神奈川県衛生研究所 |
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福島第一原子力発電所事故から10年を迎えて
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2021年1月発行 |
東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故から10年が経過しようとしています。しかしながら、未だに原子力発電所で溜まり続ける放射性物質トリチウムを含む処理水の処分などについて話題に上るところです。神奈川県衛生研究所(以下、当所)では原発事故以前から現在に至るまで県内における放射能調査を実施しています。そこで今回は神奈川県の最新の放射能調査について放射能・放射線の基礎を交えて紹介します。
放射線と放射能初めに、放射線と放射能について簡単に解説します。放射線は、放射性物質から発せられる粒子線または電磁波のことを指し、放射能はある物質が放射線を出す能力を言います。また一般に「被ばくする」とは、放射線を受けることです。放射能の単位をベクレル(Bq)で表し、受けた線量をグレイ(Gy)またはシーベルト(Sv)で表します。Gyは放射線が物質に与えた線量であり、Svは生体が受けた線量でGyに放射線の種類や対象組織ごとに定められた係数を乗じて算出されます。これらの関係性は図1のように電球と光に例えられます。
原発事故に由来する放射性物質原発事故により環境中に放出された放射性物質で現在も検出されているものはセシウム134(134Cs)、セシウム137(137Cs)です。種類によって半減期1)に大きな違いがあり、134Csは半減期が2.1年、137Csは半減期が30年です。つまり10年が経過し、原発事故により放出された134Csは現在事故時の約32分の1になっていますが、137Csはまだ80%程が残っているということになります。 1) 半減期:放射性元素が崩壊してその原子の個数が半分に減少するまでの時間のこと。 神奈川県における放射能調査当所では環境中の放射能を把握するため、原子力規制庁委託事業である環境放射能水準調査を行っています。事故翌年度の2011年度と2019年度の調査結果を表1に示しました。その結果、雨水等による放射性セシウムの土壌深部への移行による増加やそれに伴うダイコンへの移行の増加が見られるものの、大部分の試料で放射性セシウムが大幅に減少したことが分かります。しかしながら、現在でも環境中に放射性セシウムは確実に残存していることを示しています。 表1 2011年度と2019年度における環境放射能水準調査結果 これらのデータは、「放射能」で表しており、人体への影響を示す「放射線量」と直接比較ができません。したがって、次項では放射線量の観点から原発事故の影響を考えてみましょう。 神奈川県における放射線量の推移当所では原発事故以前から空間中の放射線量を測定する装置であるモニタリングポストを設置しています。図2に2011年1月から2020年11月までの放射線量の月平均値を示しました。原発事故直後に一定期間、数値が上がりましたが、現在では原発事故以前と同程度の水準に戻ったことが確認できます。
2) 国際放射線防護委員会:専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行う民間の国際学術組織のこと。 まとめ以上から、現在も原発事故に由来する放射性物質は残存していますが、健康に影響を与えるほどの放射線量は確認されていないことが分かりました。 (参考資料および参考リンク)
(理化学部 芳賀 勇太)
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