新型コロナウイルス感染症流行の影響でワクチンという言葉を各メディアで日常的に目にするようになったと思います。わたしたちが生活している環境中には様々な細菌やウイルスが存在し、種々の感染症を引き起こします。ヒトは感染症から身を守るためにワクチンを開発しました。現在日本においても多くの感染症に対してワクチンの接種が行われています。今回は日本で行っている予防接種について解説します。
ワクチンとは
感染症の原因となる病原体に対する免疫ができる体の仕組みを利用して、病気に対する免疫をつけたり、免疫を強くしたりするために接種する物質をワクチンといいます。 |
予防接種の意義
予防接種を受けた人はその感染症に対して免疫を獲得できます。また、多くの人が予防接種を受けることで社会全体からその感染症が減少して、結果的に予防接種を受けていない人もその感染症から守られます。
ワクチンの種類
従来のワクチンは次のようなものに分類されます。
(1) | 生ワクチン:生きた細菌やウイルスを繰り返し培養するなどして、病原性が弱くなったものを選別して作ったもの |
(2) | 不活化ワクチン:細菌やウイルスを処理して毒性をなくしたもの |
(3) | トキソイド:処理によって、細菌が作る毒素の毒性をなくしたもの |
表1 ワクチン接種が行われている感染症
(新型コロナウイルス感染症を除く)
定期接種
予防接種法で定められているワクチンには定期接種と臨時接種があり、定期接種は「A類疾病」と「B類疾病」に分けられます。
A類疾病は主に集団予防、重篤な疾患の予防の観点から、国が積極的に勧奨しています。また本人、その保護者に努力義務があります。
B類疾病は主に個人予防に重点を置いており、国の積極的な勧奨や、本人、その保護者に努力義務はありません。
表2 定期接種の対象疾病
母子健康手帳
保護者の方は接種会場に忘れずに持参し、ワクチン接種記録欄に記載してもらいましょう。
海外渡航時に必要なワクチン
海外渡航時の予防接種は、黄熱のように入国時に予防接種証明書が要求されるものと、渡航先が流行地であり、本人または家族の健康を守るために推奨されているものがあります。
海外渡航時の予防接種医療機関の探し方
海外渡航時のワクチン接種が可能な医療機関は次の方法で調べることができます。
① | 海外渡航者向けワクチン接種検疫所リストで探す |
② | 予防接種機関データベースで探す |
保健所では予防接種は実施していません。検疫所やトラベルクリニック、渡航外来にご相談ください。
新型コロナワクチン
新型コロナワクチンには、短期間での開発、実用化が求められたため、従来とは異なる作製法を使用しています。
- mRNAワクチン:ウイルスのスパイクタンパク質(ウイルスがヒトの細胞に侵入するために必要なタンパク質)の設計図となるmRNAを脂質の膜に包んだワクチン。このワクチンを接種しmRNAがヒトの細胞内に取り込まれると、このmRNAをもとに細胞内でスパイクタンパク質が産生され、そのスパイクタンパク質に対して、中和抗体産生や、細胞性免疫応答が誘導される。
- ウイルスベクターワクチン:新型コロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列をコードする遺伝子をサルアデノウイルス(風邪のウイルスであるアデノウイルスに、増殖できないよう処理が施されたもの)に組み込んだワクチン。このワクチンを接種し、遺伝子がヒトの細胞内に取り込まれると、この遺伝子をもとに細胞内でスパイクタンパク質が産生され、そのスパイクタンパク質に対して、中和抗体産生や、細胞性免疫応答が誘導される。
- 組換えタンパクワクチン:新型コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパク質の遺伝子をもとに作られた組換えタンパク質を有効成分とするワクチンであり、このワクチンを接種し、組換えスパイクタンパク質がヒトの細胞内に取り込まれると、そのスパイクタンパク質に対して、中和抗体産生や、細胞性免疫応答が誘導される。組換えタンパクワクチンは不活化ワクチンの一種であり、B型肝炎ウイルスワクチンなどでの使用実績がある。
予防接種で大切なこと
予防接種は感染症に対して有効な予防方法ですが、以下の事に注意が必要です。
- 各疾病によって、予防接種による感染予防効果には差がある。
- 予防接種の効果には個人差がある。
- 持病等により、ワクチンを接種できない人がいる。
- 予防接種の有無によって、偏見や差別があってはならない。
- 予防接種をしていても、感染症の流行地域に渡航する際や、流行期には、各疾病に対する感染症予防を行うことが重要。
衛生研究所の取り組み
神奈川県衛生研究所では、厚生労働省、国立感染症研究所と協力して、感染症流行予測調査を行っています。感染症流行予測調査とは予防接種法に基づく定期接種対象疾病について集団免疫の現況把握および病原体検索などの調査を行い、予防接種事業の効果的な運用を図り、長期的な視野に立ち疾病の流行を予測することを目的としています。
(企画情報部 内藤智貴)
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