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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.234

腸管出血性大腸菌による食中毒について

2026年7月発行

食中毒の原因菌の一つとして知られる腸管出血性大腸菌(以下、EHEC)は、感染すると3~8日程度で腹痛、下痢、血便、嘔吐や高熱などの症状を引き起こすことがあり、特に小児や高齢者では溶血性尿毒症症候群1)(以下、HUS)を引き起こし、脳症などを併発して亡くなることがあります2)。過去には食品の広域流通やチェーン店での食材の一括管理が原因となり、都道府県を越えてEHECによる食中毒が発生しています3)、4)。今回は、EHECによる食中毒について、過去の事例と拡大防止のための取り組みについてご紹介します。

EHECの感染経路について

EHECはベロ毒素(別名:志賀毒素)を産生する大腸菌です。牛などの家畜は腸管内にEHECを保菌しており、加工する際にお肉がEHECに汚染されることがあるため、十分に加熱されていないお肉を食べるとEHECに感染する恐れがあります。また、EHECは環境中にも存在しており、野菜や果実などをよく洗浄せず、未加熱で食べた場合もEHECに感染することがあります1)。さらに、感染者の便にはEHECが含まれていることがあり、同じトイレやお風呂を共有することで、家族内で感染が広がる可能性があります。



図1 EHECの感染経路

EHECの全国及び神奈川県域の感染状況

EHECは大腸菌の一種で、O抗原と呼ばれる細胞壁にある多糖類の種類によって分類されており、これにより約180種類の血清型が存在します。その中でもO157はEHEC感染症で患者数が最も多い血清型です。2025年の医師からのEHEC感染症届出件数は全国で4,338件でした。また、地方衛生研究所や保健所等の検査によるEHECの検出数は全国で2,117件であり、血清型別にみると、その検出数はO157が最も多く1,096件、次いでO26が212件 、O103が192件、その他が617件となっています5)。また、EHECの菌株について遺伝子解析を実施するため、医療機関などで分離された菌株は保健所を介し、地方衛生研究所等の検査実施施設への菌株送付をお願いしています6)。2025年、神奈川県域(横浜市、川崎市、相模原市、藤沢市、横須賀市、茅ヶ崎市を除く )から当所に送付されたEHECの菌株は43株でO157が25株、O26が5株、O103が5株、その他が9株であり、全国の届出状況と同様の傾向でした。

EHECと食中毒について

国内で発生したEHECによる主な食中毒集団発生事例を表にまとめました。

表 国内で発生した主なEHECによる食中毒集団発生事例

発生年 患者の発生場所 事例内容
1996 大阪府堺市
  • 原因食品:学校給食
  • 病原物質:EHEC O157
  • 患者:9,523人、死者:4人(うち1名はHUSの後遺症により、事件から19年が経過した2015年に亡くなった。)7)
  • 日本最大規模の腸管出血性大腸菌の食中毒事例
2011 広域事例
(富山県他)
  • 原因食品:チェーン店で提供されたユッケ
  • 病因物質;EHEC O111・EHEC O157
  • 患者:181人、死者:5人8)
2014 広域事例
(静岡県他)
  • 原因食品:冷やしきゅうり(花火大会の露店で販売)
  • 病因物質:EHEC O157
  • 患者:510人(入院:114人、HUS:5人)、死者:0人9)
2016 広域事例
(神奈川県他)
  • 原因食品:冷凍メンチカツ
  • 病因物質:EHEC O157
  • 患者:67人、死者:0人10)
2025 広域事例
(川崎市他)
  • 原因食品:令和7年10月14日から10月18日に原因施設で調理・提供された食事
  • 病因物質:EHEC O157
  • 患者:202人(入院者はいたが、重篤者はいなかった)、死者:0人5)

