肝炎とは、肝臓の細胞に炎症が起こり、肝細胞が壊れていく病変です。その原因としては、ウイルス、アルコール、自己免疫、薬剤等がありますが、日本ではウイルス性が80%を占め、中でもB型肝炎ウイルスあるいはC型肝炎ウイルスの感染によるものが多くなっています。B型およびC型肝炎ウイルスの持続感染者は300~370万人いると推測されており、国内最大級の感染症とも言われています。しかし、持続感染者のうち約7割は自分の感染に気付いていないと考えられています。肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、多少の病気では自覚症状が現れないことから、B型、C型肝炎ウイルスに感染していても気がつかないまま、肝硬変や肝がんといった深刻な症状に進行していることがあります。
肝炎ウイルスはA型、B型、C型、D型、E型が確認されており、その他数種類が報告されていますが、日本で問題となるのは、A型、B型、C型、E型です(表)。 |
表 主な肝炎ウイルスの特徴
A型、E型肝炎ウイルスは主に食べ物や水を介して感染し、急性肝炎を発症しますが、慢性化することはほとんどありません。B型、C型肝炎ウイルスは主に血液や体液を介して感染します。持続感染状態となって慢性肝炎を発症する場合もあり、さらに放置すると肝硬変や肝がんにまで至る可能性があります。肝がんの死亡者数は年間約30,000人、がんの死亡者数で見ると、肺がん、胃がん、大腸がん、膵がんに次ぐ第5位となっています。 |
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B型肝炎は、感染している人の血液や体液を介してB型肝炎ウイルスに感染することにより起こる肝臓の病気です。感染経路としては、出産時の母親から子への感染(垂直感染)とそれ以外の感染(水平感染)があります。B型肝炎は感染した時期や健康状態によって、一過性感染で終わる場合と6ヶ月以上にわたって感染が持続する持続感染とに分けられます。現在の日本の感染者は110~140万人と推定されており、その多くは高齢者ですが、近年では性的接触等による若年者の感染が増えています。 |
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【垂直感染と水平感染】 |
■垂直感染(母子感染)
出産時に産道においてお母さんの血液を介してB型肝炎ウイルスが赤ちゃんの体内に入ることにより感染が起こります。日本では1986年以降、母子感染予防対策が行われるようになり、出産時の感染はほとんど防げるようになりました。
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■水平感染(性的接触、輸血、入れ墨(タトゥー)、針刺し事故等) |
以前は輸血、集団予防接種での注射器具の使いまわし、医療者の針刺し事故等による感染がありましたが、輸血血液については1972年以降、集団予防接種では1988年に感染予防対策が取られるようになり、また、医療者への積極的なワクチン接種により針刺し事故感染例もほとんどなくなってきました。しかし現在では、性的接触、入れ墨(タトゥー)、覚せい剤等の注射の回し打ち等による感染者が増えています。また、父親や祖父母等から子への家族内感染や保育園での集団感染の報告もあります。性的接触による感染では、従来の日本のウイルス型とは異なる欧米型のウイルスが流行しており問題となっています。 |
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【持続感染と一過性感染】 |
■持続感染出産時の垂直感染や、家族内等の水平感染により乳幼児期に感染した場合は、免疫機能が未熟なため、ウイルスを排除することができないまま持続感染者(キャリア)となる場合があります。
キャリアが思春期から30歳頃になると、免疫機能の発達により免疫細胞がウイルスを排除しようとします。その際、感染している肝臓細胞も一緒に壊し、肝炎を発症します。キャリアの10~20%は慢性肝炎へと移行し、その中から肝硬変、肝がんを発症する人も出てきます(図1)。 |
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■一過性感染 |
思春期以降にB型肝炎ウイルスに感染した場合は、ほとんどは一過性感染で終わります。急性肝炎を起こすことがありますが、大部分の人ではウイルスが排除され、慢性化はしません。ただし、急性肝炎を発症した人の中には、急激に症状が悪化して劇症肝炎を発症し、死亡する例もあります。また、性的接触による感染で増加している欧米型のウイルスでは、急性肝炎を発症後、その内20~30%は慢性肝炎に移行するとの報告もあります。 |
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C型肝炎は、感染している人の血液を介してC型肝炎ウイルスに感染することにより起こる肝臓の病気です。日本の感染者は190~230万人と推定され、その多くは60歳以上の高齢者ですが、近年では若年層の新規感染者が増えています。
