人口と食中毒患者数を見ると、アメリカで患者が7,600万人/年発生したならば、毎年4人に1人が食中毒に罹患していることになります。日本の場合、平成24年の食中毒患者数26,699人で計算すると4,720人に1人となります。どうしてアメリカと日本で食中毒の発生率がこんなにも違うのでしょうか?
日本の食中毒統計は医師や医療機関により病原体が特定され、原因は食品と特定された場合のみ報告が保健所経由で集約されるシステムです。実際には下痢や嘔吐を起こしても医療機関を受診しない人が多いですし、医療機関でも検便まで実施しない場合もあります。また、感染は明らかでも感染源が特定されず、食中毒とされないものもあります。つまり日本のシステムはパッシブ(受動的)サーベイランスです。これは実態とは大きく乖離し、氷山の一角といわざるを得ません。
一方、アメリカでは平成8年以降CDCを中心としたアクティブ(積極的)サーベイランスを導入しています。これはフードネットと呼ばれるもので、全米10州において全米人口の15%にあたる4800万人を対象として、無作為あるいは特定の目的のための住民への電話調査と医療機関・検査機関に対する情報収集により、精度の高い実態に近い推計を行っています。前述のアメリカの食中毒患者数は、このように受動的な症例報告を超えた手法で算出されたものです。
日本でも、平成25年に国立医薬品食品研究所の窪田氏のグループが「食中毒調査の精度向上のための手法等に関する調査研究」において、CDCのフードネットの手法により宮城県を対象とした同様の調査を実施したところ、平成23年における全国のカンピロバクター食中毒の推定患者数は350万人で、同年の食中毒統計の2,341人の実に1,500倍という驚異的な推計値となりました。率直なところ私たちも年に1度や2度は胃腸炎症状を経験しているのではないでしょうか?この推計は感覚的にも実態に近いのではないでしょうか?残念ながらリステリア症については同様の調査はないのですが、今後、アクティブサーベイランスにより精度の高い推計値が求められることを期待します。
神奈川県では過去に市場に流通しているナチュラルチーズ等からリステリアを検出しており、新しい検査法にも迅速に対応することにより、食品の安全性を確保することが重要と考えています。
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