食中毒とは、食中毒を引き起こす細菌やウイルス、有毒物質が付着した食品を食べることにより、下痢や腹痛、発熱、吐き気などの症状が表れる健康被害のことをいいます。このうち、細菌が原因となる食中毒を細菌性食中毒といい、患者数は食中毒全体の約66%を占めています(令和2年)1)。今回はこの細菌性食中毒について、全国と神奈川県の発生状況を踏まえながらご紹介いたします。 細菌性食中毒細菌性食中毒は一般的に、感染型と毒素型に分類されます。感染型の食中毒は、原因となる菌が腸管内で増えることで起こる食中毒です。原因菌の増殖に時間が必要なため、潜伏期間は約8時間~数日間となります。毒素型の食中毒は、原因菌が食品中で作り出した毒素を摂取することで起こる食中毒です。原因菌が増殖する時間は必要ないため、潜伏期間は短く、約30分~8時間となります。表1は、発症機序別に代表的な食中毒菌を分類したものです。 表1 感染型食中毒と毒素型食中毒 発生状況の変遷と対策
図1は全国における平成10年から令和2年の細菌性食中毒発生状況です1)。
図2は神奈川県における平成19年~令和2年の主な細菌性食中毒の件数と1件あたりの患者数を表したものです4)。神奈川県において、細菌性食中毒1件あたりの患者数が最も多い食中毒菌はウェルシュ菌となっています。発生件数は他の食中毒菌と差はありませんが、非常に大規模な食中毒となる傾向があります。原因食品の多くは、カレー、シチュー、スープなどで、肉や魚介類を原料として加熱調理された食品です。これらが深底の鍋で大量に調理され、室温で放置された場合、嫌気状態※となった食品の内部でウェルシュ菌が増え始めます。一度に大量の調理をする給食施設や飲食店で発生しやすいため、1件あたりの患者数が多くなりやすいです。調理後は可能な限り早めに食べること、速やかに冷却することが重要となります。 ※酸素が存在しない状態を指します。ウェルシュ菌を含む一部の細菌は、発育に酸素を必要としない偏性嫌気性菌に分類されます。 最後に新型コロナウイルスが感染拡大を起こし始めた令和2年以降、感染予防として手指消毒が徹底され始めましたが、細菌性食中毒の発生は続いています。飲食店でデリバリーや持ち帰りをする機会の増加により、室温で長時間食品が放置されること、キャンプなどアウトドアの増加により、肉を加熱不十分の状態で食べてしまうこと等が原因として挙げられます。このように、コロナ禍の影響で増加してきた食中毒にも注意が必要です。また、食中毒と思われる症状が表れた場合、自己判断で医薬品を服用することは大変危険です。特に下痢止めは食中毒の原因菌の排出を遅らすことになり、症状が長期間継続する恐れがあります。症状が重篤な場合は医療機関を受診しましょう。 (参考リンク、参考資料)
(地域調査部 岩井 宏樹)
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