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■水平感染(覚せい剤等の注射の回し打ち、入れ墨(タトゥー)、輸血、針刺し事故等) |
過去には輸血、血液製剤や未消毒の医療器具使用での感染が多かったのですが、現在では覚せい剤等の注射の回し打ち、入れ墨(タトゥー)やピアス等の針の使いまわし、カミソリや歯ブラシの共用、まれに性的接触でも感染の可能性があるといわれています。 |
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■持続感染 |
C型肝炎ウイルスに感染し、持続感染となると、慢性肝炎、肝硬変、肝がんへと進行する場合があります。自覚症状が無いことも多く、感染に気がつかない人や感染を知っていても医療機関に受診していない人が多いのが現状です。C型肝炎ウイルス感染では、60~80%が慢性肝炎を発症し、その後、約20年で30~40%が肝硬変となり、そのうち年率約7%が肝がんへと進行します(図2)。我が国の肝がん患者の80%はC型肝炎ウイルス感染者であると言われています。 |
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B型、C型肝炎ウイルス検査は一般的な健康診断項目には含まれていないことが多いため、以下に該当される方は、自ら希望して検査を受けることをお勧めします。
☆ これまでB型、C型肝炎ウイルス検査を受けたことがない、結果を覚えていない
☆ ご家族にB型、C型肝炎ウイルス感染者の方や肝がんの患者さんがいる
☆ 健康診断の血液検査で肝機能検査(AST(GOT)、ALT(GPT))*値の異常を指摘されたが、まだ医療機関を受診していない
☆ 母子感染予防策が実施されていなかった1985年以前に産まれた
☆ 輸血や血液製剤の投与、大きな手術を受けたことがある
☆ 入れ墨(タトゥー)を入れたり、医療機関以外でピアスの穴を開けたことがある
*肝機能検査の値に異常が無い場合でも肝炎ウイルスに感染している場合がありますので、一度は肝炎ウイルス検査を受けることをお勧めします。 |
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自治体による肝炎ウイルス検査は、以下で受けることができます。
1.お住まいの市町村が実施する住民基本健診
(40歳以上、医療機関で実施する個別健診や集団検診)
2.お住まいの都道府県等の保健所における検査 |
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神奈川県(横浜市、川崎市、横須賀市、相模原市、藤沢市を除く)では、県保健福祉事務所(保健所)と県内の一部医療機関で、無料のB型及びC型肝炎ウイルス検査を実施しています。詳細につきましては最寄りの保健所にお問い合わせください。横浜市、川崎市、横須賀市、相模原市、藤沢市にお住まいの方、また、市町村の住民基本健診につきましては、お住まいの市町村へお問い合わせください。
当衛生研究所では、厚生労働省肝炎等克服政策研究事業肝炎ウイルス検査体制研究班の一員として、全国自治体の肝炎ウイルス検査が受けられる場所を分かりやすく検索できるインターネットサイト「肝炎ウイルス検査マップ」を作成し、肝炎ウイルス検査の普及啓発を行っております。是非ご活用ください。 |
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現在、新しい治療薬が次々に開発されており、もし肝炎ウイルスに感染していたとしても、医療機関で適切な治療を受けることで、ウイルス性肝炎は治る、もしくはコントロールできる病気になっています。肝炎治療医療費助成制度もありますので、最寄りの保健所にご相談ください。
どうぞご自身の健康維持のために、一生に一度は肝炎ウイルス検査を受けてみてくださいね!
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(参考リンク) |
◆ 神奈川県 肝炎に対する取組 |
◆ 厚生労働省 肝炎総合対策の推進 |
◆ 国立研究開発法人国立国際医療研究センター肝炎情報センター |
(微生物部 佐野貴子)
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衛研ニュース |
No.165 平成26年 10月発行 |
発行所
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神奈川県衛生研究所(企画情報部) |
〒253-0087 茅ヶ崎市下町屋1-3-1 |
電話(0467)83-4400 FAX(0467)83-4457 |
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