EHECによる食中毒の原因食品として特定あるいは推定される主なものは、未加熱または加熱不十分の牛肉のほか、サラダ等の野菜です。EHECを原因とする食中毒の集団発生事例は全国で毎年報告されており、2024年は16件2)、2025年は10件5)でした。食中毒事例の患者数は、国内において約100~1,000人の規模で推移しています1)
特に、1996年に大阪府堺市で発生した学校給食を原因とする食中毒事例では、児童を中心に9,523人の患者、死者4人を出す世界的にみても大規模なEHEC感染症の集団発生事例となりました7)

EHEC食中毒拡大防止の取り組み

厚生労働省は、EHECによる広域的な感染症・食中毒の調査について次のように整理しています6)。まず、国立健康危機管理研究機構(JIHS)国立感染症研究所で、全国から収集されたEHECの菌株に対して反復配列多型解析法(MLVA法)による遺伝子検査が実施されます。結果は感染源の特定や集団感染の解析に活用するとともに、厚生労働省にその結果を情報共有します。同一又は似ている菌株が増加してきた場合、厚生労働省は必要に応じて患者さんの喫食歴や行動歴等の疫学調査を行うよう、各自治体の食品衛生の担当部署に依頼をします。この調査により、原因を特定することが可能となり、新たな感染者が発生することを未然に防いでいます。



図2 EHEC食中毒拡大防止のための各部署の情報共有の流れ

当所での取り組みについて

当所では、神奈川県域の保健所管内で発生したEHECによる食中毒事例について、疫学的関連性が疑われる事例や迅速な対応が必要な場合、MLVA法などによる遺伝子検査を行い、保健所に情報を還元しています。しかし、MLVA法では検査が出来る血清型がO157、O26 及びO111などに限られるといった課題があり、新しい方法である全ゲノムシーケンスの導入が進められています。今後も迅速かつ的確な検査を心掛け、関係所属への情報還元に努めていきます。

ここ数年、海外への旅行時に「ユッケ」や「生レバー」などの非加熱の肉を食べてEHECに感染する事例が増えています。2)EHECに感染しないために、生肉または加熱不十分な肉の喫食を避け、野菜もしっかり洗浄しましょう。また、感染予防のためには、しっかりと手を洗うことが大切です。

(参考リンク)

注:リンクは掲載当時のものです。リンクが切れた場合はリンク名のみ記載しています。

1) 厚生労働省:腸管出血性大腸菌Q&A外部サイトを別ウィンドウで開きます
2) 国立感染症研究所:病原微生物検出情報 Vol.46 No.5(No.543) 2025年5月発行外部サイトを別ウィンドウで開きます
3) 国立感染症研究所:病原微生物検出情報 Vol.44 No.5(No.519) 2023年5月発行外部サイトを別ウィンドウで開きます
4) 腸管出血性大腸菌O157による広域散発食中毒対策について(食安発0416第1号 平成22年4月16日)外部サイトのPDFが別ウインドウで開きます
5) 国立感染症研究所:病原微生物検出情報 Vol.47 No.5(No.555) 2026年5月発行外部サイトを別ウィンドウで開きます
6) 厚生労働省:腸管出血性大腸菌による広域的な感染症・食中毒に関する調査について(事務連絡 平成30年6月29日)外部サイトのPDFが別ウインドウで開きます
7) 堺市:O157堺市学童集団下痢症を忘れない日外部サイトを別ウィンドウで開きます
8) 国立感染症研究所:病原微生物検出情報 Vol.33 No.5(No.387) 2012年5月発行外部サイトを別ウィンドウで開きます
9) 国立感染症研究所:病原微生物検出情報 Vol.36 No.5(No.423) 2015年5月発行外部サイトを別ウィンドウで開きます
10) 国立感染症研究所:病原微生物検出情報 Vol.38 No.5(No.447) 2017年5月発行外部サイトを別ウィンドウで開きます

(微生物部・森口真理子)

   
衛研ニュース No.234 令和8年7月発行
発行所 神奈川県衛生研究所(企画情報部)
〒253-0087 茅ヶ崎市下町屋1-3-1
電話(0467)83-4400   FAX(0467)83-4457

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