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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.229

長引く咳には要注意!百日咳について

2025年7月発行

「なんだか最近咳が続くなぁ」と思ったら、百日咳かもしれません。今回はそんな長引く咳の裏に潜む重篤な細菌感染症でもある百日咳について、現在の発生状況や予防方法、検査方法などをお伝えします。

百日咳とその症状

百日咳は、主に百日咳菌(Bordetella pertussis)によっておこる細菌性の呼吸器感染症で、飛沫感染や接触感染で感染します。長く続く激しい咳が特徴ですが、乳児では重症化することもあり、時には亡くなることもある疾患です。
「百日も続く咳」ということから百日咳と言われますが、典型的な症状の場合は表1のような経過をたどります。また、乳児(特に生後6か月未満でワクチン未接種の場合)は重症化した場合、無呼吸発作やチアノーゼ、けいれん・意識障害などの症状に発展したり、脳症、肺炎を合併するなど非典型的な症状の場合もあるので、注意が必要です。

表1 百日咳の経過

発生状況

2018年以降、百日咳は感染症法における五類感染症の全数把握対象疾患に定められています。新型コロナウイルス感染症への感染対策により、同じ呼吸器感染症である百日咳の報告数は激減しました(図1)。しかし、感染対策の緩和に伴い徐々に報告数が増加し、2025年には第21週までの時点にもかかわらず、現在の統計方法が導入されて以来、最多の報告数となっています。さらに、これまで海外(特に東アジア)で問題となっていた、第一選択薬であるマクロライド系抗菌薬(エリスロマイシン、クラリスロマイシンなど)に耐性を持つ百日咳菌の報告が国内でも増加し始め1)、今後の動向が懸念されます。

図1 百日咳の患者報告数―全国と神奈川県、2018~2025年(21週まで)―
※IDWR(国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト)をもとに作成

予防するために

①予防接種

百日咳はワクチンで予防可能な感染症です。日本では現在、定期接種として主に5種混合ワクチン(沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオヘモフィルスb型混合ワクチン)が使われています。生後2か月から生後7か月までに20~56日の間隔で3回接種し、3回接種終了後6か月から18か月あけて4回目を接種するスケジュールになっています(2024年4月以降に初回接種の場合)1)。百日咳ワクチンの免疫持続期間は4-12年と言われ2)、最近は、予防接種効果が低下してきた学童期以降の罹患が多くなってきています。日本小児科学会は、任意接種として、就学前や11-12歳で受ける2種混合ワクチン(沈降ジフテリア破傷風混合トキソイド)のかわりに百日咳が含まれる3種混合ワクチン(沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン)を推奨しています3)

②咳エチケット

咳が出るときは咳エチケットを心掛けましょう。ワクチンの接種を受けたことがある年長児や大人では長びく咳や夜間発作性の咳だけということがあります。しかし、まだワクチンを受けていない乳児にとって、百日咳は命にかかわることもある感染症です。特にワクチンを受けていない乳児が、家庭や保育所にいる場合は、咳のある年長児や大人は接触を控えるなど、十分に気を付けましょう。

検査方法

当所で実施している方法をご紹介します。

①培養検査
Bordet-Gengou血液寒天培地(口腔内の常在菌の発育を抑制するための抗生物質入り)という百日咳菌専用の培地に、患者さんからの検体(鼻腔ぬぐい液など)を塗り広げ、菌を培養します。約1週間培養した後、百日咳菌に特徴的なコロニー(菌の集落)が発育したら(図2)、一つのコロニーを抗生物質が入っていないBordet-Gengou血液寒天培地やミューラーヒントン血液寒天培地などに塗り広げ、百日咳菌の同定検査を行います。同定検査は、免疫血清やMALDI-TOF-MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法のこと。たんぱく質などの分析に用いられ、微生物の迅速な同定方法として応用されています。)を使用する方法、さらに菌から抽出したDNAを使用した遺伝子検査を組み合わせて行っています。

② 検体からの遺伝子検査
検体から直接DNAを抽出して、百日咳菌に特異的な遺伝子を増幅して検出します。培養検査は感度が低いことが多く、患者さんの年齢が高い場合や発症から時間が経過している場合には、検出が難しい傾向にあります。一方、遺伝子検査は一般的に感度が高く、結果を迅速に得ることができます。

図2 検体を培養して発育した百日咳菌のコロニー

③ 薬剤感受性試験
培養検査で検出された百日咳菌について、治療に効果的な薬剤を選定するために行います。薬剤感受性試験には「拡散法」と「希釈法」があり、当所では「拡散法」を採用しています。拡散法には、濃度勾配ストリップ法(図3ーA)とディスク法(図3-B)があります。濃度勾配ストリップ法は、菌液を培地全体に塗り広げた後、一定の範囲の濃度の薬剤が段階的にあらかじめ塗布された専用ストリップを培地上に置いて培養し、菌の発育が阻止される最小の薬剤濃度(MIC:最小発育阻止濃度)を判定します。ディスク法は、ある一定濃度の薬剤がしみ込んだ紙ディスクを培地上に置いて培養し、形成される発育阻止円の直径を測定し、判定します。

図3 薬剤感受性試験の例

④ 薬剤耐性遺伝子検査
現在問題となっている耐性薬剤のマクロライド系抗菌薬ですが、百日咳菌の特定の遺伝子の変異(23S rRNA遺伝子の変異(A2047G:2047番目の塩基がA:アデニンからG:グアニンに変異))がその耐性と関わっていることが知られています1)。そこで、その部位の遺伝子を特異的に増幅し、さらに、塩基配列を解析することによって遺伝子の変異の有無を判定します(図4)。

図4 塩基配列(2047番目)の比較

衛生研究所微生物部では、保健福祉事務所等からの依頼に応じて、これまでに述べた検査などを行うことにより、百日咳の発生動向や薬剤耐性菌の流行状況の把握に努めています。

(参考リンク)

注:リンクは掲載当時のものです。リンクが切れた場合はリンク名のみ記載しています。

1) 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト・百日咳の発生状況について外部サイトを別ウィンドウで開きます
2) 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル 百日咳 第4.0版外部サイトを別ウィンドウで開きます
3) 公益社団法人日本小児科学会・日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール外部サイトを別ウィンドウで開きます

(微生物部・三谷 詠里子)

   
衛研ニュース No.229 令和7年7月発行
発行所 神奈川県衛生研究所(企画情報部)
〒253-0087 茅ヶ崎市下町屋1-3-1
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