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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.153

のどが痛いのはどうして?
A群溶血性レンサ球菌(溶連菌)咽頭炎

2012年11月発行
のどが痛くなる病気に急性咽頭炎・扁桃炎があります。その原因となる微生物は、ウイルスが大半を占めますが、細菌が原因となることもあります。細菌のなかで重要なのは、A群溶血レンサ球菌(溶連菌、Group A Streptococcus, Streptococcus pyogenes)による急性咽頭炎・扁桃炎で、診断・治療が遅れるとリウマチ熱や急性糸球体腎炎などの合併症を起こすことがあります。今回は、このA群溶血レンサ球菌が引き起こす病気と菌の特徴についてご紹介します。
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは
A群溶血レンサ球菌の感染によって起こります。この細菌が小児の咽頭炎から分離される頻度は、5歳をピークに、4歳~9歳で高く、幼児から学童に多い疾患ですが、成人も感染することがあります。季節的には冬から春に多発し、学校・家庭内など集団発生が多いことも特徴です。
感染経路は、保菌者の唾液・鼻汁の飛沫感染(咳やくしゃみなどで飛び散った菌を吸い込むことで感染すること)によって、人から人へ感染を起こします。また、接触感染(菌の付いた手やものに触った後に口や鼻に触って感染すること)や食品を介しての経口感染(手についた菌が調理中に食品に付着して感染すること)も報告されています。
症状は、のどの痛み(食べ物を飲み込む時に痛みを伴うこともあります)や、突然の発熱、悪寒(おかん)戦慄(せんりつ)、全身倦(けん)怠(たい)感(かん)、頭痛、関節痛などがあります。潜伏期は1~4日です。菌が産生する発赤毒素(Streptococcal pyrogenic exotoxin : SPE)に対し免疫のない人は猩(しょう)紅(こう)熱(ねつ)となり、皮疹、苺(いちご)舌、気管支炎などの全身症状を呈します。
神奈川県衛生研究所では、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の患者から病原体の検出を行っています。神奈川県の2011年におけるA群溶血レンサ球菌の月別検出状況(図1)は、患者の発生動向※と同じように、冬季と初夏に多く、夏季には減少しています。
※感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(2003年11月改訂)に基づく感染症発生動向調査では、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、5類感染症定点把握疾患に定められ、全国約3000の小児科定点医療機関から毎週、報告があり、患者の発生動向を調査しています。
A群溶血レンサ球菌とその検査について
現在、どのような菌が流行しているのか、それはどんな特徴を持つのか、今までの菌と変わってきているのかということを調べるために当所では、疫学上必要な血清型別検査、毒素遺伝子型検査、分子疫学解析など様々な検査をしています。そのためには、培養によって菌を分離することが基本です。
分離された菌はどのようにして、A群溶血レンサ球菌と判定するのでしょうか。
①溶血性を観察します。この菌は、菌が産生する毒素のため血液を溶かすことが特徴です。β溶血(完全溶血)、α溶血(不完全溶血)、γ溶血(非溶血)と分類されます。そこで、ウマまたはヒツジの血液を加えた寒天培地に接種して、発育してきたコロニーの周囲にできた溶血環をよく観察し、β溶血のコロニーを選択します(図2)。
②グラム染色を行います。レンサ球菌は紫色に染色されるグラム陽性球菌でネックレスのように繋がって(連鎖して)います(図3)。
③酵素カタラーゼ(catalase)テストを行い、陰性であることを確認します。このテストは、同じグラム陽性球菌であるブドウ球菌等と鑑別するために行います。
レンサ球菌は、C多糖体抗原性という特徴をもとに分類する方法があります。これらの抗原性はランスフィールド抗原(Lancefield antigens)と呼ばれ、古くから用いられており、A~V群(I,Jは除く)とアルファベット名がつけられています。このランスフィールド血清群別方法でA群であることを確認します。
また、A群溶血レンサ球菌の型別には、菌体表層にあるT蛋白とM蛋白による分類もあります。M蛋白による型別は、病原因子として重要ですが、市販血清がないため一部の機関でのみ行われています。T蛋白による型別(T型別)は、疫学調査の手段として用いられています。神奈川県内の経年推移をみると、例年T1、T4およびT12型が高い傾向にありますが、2010年に比べ、検出数および検出率とも2011年はTB3264が増加していました。ここ4年ほどT28型の検出率が高くなっています。2011年は、T1、TB3264、T28の順で全体に占める割合が高かったことがわかります(図4)。

現在ではさらに溶血性、抗原性を調べる血清型に加え、生化学的性状、増殖の特徴、遺伝子検査(emm遺伝子型別、発赤毒素(spe)遺伝子型別)などを組み合わせて分類されています。

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の治療には、現在のところ、ペニシリン耐性のA群溶血レンサ球菌は報告されておりませんのでペニシリン系薬剤が第一選択薬剤として用いられています。患者にアレルギーがあるときは、マクロライド系薬剤が用いられています。また、セフェム系抗菌薬を用いる場合もあります。早期診断には、迅速診断キットが広く用いられています。適切な抗菌薬投与を行えば24時間以内に他の人への伝播力がなくなるとされています。通常は、数日で熱が下がります。しかし、解熱後も合併症予防の点から、抗菌薬の使用期間を守り飲み続けることが必要です。合併症として起こる可能性がある、急性中耳炎、急性副鼻腔炎、リウマチ熱、急性糸球体腎炎などを防ぐためにも治療を早めに受けていただくことが重要です。
A群溶血レンサ球菌による感染は、人から人へ咳やくしゃみによって感染することが多いので、マスクや手洗いによって予防することができます。また、咳やクシャミを防いだ手をよく洗わずに、手についた状態で触ること、料理することによって感染する場合もあります。皮膚に傷があり赤みや腫れがある場合は、きちんと消毒した上で早めに医療機関を受診してください。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症
A群溶血レンサ球菌は、通常は、咽頭や皮膚から分離されます。まれに、普段は検出されない箇所(血液や筋肉の中)から検出される場合があります。発熱や傷の痛みとともにショック症状や肝不全、腎不全を発症します。この病態はStreptococcal toxic shock syndrome(STSS)と言われ、急激に悪化することから、「ヒト食いバクテリア」とも呼ばれています。
咽頭炎の場合と異なり、傷から感染することが多く、また患者の年齢は50~60代に多い傾向にあり、3~4割の死亡例が報告されています。神奈川県の劇症型溶血性レンサ球菌感染症による死亡例は2007年から2011年の5年間で15例が報告されています(表1)。性別では、男性10例、女性5例と男性が多く、年齢は、32~84歳(平均63歳)です。血清群別にみると、A群が11例で最も多く、G群3例、C群1例でした。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の病原体については、全国の地方衛生研究所と国立感染症研究所が協力して詳細な解析を行っています。
神奈川県衛生研究所の取り組み
A群溶血レンサ球菌は、小児から高齢者まで誰もが感染する可能性がある細菌です。適切な診断と治療を早期に受ければ、予後が良好な疾患です。しかし、原因はまだ分かっていませんが、時には劇症型溶血性レンサ球菌感染症のような重篤な症状を引き起こすこともあります。
当所では、検出された病原体について、その性状、薬剤感受性試験や遺伝子解析を実施するとともに、その他に新しい感染症に備えるため検出法の検討等も行っています。今後もこのような疫学情報の積み重ねや患者発生状況・流行型の把握によって、重症化や感染拡大の防止に努めてまいります。

(微生物部 大屋 日登美)

   
衛研ニュース No.153 平成24年11月発行
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