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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.224

ツキヨタケによる食中毒について

2024年9月発行

例年、夏の終わりから秋にかけて、毒キノコを食用キノコと誤認して採取、喫食したことによる食中毒が多く発生しています。なかでも、ツキヨタケによる食中毒は、全国で発生件数、患者数ともに最多であり、神奈川県内においても2022年と2023年に2年連続で発生しています。今回は、毒キノコ「ツキヨタケ」による食中毒について紹介します。

ツキヨタケとは

キシメジ科ツキヨタケ属に分類され、初夏から秋に、ブナなどの広葉樹の倒木や枯れ木などに多数が重なりあって発生します(図1)。傘は10~20 cm程度、表面は初め黄褐色で、成熟すると紫褐色~暗紫褐色となります。ひだ(傘の裏側)は初め淡黄色で、のちに白色となり、暗所では微かに青白く発光します。

図1 ツキヨタケ
出典:東京都保健医療局パンフレット
「知っておきたい毒キノコ」

食用キノコとの誤認

ツキヨタケをムキタケ、ヒラタケ及びシイタケなどの食用キノコと間違えることで食中毒が発生しています。ツキヨタケとこれら食用キノコとの違いとして、ツキヨタケの多くは縦に裂くと柄の付け根の部分に暗紫色~黒褐色のしみがあります(図2)。ただし、このしみは不明瞭な場合やない場合もあります。また、柄の付け根にリング状の隆起帯(つば状に少し盛り上がった部分)があります(図3)。

図2 ツキヨタケの「しみ」

図3 ツキヨタケのリング状の隆起帯

出典:東京都保健医療局パンフレット「知っておきたい毒キノコ」

毒性成分と中毒症状

ツキヨタケの代表的な毒性成分としてイルジンSが知られています(図4)。イルジンSは熱に対して比較的安定であり、100℃で15分間加熱しても15%程度しか分解されません。中毒症状は、嘔吐、腹痛、下痢などの消化器系の症状で、食後30分~1時間程度で発症します。イルジンSの中毒量について正確な知見はありませんが、1 mg程度の摂取により症状を引き起こすと推察されています。

図4 イルジンS構造式

食中毒の発生状況

2019年から2023年の5年間において、全国でツキヨタケが原因と断定又は推定された食中毒の発生件数は、毒キノコ全体のうち半数以上を占めており(図5)、毒キノコの中では最多となっています。
毒キノコには多くの種類があり、中毒症状も様々です。致死率の高いキノコもある中で、ツキヨタケによる食中毒は比較的軽症の事例が多いですが、発生件数が多いということは、それだけ身近で、誤認しやすいキノコであることを意味しており、注意が必要です。

図5 毒キノコの種類別食中毒発生件数の割合(2019~2023年、全国)
厚生労働省HP 食中毒統計資料を参考に作成

毒性成分の分析事例

2022年と2023年に県内で発生したツキヨタケによる食中毒事例のうち、喫食残品が確保された2事例について、保健福祉事務所から残品の提供を受け、高速液体クロマトグラフ-タンデム質量分析装置(LC-MS/MS)による毒性成分の分析を行いました。その結果、2022年の事例(調理後の残品)では1 g当たり0.1~0.2 mg程度、2023年の事例(調理前の残品)では1 g当たり0.4~0.5 mg程度のイルジンSが検出されました。それぞれの患者が食べたツキヨタケの推定量を考慮すると、健康被害が発生するレベルのイルジンSを摂取した可能性があることが分かりました。2事例ともに、形態観察により原因キノコがツキヨタケであると判明した後に毒性成分の分析を実施しましたが、ツキヨタケが食中毒の原因であることを補完する結果を得ることができました。調理され、もとのキノコの形が分からないような事例においては、原因究明のため、毒性成分の分析はさらに重要になると考えられます。

毒キノコによる食中毒を防ぐために

これから秋になっていくとキノコ狩りのシーズンとなりますが、ツキヨタケに限らず、食用であると確実に判断できないキノコは、絶対に採らない、食べない、売らない、人にあげないようにしてください。万一、採取したり譲り受けたりしたキノコを食べて体調が悪くなった場合には、すぐに医療機関を受診してください。また、原因究明のため、食べ残した食品はできる限り取っておいてください。
なお、毒キノコの見分け方や食べ方について様々な言い伝えなどがありますが、次のような情報に科学的根拠はないため、決して参考にしないでください。

最後に

当所では、ツキヨタケを含む毒キノコのほか、有毒植物、有毒魚介類等による食中毒の原因究明や被害拡大防止のために、LC-MS/MS等を用いて様々な毒性成分の特定や含有量の測定を実施しています。また、一部の毒キノコや有毒植物においては、遺伝子検査による種類の特定も検討しています。今後も、毒キノコ等による様々な食中毒事例に対応できるよう、調査研究を継続します。

(参考資料及び参考リンク)

注:リンクは掲載当時のものです。リンクが切れた場合はリンク名のみ記載しています。

(理化学部 福光 徹)

   
衛研ニュース No.224 令和6年9月発行
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