食物アレルギーとは、食物を食べたり、触れたりしたときに、身体が食物に含まれるたんぱく質等(以下「アレルゲン」という。)を異物として認識し、自分の体を過剰に防御することで不利益な症状を起こすことです。食物アレルギーは、個人によってアレルギー反応を引き起こす量が異なり、同一人物であっても体調によってその反応も変わります1)。今回は、アレルギーの症状やしくみ、原因となる食物、アレルギー表示に関する最近の出来事についてご紹介します。
食物アレルギーの症状
主な症状は、かゆみ、じんましん、唇・まぶたの腫れ、おう吐、せき・ぜん息などです。時には意識がなくなる、ショック状態になるなどの重篤な症状を起こすこともあり、最悪の場合、死に至ることもあります。食物アレルギーの症状は、多くの場合、原因となる食物を摂取後30分以内、遅くとも2時間以内に起こります。我が国における食物アレルギーの有病率は、乳幼児が5~10%、学童期以降が1~3%、全年齢をとおして1~2%であると考えられています2)。
食物アレルギーのしくみ
私たちの体には、自分の体を守るためにウイルスや細菌などの病原体を認識し、排除する免疫という仕組みが備わっています。しかし、この免疫の仕組みが過剰に反応すると、本来敵ではない食べ物を特定の異物=アレルゲンと認識し、攻撃してしまいます。その結果、IgE抗体(免疫グロブリン)が作られ、体に様々な症状が“過剰な反応”として引き起こされる場合があります。本来はヒトにとって有益なはずの免疫反応が、普通にある無害な食べ物を有害なもの(アレルゲン)と認識して、これを排除しようとして起こる過剰な免疫反応が「アレルギー反応(過敏反応)」です。
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食物アレルギーでは、原因となる食物(アレルゲン)が体内に入ると、その食物に対して攻撃する特異的なIgE抗体が作られます。例えば、卵アレルギーの方は、卵のたんぱく質に反応するIgE抗体が、そばアレルギーの方はそばのたんぱく質に反応するIgE抗体が作られます。このIgE抗体は、血液、皮膚、腸などに存在するマスト細胞に結合します。ここにアレルゲンが付くと、マスト細胞からアレルギー症状を起こすヒスタミンなどの化学物質が放出され、皮膚のかゆみ、せき、くしゃみなどのアレルギー症状が引き起こされます。 |
アレルギーの原因となる食物の種類
消費者庁によると、医療機関からのアレルギー症例の報告数は平成30年度報告では4,851症例だったものが、令和3年度報告では6,080症例、令和6年度報告では6,033症例となり、今後も高い症例数で推移することが見込まれます4)~6)。令和6年度の食物アレルギーの原因食物は鶏卵が最も多く26.7%(1,609例)を占めました。以下、くるみやカシューナッツなどの木の実類が 24.6%(1,484 例)、牛乳が13.4 %(807例)でした6)(図2)。平成30年度の報告まで原因食物の上位3品目は鶏卵、牛乳、小麦でしたが4)、令和3年度では鶏卵、牛乳、木の実類の順になり5)、令和6年度ではさらに木の実類の割合が増加したことが報告されています6)。食品類としてではなく個別に見ても、木の実類の中で1位であるくるみは全体の15.2%(916例)で、鶏卵に次いで第2位となっており、鶏卵から落花生までの上位5品目で 70.3 %を占めています(表1)。農林水産省の統計によると、くるみの国内消費量は、1985年には6,934トンだったのが、2020年には56,478トンと約8倍に増加しており(農林水産省特用林産物生産統計調査)、最近の健康志向による食生活の変化の影響によりくるみをはじめとする木の実類を食べる機会が増えたことが原因であると推察されます。 |
表1 令和6年度の品目別 アレルギー症例数* *令和6年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究 事業報告書6)を一部改変 |
図2 食物アレルギーの原因となる食物(類別)※
*平成30年度、令和3年度、令和6年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書4)~6)を一部改変
最近の食品表示について
食物アレルギー症状を引き起こすことが明らかになった食品のうち、特に発症数、重篤度から勘案して表示する必要性の高い食品については、「食品表示基準」(平成27年3月20日内閣府令第10号)において「特定原材料」として規定されています。これらの特定原材料を含む加工食品については、当該特定原材料を含む旨の表示が義務付けられています。消費者庁は、令和5年3月、くるみによるアレルギー症例数の増加等を踏まえ、食品表示基準を改正し、「特定原材料に準ずるもの」であったくるみを「特定原材料」に指定しました7)。これにより、特定原材料は、えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生、くるみの8品目となりました。また、令和6年3月に「特定原材料に準ずるもの」として、新たにマカダミアナッツを追加し、症例数が著しく低いまつたけを削除しました8)。さらに令和5年6月に開かれたアドバイザー会議において9)、カシューナッツについて従前より症例数等が増加したことを受けて、特定原材料への追加に向け検討することを報告しています。
消費者庁によると、食物アレルギーの原因物質は、時代の変化とともに変わっていく可能性があると考えられるので、定期的に実態調査などを行い、新たな知見や報告により適宜、見直しを行っていくとのことです。
当衛生研究所では加工食品に含まれるアレルギー物質検査を実施することで、食品表示の監視に役立て、健康被害の予防に努めています。今後も検査及び研究を通して、県民の食品の安心・安全に努めていきます。
(参考資料) [1)~9):2025年4月28日アクセス可能]
注:リンクは掲載当時のものです。リンクが切れた場合はリンク名のみ記載しています。
(理化学部・井口 潤)
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