レジオネラ症は、土壌など自然界にいるレジオネラ属菌が洗浄や消毒が不十分な浴槽水や冷却塔水などに入って増殖し、それがエアロゾル(微小な水滴)とともに人体へ吸い込まれて発症する呼吸器感染症の一種です。今年(2014年)の6月に、埼玉県の日帰り入浴施設で感染し、死亡したという事例がありましたが、このレジオネラ症患者の報告数が全国的に増加しているため、報告数の推移や予防策などについてお話します。
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レジオネラ症は大きく分けて肺炎型とポンティアック熱と呼ばれる病型があります。肺炎型は、悪寒や高熱、咳などの肺炎症状のほか、腹痛、下痢、意識障害などを伴う場合もあり、適切な治療が行われないと急速に悪化し、死亡事例(致死率2~3%)につながることもあります。一方、ポンティアック熱は、風邪様症状で自然治癒することもあるため、集団感染などの特殊な場合以外は診断されることはありません。また、レジオネラ症は人から人への感染は報告されていません。 |
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レジオネラ症は感染症法で「4類感染症」という全数把握対象疾患*1)に分類されており、医師はレジオネラ症であると診断した場合、直ちに保健所に届け出ることが義務付けられています。図1は全国と神奈川県のレジオネラ症患者報告数の推移を示したものですが、年々増加していることが分かります。レジオネラ属菌の培養検査は難しく、医療機関で確定診断がつきにくい場合がありましたが、2003年から簡易な尿中抗原検査法による診断が保健適用となったことなどにより、報告数が急激に増加したといわれています。 |
図1 レジオネラ症患者報告数の年次推移 |
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しかし、その後も増加し続けていることに関しては、その理由がわかっていません。神奈川県の報告数は2010年以降55人から65人で推移しており、2013年には神奈川県は東京、宮城、愛知、大阪に次ぐ全国で5番目に報告数の多い県となっています。図2には週ごとの報告数の累積を表していますが、今年は1月から例年よりも報告数が多く、このままのペースで増加すると報告数が最も多かった昨年以上の報告数になると予想されます。 |
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図2 累積レジオネラ症患者報告数の推移 |
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*1)感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(2003年11月改訂)に基づく感染症発生動向調査では、レジオネラ症は4類感染症全数把握疾患に定められ、レジオネラ症であると診断した医師に届出が義務付けられており、患者の発生動向を調査しています。 |
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図3は報告のあった患者の初診日を月ごとに集計したものです。これを見ると例年7月の梅雨期がピークとなっています。坂本ら*2)は月別報告数は相対湿度と相関を示し(図4)、また、レジオネラ属菌を含んだエアロゾルの生存期間も相対湿度に依存することが知られており、そのため、梅雨期にはレジオネラ属菌に感染しやすい状況になり、患者数の増加につながっているものと考えられています。 |
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*2)坂本龍太、大野 章:レジオネラ症の隠れた感染経路、自動車の運転や雨天は危険因子か? 病原微生物検出情報(IASR)、29、331-332、(2008) |
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レジオネラ症の発生時にはまず感染源となる箇所を発見し、洗浄や消毒などによってレジオネラ属菌を除去することが拡大防止対策を進める上で重要です。しかし、2011~2013年の神奈川県のレジオネラ症患者報告における推定感染源では(図5)、約半数は感染源が不明、1/3は浴用施設やプール、加湿器等が感染源であり、少数ですが粉じんや職業由来の感染源もありました。 |
図5 レジオネラ症患者推定感染源 |
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レジオネラ属菌は他の病原菌に比べて感染力はそれほど強くないといわれています。しかし、免疫力の低下した人(高齢者、幼弱者、免疫不全者等)や基礎疾患(糖尿病患者、慢性呼吸器疾患者等)を持っている人の場合、感染するリスクが高くなります。また、職業的にレジオネラ属菌を吸い込むおそれがある人(園芸や土木業務従事者、入浴施設や冷却塔の清掃業務従事者等)はレジオネラ属菌を含んだエアロゾルを吸い込まないように作業時に必ずマスクを着用するといった注意が必要です。レジオネラ属菌が生息しやすい循環式浴槽、ジャグジー、打たせ湯、温水シャワー、冷却塔などは洗浄及び消毒し、レジオネラ属菌が増殖しないように管理することが重要です。しかし、レジオネラ属菌は管理が行き届かない箇所で存在している可能性があり、このような状況でエアロゾルをまったく吸い込まないようにすることは実際難しいと思われるため、まずは体力が低下しないように十分な休養、睡眠、食事をとり、規則正しい生活をして健康な身体を維持することも大切です。 |
(参考リンク) |
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(微生物部 渡辺 祐子) |
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