農薬は農作物を病気や害虫から守り、農作物の成長を促進または抑制するなど、さまざまな目的で使用されます(表)。しかし、収穫された後にも農薬が農作物に残り、人がそれを摂取したり、家畜の飼料として利用され、牛乳や食肉を通して人が摂取したりすることも考えられます。このように作物など食品に残った農薬を「残留農薬」と言います。農薬は使用量や濃度、使用時期などを誤って使用すると、基準を超えて食品から検出されることがあり得るため、保健福祉事務所等による食品の抜き取り検査と、その食品の衛生研究所による残留農薬検査が計画的に行われています。今回は、食の安全・安心の確保に向けて、衛生研究所が取り組んでいる残留農薬検査について紹介します。
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食品ごとにそれぞれの農薬について残留が許される量を決めたものが残留農薬の基準、「残留基準」です。 |
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表 主な農薬の種類 | ||||
※ポジティブリスト制度:一定の量を超えて農薬等が残留する食品の販売等を禁止する制度。基準のある農薬等については現行の基準を適用し、基準のない農薬等については一律基準0.01ppmを適用した。 |
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残留農薬の検査方法を簡単に説明します。検査をする食品(検体)をフードプロセッサーで細かく砕き、均質化させます。その後、溶媒を加え、さらに均質化させ、農薬を抽出します。そして、抽出した溶媒を別の溶液と混和し、十分振とうした後、農薬を含む溶媒を分離、濃縮します。最後に、不純物を取り除き、質量分析計という分析機器で農薬を測定します。 |
検体を細かく砕き、均質化させます。 | ||||
細かく砕いた検体に溶媒を加え、さらに均質化させ、農薬を溶媒に抽出させます。 | ||||
抽出した溶媒を別の溶液と混和し、十分振とうした後、農薬を含んだ溶媒を分離します。 | ||||
農薬を含む溶媒を濃縮します。 | ||||
農薬以外の不純物を取り除きます。 | ||||
質量分析計という分析機器で測定します。 | ||||
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当所では神奈川県食品衛生監視指導計画に基づき、県内に流通している食品の残留農薬検査を実施しています。検査にあたっては、国内での検査結果から検出事例のある食品及び検査項目、国内外で使用(販売)実績のある農薬を対象とした検査項目、事件事故等により特別に検査が必要な食品及び検査項目等を考慮しています。平成19~24年度は、野菜(トマト、にんじん、キャベツ、たまねぎ等)、果物(レモン、いちご、バナナ、りんご等)、穀類(玄米)、食肉(牛肉、豚肉、鶏肉)、魚介類(サケ)、牛乳の検査を実施しました。国産食品では野菜、輸入食品では果物の検査が多くなっています(図1)。また、年次による総検体数には大きな変動はありませんが、総農薬項目数は年々少しずつ増えています(図2)。
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平成19~24年度の農薬検出検体数を見ると、過去6年間、毎年160検体以上、7000項目を超える検査のうち、28検体から農薬が検出されました。このうち、基準を超えたものは1検体のみで、他は基準値以下でした。近年は果物より野菜の検出数が増えています(図3)。野菜ではえだまめ、レタス、ほうれん草、にら、ピーマンなどから、果物ではもも、なし、マンゴー、いちごなどから農薬が検出されました。また、レタス、ほうれん草、にら、ももでは1つの食品から2種類の農薬が検出された事例がありました。平成24年度には国産春菊からボスカリドという農薬が一律基準の0.01ppmを超えて検出され、食品衛生法違反となりました。農薬別では殺虫剤25件(図4)、殺菌剤7件(図5)が検出されており、殺虫剤の検出件数が全体の約8割に上りました。殺虫剤ではシペルメトリン、フェンバレレ-ト、ペルメトリン等のピレスロイド系殺虫剤が過半数を占めました(図4)。殺菌剤ではボスカリドが2件検出され、このうち1件が前に説明した春菊で基準値を超えたものです(図5)。基準値を超えた食品については、当該食品営業所を所管する保健福祉事務所等が、必要な措置を講じています。 |
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当所地域調査部では、今年度(平成25年度)も160検体の食品について、残留農薬検査を実施しています。精度ある検査を着実に実施し、得られた結果は、食の安全・安心を支えるために役だてています。私たちは、今後とも迅速で信頼性の高い検査を実施し、県民の皆様の健康と安全を守る使命を果たせるよう努めてまいります。 |
(参考リンク) |
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食品中の残留農薬等(厚生労働省) |
( 地域調査部 垣田 雅史) |
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