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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.226

室内環境汚染物質と発生源について

2025年1月発行

皆さんは、普段生活している室内の環境中に、様々な汚染物質が存在していることをご存じでしょうか?それは壁や床の汚れ、臭いなど室内の快適性に影響するものから、人やペットの健康に影響する化学物質まで多岐にわたり、呼吸や肌への接触を通じて曝露することが多くの研究で明らかとなっています。
わが国では、2020年から発生した新型コロナウイルス感染症の流行により、我々の生活様式が一変しました。その一例として、在宅勤務やリモート授業などが広く普及したことが挙げられます。これらはポストコロナと言われる現在においても、一定の割合で定着しており、我々の室内に留まる時間がより増加したとも言えるのです。本稿では、室内環境汚染物質や推定される発生源に関する話題をご紹介します。

室内環境汚染の3要素とは

室内環境を主要なテーマとしている一般社団法人室内環境学会によれば、室内環境に関する問題は、発生要因から3つに大別されるとしています(図1)1)。1つ目は「生物的要素」とされ、ダニやカビ、ペットなどに起因します。具体的な事例としては、アレルギー問題が有名です。2つ目は「化学的要素」とされ、多くの化学物質によって引き起こされる問題です。代表的なものは、シックハウス症候群などがあり、90年代後半にかけて社会問題化しました。今も一定数の発症が報告されており、注視する必要があります。3つ目は「物理的要素」とされ、光や音、温度、湿度によって引き起こされる問題です。例えば、睡眠障害や室内で発生する熱中症問題があります。ここでは、「化学的要素」の室内環境汚染物質のうち、代表的な1)可塑剤、2)殺虫剤、3)揮発性有機化合物についてご紹介します。



図1 室内環境に影響する3要素

代表的な室内環境汚染物質

1) 可塑剤(かそざい)について

プラスチックは、密になった高分子で構成されており、一定の硬さを持っています。このプラスチックを柔らかくするために加えられるのが、可塑剤と呼ばれる成分です。これにより、プラスチックに柔軟性が付与されるため、加工しやすくなります。可塑剤には、多くの種類がありますが、最も有名な化合物はフタル酸エステル類で、室内空気やハウスダストから普遍的に検出されています2)。フタル酸エステル類の健康影響は、動物実験では内分泌かく乱作用3)や生殖毒性4)の可能性が指摘されていますが、これまでのところ、ヒトの健康に重大な影響が生じるという明確なデータはありません1)

2) 殺虫剤について

殺虫剤には様々な種類があり、使用目的によって「家庭用」と「防疫用」に大別できます。「家庭用」は一般家庭の室内や庭、ベランダなど比較的小規模の殺虫を目的としています。一方で「防疫用」については、生活排水が流れる側溝や公園、オフィスビルなどの公共の空間で殺虫を行うことが特徴です5)。このように、殺虫剤は一般家庭以外にも多くの場所で用いられており、実際に、室内空気やハウスダストから、微量ではありますが検出されています6), 7)

3) 揮発性有機化合物について

揮発性有機化合物(VOC: Volatile Organic Compounds)とは、常温で気体として存在する有機化合物の総称です。世界保健機構(WHO)は沸点50℃から260℃の有機化合物として定義しています。室内空気中のVOCの総量を総揮発性有機化合物(TVOC)と呼び、空気の汚れ具合の指標とすることもあります。VOCは呼吸や皮膚から曝露され、シックハウス症候群の原因の一つと考えられています。
以上、代表的な室内環境汚染物質をご紹介しました。なお、厚生労働省では、室内空気汚染の対策として、「シックハウス問題に関する検討会」を定期的に開催し、室内濃度指針値の策定や見直しを行っています(表1)。この中には、ご紹介したフタル酸エステル類や殺虫剤、VOCも含まれています8)

表1 室内空気の指標値濃度

発生源は何処にあるのか

それでは、室内環境汚染物質の発生源はどこにあるのでしょうか。例えば、先に述べたフタル酸エステル類はプラスチックに添加されていれば、そこから発生する可能性があるため、家具や壁紙など至る所に存在すると考えられます。VOCは洗剤、塗料、スプレー、接着剤など我々に身近な生活用品や、部屋の内装建材などからも生じると考えられています1)。これらの化合物は発生源を推定しやすいですが、身の回りにあるものから生じるため、室内から完全に除去することが難しい物質とも言えます。

また、近年、様々な化学物質の蓄積場所になっていると考えられているのが、ハウスダストです。現在までに、国内外でハウスダスト中にフタル酸エステル類、難燃剤、殺虫剤、金属類などが蓄積することが明らかになってきています。これらの化合物は比較的沸点が高いため、小さな微粒子の状態で存在し、室内の発生源から離脱したものが粒子としてハウスダストに吸着すると考えられています1)。すなわち、ハウスダストは多くの化学物質が集積した二次的な発生源と言えるのかもしれません。近年、歩行やドアの開閉、掃除機の排気などによって床面上のダストが巻き上げられる(再飛散)現象が研究されており9)、化学物質の曝露経路の一つになることが分かっています。

室内環境をより良くするために・・

今回、室内環境汚染物質や推定される発生源に関する話題をお伝えしました。住居や職場、学校などの人々が集う空間である室内は、我々が生活の大半を過ごす場所です。生活が豊かになると共に、室内における多くの化学物質との共存を余儀なくされ、今後もその状況が続くと思われます。我々が簡単にできる対策として、換気や掃除をこまめに行い、空気清浄機を導入することも有用と考えられます。また、「シックハウス問題に関する検討会」では、最新の室内空気汚染に関する様々な情報を公開しており、ホームページからアクセスすることが可能です10)。当所では、室内空気やハウスダストに関する化学物質の分析法の開発に取り組んでおり、室内環境の安全性確保に努めています。

(参考リンク)

注:リンクは掲載当時のものです。リンクが切れた場合はリンク名のみ記載しています。

1) 室内環境の事典, 一般社団法人室内環境学会編2023.
2) Takeuchi S et al., BPB reports 2(6), 91-98, 2019.
3) Gonsioroski A et al., Toxicol. Sci., 189(1), 91-106, 2022.
4) Li N et al., J. Pediatr. Surg., 50(12), 2078-2083, 2015.
5) 経済産業省:平成30年度届出外排出量の推計方法等に係る資料、参考3. 殺虫剤にかかわる排出量.
6) 東京都健康安全研究センター研究年報 第54号外部サイトのPDFが別ウインドウで開きます
7) 吉田ら. 室内農薬汚染の指標としてのハウスダスト中残留殺虫剤調査. 室内環境学会誌, 6(1), 1-8, 2003.
8) 室内空気中化学物質の室内濃度指針値について(薬生発0117第1号 平成31年1月17日付 厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)
9) Qian J et al., Atmospheric Environ., 89, 464-481, 2014.
10) 第26回シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会 配付資料外部サイトを別ウィンドウで開きます

(理化学部 吉冨 太一)

   
衛研ニュース No.226 令和7年1月発行
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