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2016年7月25日改訂

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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.174

未病を知ろう!
~病気になってしまう前に~

2016年5月発行
(2016年6月改訂)

健康な状態と病気の間には「未病」という段階が存在します。病気になってしまう前に、「未病」を賢く理解して、より健康な状態に近づけましょう。


神奈川県を取り巻く現状

神奈川県は高齢者人口が急激に増加しています。平成32年には4人に1人が高齢者になると推計されており、高齢者増加率は沖縄県に次いで全国2位1)、後期高齢者の医療費は全国4位と非常に高いことが分かっています2)。また、要支援・要介護認定者も10年後(平成37年度)には、平成26年度比で約1.6倍に達することが予測されます3)。一方、現役世代の健康意識は非常に低く、特定保健指導注1)実施率は、大阪府の次に低い結果となっています4)。また、全国と比較して30代、40代男性の肥満の割合が高く、運動に対する意識も低いので5)、将来生活習慣病患者が増加する可能性があります。つまりどの世代においても問題点が存在するということです。このままですと近い将来、医療や介護をはじめとした社会システムが崩壊する危険性があります!

そこで!健康寿命注2)を延ばし、高齢になっても誰もが健康・幸せに暮らし、長生きできるような社会を少しでも早く実現する必要があります!

「未病」とは?

人の健康状態は、ここまでは「健康」ここからは「病気」というように明確に分けることはできません。健康と病気の間で連続的に変化している状態を「未病」といいます(図1)。未病は人によって様々な症状や程度を示すことから、未病の診断・治療には、あらゆる角度からの検討や対応が必要です。さらに、加齢に伴い複数の未病が絡み合ってきます(表1)。
この未病のコントロールの仕方で老化の個人差が生じ、それが寿命の相違につながってきます! そのため、特定の病気になってから治療を開始するのではなく、普段の生活において心身の状態を整えて、より健康な状態に少しでも近づける「未病を治す(=改善する)」取組みが大切になってきます注3)


図1. 未病の考え方

表1. 健康~未病~病気の移りかわり

私たちが目指す参加型医療

運動不足や過食など不適切な生活習慣は、その積み重ねの中で次第に病に近づいていくことから「未病」の最たる原因です。生活習慣を改善できれば、生活習慣病やそれに続く脳卒中や心筋梗塞などの重篤な病気の発症を未然に防ぐことができ、未病を改善することにつながります。
図2に示すように、高血圧などひとつの症状を治療しても生活習慣病の原因を完全に取り除くことはできません。まずはご自分の健康状態と向き合い「食・運動・社会参加」の3つの取組みにより参加型医療を目指しましょう(図3。ここで「医療」とは、広く、ひとの健康の維持・回復・促進などを目的とした活動のことをいいます。医食農同源注4)の考え方でバランス良い食生活を送り、人との出会いや交流を深め、日常生活に運動やスポーツを取り入れることで、ご自分やご家族の健康の維持・回復・促進を進めて下さい。


図2. 何故生活習慣を見直すのか


図3. 参加型医療を目指す

上手な薬の使い方~自己治癒力を補う~

最近では、手術後の食欲不振や低下した体力・抵抗力を補う目的等で、漢方薬が処方されることが多くなってきました。もともと漢方薬は、一人ひとりの体質や症状・健康状態に合わせてオーダーメイドで対応できるので、個人差が大きいと言われる未病や高齢者の状態改善に向いています。表2に示すように、西洋薬(一般的に使用されている薬と漢方薬はそれぞれ異なる特性を持ちます。漢方薬は副作用が少ないと言われますが、副作用が全くないわけではありません。西洋薬と漢方薬、互いの長所を生かし、個々の症状に合わせて上手に使い分けることが大切になってきます。ただ、未病や病気を治すためには、どんなに強力な薬を使ったとしても、最終的に自分で治そうとする力「自己治癒力」も欠かせません。例えば、薬の力を使って食欲が回復すれば体力も戻ってきます。医師・薬剤師のサポートのもと、ご自分の健康状態と積極的に向き合っていきましょう。

表2. 西洋薬と漢方薬の違い
西洋薬と漢方薬、互いの長所を生かし、個々の症状に合わせて上手に使い分けることが大切ですね!

神奈川県衛生研究所の取組み

当所では、未病を改善する取組みを支える仕組み作りの一環として、未病研究を開始しています。自覚症状のない未病の診断は大変難しいことから、未病診断のカギになるような因子を見つけるための研究を行っています。

近年、肥満や糖尿病、動脈硬化性疾患に共通する病態として、非常に低レベルの慢性炎症が注目されています。炎症状態の持続が、糖尿病や動脈硬化症などの生活習慣病の発症の原因になることが分かってきています(図4)。
慢性炎症は生活習慣病の原因
図4. 慢性炎症は各種疾患の中心にある
肥満も炎症が原因だった!
図5. 未病にも炎症が大きく関わる

図5に肥満の例を示しましたが、未病は生体内で小規模な炎症がおこりつつある状態といえます。そこで、長寿ホルモン6)である「アディポネクチン」量を遺伝子操作で減らしたマウスを使って解析しました。このマウスは炎症が起こりやすいことが分かっているため「未病」マウスとして最適といえます。研究の結果、血漿中アミノ酸やアディポネクチンなどのサイトカイン注5)濃度を測定し、詳細に解析することで、未病診断の指標となる可能性が考えられました。

 

参加型医療を目指しましょう!

未病は、医療機器の発達で検査値の異常などにより早期に発見できるようになりました。しかし、病気に至ってからでは改善しない疾患も多く存在しますし、今後は自覚症状のない時期にこそ未病への対応が求められてきます。このため、年齢に関わらず参加型医療を実践していくことが不可欠です。あくまでも未病を改善するのは私たち自身であり、それを導き、手助けするのが医療従事者、このような考え方を文化として育てていく必要があります。
未病を賢く理解して、皆で健康な状態に近づいていきましょう!

 
注1: メタボリックシンドロームの予防・解消に重点をおいた、生活習慣病予防のための健診・保健指導(40歳以上)を対象に実施。
注2: 健康上の問題がなく日常生活を普通に送ることができる状態。
注3: 神奈川県では、平成26年1月8日に「未病を治すかながわ宣言」を発表し、健康寿命を延ばし、高齢になってもだれもが健康に暮らすための未病を改善する取組みへの賛同と参画を呼びかけています。
注4: 病気の治療も日常の食事も、ともに生命を養い健康を保つために欠くことのできないもので、源は同じだという考え(医食同源に、地産地消の食材等を育てる「農」を取り込んだ健康観)。
注5: 免疫に関与する細胞から分泌されるタンパク質。多くの種類があり、特に免疫、炎症、細胞増殖・分化等に関与。
 

(参考)

注:リンクは掲載当時のものです。リンクが切れた場合はリンク名のみ記載しています。

   
衛研ニュース No.174 平成28年 5月発行
平成28年 6月改訂
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