神奈川県衛生研究所 |
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知っておくべきレジオネラ症のこと |
2019年7月発行 |
レジオネラ症はレジオネラ属菌を原因とする呼吸器感染症であり、人に感染するとレジオネラ肺炎と呼ばれる重い肺炎を引き起こすことがあります。適切な治療をしないと死に至ることもある怖い感染症ですが、誰もが感染するわけではなく、リスクを正しく理解することが大切です。今回は、レジオネラ症の基礎から家庭で気を付けるポイントを解説したいと思います。
レジオネラ症の現在
全国のレジオネラ症の患者報告数は年々増加しており、2018年には年間で2000件を超えました(図1)。神奈川県でも同様に増加傾向にあり、近年は連続して年間100件を超えています。このようにレジオネラ症は決して珍しい感染症ではありません。増加の背景には診断技術の進歩や高齢化などが考えられており、今後も増加していく可能性があります。
レジオネラ属菌とは?
レジオネラ属菌は実は身近に潜んでいる菌であり、土の中や川の中といった自然環境に生息しています。熱に弱く、60℃・5分間程度で死滅してしまいますが、この菌の特徴は微生物の一種であるアメーバの中で増殖ができることです。通常の菌はアメーバに取り込まれると消化され、栄養となりますが、レジオネラ属菌にとっては増殖の場となるのです。さらに土埃や人に付着したレジオネラ属菌は浴槽水などのいわゆる人工環境の水に入り込み、そこで増殖することもあります。
どのように感染するの?
レジオネラ症の代表的な感染源は入浴施設で使われているような循環式浴槽です。衛生管理が不十分な場合、浴槽内でレジオネラ属菌が増殖し、そこから発生するエアロゾルと呼ばれる小さな水滴とともにレジオネラ属菌を人が吸い込むことで感染します。入浴施設のようなたくさんの人が利用する場所が感染源となった場合、感染者が複数に及ぶ集団事例につながることもあります。一方で、散発事例も多く発生しており、感染源として加湿器、自家製腐葉土やシャワー水などが報告されていますが、不明な事例が多いです。このような場所が感染源となる原因も、衛生管理が不十分でレジオネラ属菌が増殖してしまうことであり、感染源となりそうな場所を衛生的に保つことが大切です。なお、人から人への感染はありません。
どんな症状なの?
レジオネラ症は、症状のタイプで重症型と軽症型に分けられます。重症型は、2~10日間の潜伏期間を経て高熱や咳などの症状を呈し、レジオネラ肺炎と呼ばれる肺炎に進行します。進行は早いため、速やかに医療機関を受診し抗菌薬の投与を受ける必要があります。一方、軽症型はポンティアック熱型とも呼ばれ、1~2日間の潜伏期間を経て風邪やインフルエンザに似た症状を呈しますが、治療を受けなくても1週間以内に自然治癒します。
誰でも感染するの?
ここまでのお話で、レジオネラ症は日常生活での感染の機会が多いことがおわかりいただけたと思います。しかし実際のところは、他の病原菌に比べて感染力は弱く、健康であれば感染しても発症することはほとんどありません。ただし、糖尿病や腎不全末期のような基礎疾患を持っている人、高齢者、新生児、お酒をたくさん飲む人、喫煙者などは発症するリスクが高くなります。2015年に神奈川県内の入浴施設で発生した集団事例を見てみますと、1日1000人程度と多数の利用者の中で発症した人は7人であり、そのうち6人が糖尿病などの基礎疾患を持っていました。このように、健康であれば発症することはありませんが、基礎疾患などのリスクのある人は注意が必要です。
家庭で気を付けることは?
図2 家庭で気を付けるポイント
図2にレジオネラ症の対策において、家庭で気を付けるポイントをまとめました。感染源となる場所を清潔に保つことが大事ですが、自身の健康を保つことがなによりも対策になります。暑い季節になりますが、十分な休養、食事、睡眠をとって健康管理に努めましょう。
また、入浴施設を利用した後に体調を崩した場合は速やかに医療機関を受診しましょう。
神奈川県衛生研究所の取り組み
神奈川県衛生研究所微生物部では県域でレジオネラ症が発生した時に、患者さんの喀痰からレジオネラ属菌を分離し、菌株の確保に努めることで集団事例に備えています。集団事例の際には、感染源を特定するため、感染源となる浴槽水等から分離した菌株と患者さんの菌株を比較する遺伝子検査を実施しています。感染源を早期に特定することで、レジオネラ症の感染拡大の防止に寄与しています。今後も県民の皆様や医療機関の方々の協力を基に、レジオネラ症の検査研究を進めていきたいと思います。
<参考文献>
(微生物部 中嶋直樹)
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