用されていますが、誤使用や食品への誤混入、誤飲した場合、口腔・咽頭粘膜への刺激や消化器症状を引き起こします。主な症状は、
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事故の多くは、容器の取り違えや誤使用などのヒューマンエラー(人為的ミス)によって発生しているため、各家庭や調理施設等の現場では、専用容器の使用、ラベル表示の徹底、保管場所を分けるなど、適切な薬剤管理、保管管理が重要です。
金属による食中毒 |
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食品中に溶け出した金属によって食中毒が発生することもあります。
銅製や古い金属製の器具や容器に酸性の強い食品を長時間保存すると銅イオンが溶け出し、吐き気や嘔吐などの症状を起こすことがあります。また、スズについても、高濃度摂取の場合、胃腸障害を起こすことがあります。現在では食品衛生法による規格基準や容器包装の改良により、発生は少なくなっています。
農薬・動物用医薬品による中毒
農薬や動物用医薬品は、本来は農作物や家畜の生産に必要な薬剤です。しかし、不適切な使用や誤飲などによって中毒を引き起こすことがあります。
一方、日本国内で使用される農薬や動物用医薬品については、毒性試験等に基づくリスク評価が実施されており、食品ごとに残留基準値(MRL)が設定されています。このため、適正に使用された農薬や動物用医薬品による健康被害のリスクは極めて低いと考えられています。また、国や自治体によるモニタリング検査や行政検査も継続的に実施されています。
その他の化学性食中毒
化学性食中毒には、酸敗油脂(酸化した油脂のこと)やニコチン酸などによるものもあります。
油脂は長期間保存されることで空気中の酸素や光、熱などによって酸化され、過酸化脂質などを生成し、品質が低下します。酸敗油脂を多量に摂取すると、消化器症状を引き起こすことがあります。また、ニコチン酸は食品添加物として使用されていますが、多量に摂取すると顔面紅潮やほてりなどの症状が現れることがあります。現在では、食品の品質管理や衛生管理の向上により、発生は減少しています。
化学性食中毒を防ぐために
化学性食中毒を防ぐためには、化学物質を適切に扱うことが重要です。
- ヒスタミン食中毒では食品の鮮度管理や低温保存が重要
- 洗浄剤等は専用容器で保管、食品以外の化学物質を飲料容器等へ移し替えない
- 食品製造施設や給食施設では、薬剤管理や保管管理を徹底し、誤使用や誤混入を防ぐ
- 農薬や動物用医薬品では、定められた使用方法を守る ことが求められます。
終わりに
当所理化学部では、食中毒発生時の原因究明に加え、食品中の残留農薬や動物用医薬品等の検査を通じて、県民の食の安全性確保に取り組んでいます。
化学性食中毒は発生件数こそ多くありませんが、適切な食品衛生管理や薬剤管理により予防できるものが少なくありません。化学性食中毒について正しく理解し、日常生活や業務における食品の安全性確保に役立てていただければ幸いです。
1) 新食品衛生学要説2024年版 医歯薬出版株式会社
(理化学部・林 孝子)
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