神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.156

感染性胃腸炎に気をつけよう!!
− ノロウイルスに注意 −

2013年5月発行
   おう吐や下痢を起こし病院へ行くと「お腹の風邪」とか「感染性胃腸炎」と診断されることがあります。感染性胃腸炎を起こす原因にはウイルスと細菌があります。特に冬期には、これらの症状をおこす原因の多くはウイルスで、その中で最も代表的なウイルスがノロウイルスです。しかし、ノロウイルスは冬期だけでなく一年を通じ注意が必要です。今回は、ノロウイルスの流行状況、臨床症状、感染経路、予防方法等をご紹介します。
 
ノロウイルスとは
   ノロウイルスは1968年、アメリカ合衆国オハイオ州ノーウォークという町の小学校で発生した集団感染性胃腸炎の患者便から初めて検出されました。この町の名前からノーウォークウイルスと名付けられましたが、1972年には、電子顕微鏡によるウイルス粒子の形態的特徴(写真)から小型球形ウイルス(SRSV)と呼ばれるようになりました。その後、各地でこのウイルスによる集団胃腸炎や食中毒様症状の患者の発生が報告され、2002年の国際ウイルス学会でノーウォークウイルスはノロウイルスと正式に命名されました。ノロウイルスは人工的に培養ができず、電子顕微鏡による観察が基本的な検査法でした。電子顕微鏡による検査の感度は低く、形態学的にノロウイルスであっても決め手がないという難点がありました。現在では、ノロウイルスの塩基配列が明らかになり、ノロウイルスがもつ特異的な遺伝子を検出するPCR検査が主流となりました。ノロウイルスには遺伝子群としてGTとGUがあり、これらはさらに細かく36種類以上の遺伝子型に分けられます。


 
ノロウイルスの流行状況
   ウイルスを原因とする感染性胃腸炎は、例年冬期を中心に流行を起こします。最近7年間の感染性胃腸炎の流行状況を見てみると、2006/2007シーズン(2006年9月から2007年8月)に大流行があり、今シーズン(2012/2013)は2006/2007シーズンに次ぐ規模の流行となりました(図1)。2006/2007シーズンの流行は、ノロウイルスの遺伝子型GU/4によるものでその後も毎年検出されています。


   大流行が起こる一つの要因として遺伝子型の変化が挙げられます。今シーズンの初めに、2006/2007シーズンとは異なったGU/4変異型が各地で検出されたことから、大流行が予測されました。神奈川県でもノロウイルスの患者発生が多くなった11月からGU/4変異型が検出され、その後県内で発生した食中毒事例6例はいずれもGU/4変異型を原因とする事例でした。感染性胃腸炎患者から検出されたノロウイルスの約75%が同じくGU/4変異型であったことから、神奈川県内でもGU/4変異型による流行が確認されました。
 
臨床症状
   ノロウイルスの潜伏期間は1〜2日で、主な症状は突発的な吐き気やおう吐、水様性の下痢、腹痛、発熱です。小児ではおう吐が多く、成人では下痢が多いのも特徴です。通常は1〜2日でおう吐・下痢の症状は治まり後遺症もありません。また、感染しても症状がでない場合(不顕性感染)や軽症で終わる場合もあります。ノロウイルスが直接の原因となり死亡することはありませんが、高齢者の場合には脱水、おう吐物による窒息、誤嚥性肺炎など二次的要因で死亡することがあります。脱水症状を起こさないように経口または輸液による水分補給を行うことが大切です。抗生物質は効き目がなく、逆に下痢を長引かせることがあります。下痢止めもあまり投与せず、吐き気止めや整腸剤による対症療法が一般的です。
 
感染経路
 ノロウイルスは、食中毒として発症する場合と感染症として発症する場合の二面性を持ち、感染経路が異なります。
 食中毒の感染経路は経口感染です。冬期にノロウイルスに汚染された牡蠣やアサリ等の二枚貝を生食することや加熱不足の状態で食べることで発症します。最近では二枚貝を原因とする食中毒よりも、調理従事者等がノロウイルスに汚染された手指で食品を汚染(二次汚染)し、その食品を食べることが原因となる食中毒が多数報告されています。
 感染症の感染経路は接触感染や飛沫感染です。接触感染は、汚染された場所や物品等を触ることで自分の手指にノロウイルスが付着し、そのノロウイルスがさらに食品や食器等を介して口に入ることです。飛沫感染はノロウイルスを含んだおう吐物等が乾燥して空中に漂い、これが口に入り感染することです。ノロウイルスは微細で空気中を長期間漂い続け、感染力がとても強いため、わずかな量のウイルスが口に入るだけで感染がおこります。流行期には、学校、職場、家族内等でおこるヒト-ヒト感染による患者発生数が、食中毒による患者発生数を上回ります。



 
下痢便・おう吐物等の処理方法
 ノロウイルス患者の便やおう吐物にはウイルスが大量に含まれ、その消毒には塩素系消毒剤(ピューラックス、ハイター等)を用います。通常の消毒剤である塩化ベンサルコニウム(オスバン等)やアルコール消毒は効き目が低いため、必ず塩素系消毒剤を使用してください。以下に、おう吐物等の処理手順を示します。
@ 処理をする人以外は室外に出すか、できるだけ遠くに離します。
A 処理前に必要な物(塩素系消毒剤、ペーパータオル、ビニール袋、手袋、マスク等)を準備し、できるだけ速やかに処理を始めます。
B 塩素系消毒液(1000ppm)を浸したペーパータオル等でおう吐物を覆い、ビニール袋を介してペーパータオルごと拭き取ります。塩素系消毒剤(200ppm以上)でおう吐物等のあった箇所を外側から中心部に向かい、おう吐物等は広範囲に飛散しているのでできるだけ広範囲に消毒します。処理をした人の靴底にもウイルスが付着しているので、靴底も拭きます。
C 使い終わったペーパータオル、手袋等は全てビニール袋に入れ密封します。
D 窓を開け、室内の換気を十分にします。処理後は流水と石鹸で良く手を洗います。手指に目に見える汚れがなくても必ず流水・石鹸による手洗を行います。

予防方法
   ノロウイルスにはワクチンがありません。また、ノロウイルスに対する免疫力は持続せず、何度でも感染する可能性が有り、その感染を予防することは容易ではありません。一旦、家庭内や施設内に持ち込まれれば、防御することは難しく、感染の規模を最小限に抑えるための一番の予防法が、流水・石鹸による手洗いとうがいです。下痢・おう吐等の症状が回復した後でも、1〜2週間、長い場合には1ヶ月程度に渡り便中にノロウイルスは排泄されています。また、不顕性感染者も同様にウイルスを排泄しているので、感染源にならないよう注意が必要です。家族や周りの人が下痢・おう吐等の症状がある場合はもちろん、ノロウイルスの流行期には、至るところにノロウイルスが潜んでいる可能性があります。トイレ後および調理や食事前の手洗を厳重に行ってください。 マスク・手洗いのイラスト(カラー)
   
衛生研究所での取り組み
   衛生研究所では、県内の病原体定点医療機関から依頼された感染性胃腸炎の患者検体について下痢症ウイルスの検査を実施し流行状況の調査や、県内で発生した食中毒事例について、原因究明のための調査を行っています。それらの発生状況等の情報は、神奈川県衛生研究所のホームページでお知らせしています。
 
(微生物部 鈴木 理恵子)
 
 
   
衛研ニュース No.156 平成25年5月発行
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