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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.181

知ってほしい薬剤耐性菌

2017年7月発行

「抗菌薬」という病気の原因となる細菌に効果のある薬を飲んだことがある人も多いと思います。このような抗菌薬が効かなくなったり効きにくくなったりした細菌のことを「薬剤耐性菌」といいます。薬剤耐性菌に感染すると、治療の際に効果のある抗菌薬を見つけるのに時間が必要となり、さらに治療に使用できる抗菌薬が少ないといった問題があります。薬剤耐性菌は世界的に増加傾向にあり、日本だけでなく世界的に大きな問題となっています。今回は、細菌が薬に耐性を持つようになる仕組みや神奈川県衛生研究所で実施している薬剤耐性菌の検査、国内で行われている対策などについて御紹介します。


細菌の薬剤耐性の仕組み

細菌が抗菌薬に対して耐性を示すには次のような仕組みがあります。
① 薬剤分解酵素の産生
 抗菌薬を分解する酵素を細菌が産生することで、抗菌薬本来の殺菌効果などが失われる。
② 菌の構造の変化
 細菌の中で抗菌薬が作用する箇所の構造が変化することで、抗菌薬が細菌に対して殺菌効果などを発揮できなくなる。
③ 細菌の膜の変異
 細菌の内部に入った抗菌薬を細菌の外に出すための働きが増強されたり、抗菌薬が細菌の中に入りにくくなったりすることで細菌内の抗菌薬の濃度が低くなり薬剤が十分に効果を発揮できなくなる。


図1 細菌の薬剤耐性の仕組み

神奈川県衛生研究所における薬剤耐性菌検査の一例

  • ディスク拡散法による薬剤感受性試験
    検査を行う細菌が、どの抗菌薬に対して耐性を示すのかを調べる検査です。寒天培地に検査を行う菌株を接種し、調べたい薬剤を含有したディスクを置きます。その後、細菌を発育させるために35±2℃で16~18時間培養を行います。培養後、薬剤含有ディスクの周りにできた細菌の発育できない範囲(発育阻止円)の大きさで感性(S)、中間(I)、耐性(R)のいずれであるかを判定します。

写真①では、抗菌薬が浸潤した領域に細菌が増殖できずディスクの周りに発育阻止円が見られるので、抗菌薬に「感性(S)」と判定します。写真②では薬剤含有ディスクの周りも白く細菌が発育しています。そのため、この細菌はディスクに含まれる抗菌薬に「耐性(R)」と判定します。

 
  • 薬剤分解酵素阻害試験
    細菌が薬剤耐性を示す仕組みの一つに、薬剤を分解する酵素の産生があります(前述「細菌の薬剤耐性の仕組み」①)。薬剤分解酵素阻害試験では、細菌が産生する薬剤分解酵素に対する阻害剤を用い、細菌が薬剤分解酵素を産生しているかを調べます。寒天培地に検査を行う菌株を接種し、同じ薬剤を含有するディスク2枚(写真③のa及びb)を少し離して置きます。さらに、酵素阻害剤含有ディスク(写真③のc)を2枚の薬剤含有ディスクのどちらか一枚の近くに置いて、細菌を発育させるために35±2℃で16~18時間培養を行います。



図2 分解酵素阻害剤の働き

 



写真③ 薬剤分解酵素阻害試験

その結果(写真③)ディスクaの周りには細菌が発育し、ディスクに含まれる薬剤に耐性を示していますが、同じ薬剤を含有するディスクbの周りでは阻害剤(ディスクc)が置かれている側に細菌の発育阻止円が広がっているのが分かります。これは、阻害剤により細菌が産生する薬剤分解酵素の働きが阻害されたことを示します。

 

薬剤耐性(Antimicrobial Resistance :AMR)アクションプラン

2015年の世界保健機関(WHO)の総会で、薬剤耐性に対するグローバル行動計画が採択されました。さらに、2016年に開催されたG7伊勢志摩サミットでも薬剤耐性菌への対応が議題に上がりました。
日本ではこのような世界情勢をうけ2016年に薬剤耐性に対するアクションプランが決定されました。このアクションプランでは「ワンヘルス・アプローチ」という考えのもと、関係機関が協力して問題に取り組んでいます。「ワンヘルス・アプローチ」とは、一つだけの分野、例えばヒトの医療分野だけで対策をするのではなく、薬の開発分野や動物の獣医療分野など異なる分野とも協力し問題を解決していく、という考え方です。
アクションプランでは次の6つの分野に関する「目標」を定めています。

 
分野 目標
1 普及啓発・教育 薬剤耐性に関する知識や理解を深め、専門職等への教育・研修を推進エボラ出血熱など
2 動向調査・監視 薬剤耐性及び抗微生物剤の使用量を継続的に監視し、薬剤耐性の変化や拡大の予兆を的確に把握
3 感染予防・管理 適切な感染予防・管理の実践により、薬剤耐性微生物の拡大を阻止
4 抗微生物剤の適正使用 医療、畜水産等の分野における抗微生物剤の適正な使用を推進
5 研究開発・創薬 薬剤耐性の研究や、薬剤耐性微生物に対する予防・診断治療手段を確保するための研究開発を推進
6 国際協力 国際的視野で他分野と協働し、薬剤耐性対策を推進

表 薬剤耐性(AMR)アクションプランにおける各分野の目標
厚生労働省ホームページ「薬剤耐性(AMR)アクションプラン(概要)」PDFより

 

薬の適正使用が大切!

薬剤耐性菌を増やさないためには、抗菌薬などの薬を正しく使うことが重要です。病院で医師が必要以上に薬を処方しないことも大切ですが、また、薬を使う人が医師の指示通りに適切に薬を服用することも重要となります。「症状が治まったから、残りの薬を飲むのは止めよう」「前に処方された薬が残っているから、それを飲んでみよう」など自分で判断せずに、医師の指示どおり薬を使用するようにしましょう。また、市販薬についても説明書をよく読み、分からないことは医師や薬剤師などの専門家に相談し、薬を正しく使いましょう。適正な薬の使用が薬剤耐性菌の予防や拡大防止の対策に繋がります。

 

<参考リンク>

(微生物部 政岡 智佳)
 
   
衛研ニュース No.181 平成29年7月発行
発行所 神奈川県衛生研究所(企画情報部)
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