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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.150

緊急時の放射能検査

2012年6月発行
    平成23年3月11日14時46分頃、東日本大震災とそれに伴う巨大津波が発生し、東北地方を中心に甚大な被害がもたらされました。この巨大津波により、東京電力福島第一原子力発電所では全ての電源を喪失し、原子炉が冷却不能となり、水素爆発などで大量の人工放射性物質が環境中に放出されました。暫定で、国際評価基準(INES)レベル7(深刻な事故)と評価される重篤な事故です。神奈川県衛生研究所では日頃から平常時における放射能調査を行っていましたが、震災翌日から緊急時の環境放射能モニタリングを開始しました。
 
放射能検査の取り組み
   神奈川県衛生研究所では、文部科学省の要請を受け、平成23年3月12日から空間放射線監視や降下物等、緊急時の環境放射能モニタリングを開始しました。これらの試料から人工の放射性物質が検出されたため、神奈川県としてさまざまな放射能検査に取り組みました。
 
空間放射線量率    3月12日から、モニタリングポスト(以下、MP)(図1)による放射線量(空間放射線量率)監視に24時間体制で臨みました。MPは地上4.9mにある屋外固定型のヨウ化ナトリウム(タリウム)[NaI(Tl)]検出器と屋内設置の記録計で構成されています。検出器がガンマ(γ)線を常時検知し、記録計はその信号を線量率に変換し1時間値として記録紙に打ち出します。担当職員が交代で1時間ごとに記録計の値を読み取り、国等に情報を報告しました。
  6月13日からは、人が生活する高さの地上1mにおいても、NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータ(図1)を用いて、毎朝10時にMP建屋前の芝地で放射線量を測りました。

モニタリングポスト(高さ 4.9m)
 
サーベイメータ( 1m)
 

図1 空間放射線量の測定

 
大気中に浮遊しているちり等や、水道水、海水、食品等についてはゲルマニウム(Ge)半導体検出器を用いたγ線スペクトロメーターによる放射性物質のγ線測定を開始しました(図2)。
 
降下物     3月14日から、毎朝9時に表面積約500cm2の雨水採取器に溜まる降下物を採取しました。平常時は、降水があるときのみ放射能測定します。緊急時では、降水のないときも採取器に付着した塵埃をイオン交換水で洗いこみ測定しました。
大気浮遊じん    3月14日から、2台の 集塵機を交互に使用し午前 9 時から大気浮遊じんの24時間採取を行いました。大気浮遊じんはろ紙に捕集した後、実験室でろ紙の形状を整えポリ袋に密封して測定しました。
水道水     3月18日から、毎朝9時に当所実験室の蛇口水を5L採水し、そのうちの2Lを測定しました。
海水    4月12日から8月まで、県内の海水浴場の海水を測定しました。
食品   3月21日から、原乳、葉菜類、茶葉、肉類、淡水魚、きのこ、アサリ等の食品について、固形食品は専用の包丁やフードプロセッサーを用いて細粒状にしたのち、液状のものはそのまま専用容器に詰め測定しました。
     
     
【降下物・大気浮遊じん】
大気中のちりなどを集塵機で吸引し、それをろ紙に捕集した後、ろ紙を成形し測定器に入れます。
  【水道水・食品等】
液体食品(牛乳等)や水道水は2リットルの専用の容器に入れた後、測定器に入れます。
     
   
       
       
雨水やちりを採取器で捕集した後、資料を専用の容器に入れた後、測定器に入れます
 
 
固形食品は細かく刻み、専用の容器に入れた後、測定器に入れます。
図2 ゲルマニウム半導体検出器による測定
 
放射能検査結果の状況
   3月15日午前5時頃よりMPによる空間放射線量率の上昇が観測されました。図3のとおり、空間放射線の1時間当たりの線量率は3月15日の12時から14時の2時間の間が最高で0.182マイクログレイ/毎時(μGy/h)を記録しました。
  また、同日採取の降下物や大気浮遊じんから人工の放射性物質が複数検出されました。   
  翌16日に採取した大気浮遊じんから放射能濃度が最も高く検出されました。これを受け、3月18日から水道水の放射能検査を開始しました。
  空間放射線量率は3月21日に再び上昇しました。この日は事故後初の降水があり、この雨水から検査期間中、最も高い濃度の人工放射性物質が検出されました。同日から食品の検査も開始しました。食品の検査は県内産を中心に出荷前の段階で実施しました。

図3 空間放射線量率 (地上 4.9m)
【放射能の単位】
  • グレイ(Gy)は「放射線」が“もの”に当たった時にどのくらいのエネルギーを与えたかを表す、放射線を受ける側に着目した単位です。MPが感知する外部放射線の大半がγ線であり、緊急時であることから、1Gy≒1シーベルト(Sv)に読み替えて発表されました。
  • シーベルトは「放射線」が“人”に当たった時に、人がどの位放射線からの影響を受けたかを表すための単位です。
  • ベクレル( Bq )は「放射性物質」の「放射能」の強さを表す単位で、放射線を出す側に着目した単位です。
 

表1 食品等放射能調査(検査)結果 (神奈川県衛生研究所実施分)

  食品検査の結果を表1に示しました。当初は、放射性ヨウ素を主眼に、表面沈着するホウレンソウなどの葉菜類や乳幼児の被ばく線量に影響を与える原乳などを検査したところ、厚生労働省が定めた暫定規制値未満でした。ヨウ素-131は半減期が8日と短いので速やかに影響がなくなりますが、セシウム-137は半減期約30年で、影響が長く続きます。神奈川県では名産品の「足柄茶」の新茶の摘み取りの時期を迎え、各地で摘まれた生葉と荒茶、製茶を検査しました。生葉は23検体中7検体1)、荒茶は12検体中6検体2)の放射性セシウム濃度が暫定規制値を超えました。さらに、セシウムを吸収しやすいとされるきのこ類として生・乾しいたけを検査したところ、乾しいたけの5検体中2検体3)が暫定規制値を超えました。乾しいたけは水分が少ないので放射性セシウムも濃縮されます。暫定規制値を超えた食品はすべて出荷自粛となりました。県内産豚肉はすべて定量下限値未満(<10Bq/kg)でした。
  また、放射能汚染飼料を与えられた東北産の一部の牛が出荷されていることが判明し、県内に流通する牛肉の検査を行ったところ、3検体4)から暫定規制値を超える放射性セシウムが検出され、所管課により必要な措置が講じられました。海産魚介類は、県が国の検査事業を利用して実施し、当所では淡水魚のアユやワカサギ等を検査しましたが、すべて暫定規制値未満でした。
  県内の海水浴場については、海開き前の4月から8月のシーズン終了まで毎月定期的に海水の放射能検査を実施しましたが、人工放射性物質は不検出でした。

 
緊急時モニタリングの見直し

  当所の環境試料の放射性物質検査では、ヨウ素-131が4月21日、放射性セシウムが7月23日に検出されたのを最後に不検出になりましたが、12月28日までモニタリングは継続されました。その後、文部科学省の見直しに伴い、平成24年1月4日より、降下物を平常時と同様に降雨毎とし、水道水は、平日毎日採取・濃縮し、3か月分を1試料として測定精度を向上させ測定しています。

 
平成24年度からの対応
  空間放射線量率を測定するMPは文部科学省によりポストの増設が図られ、神奈川県では新たに5か所増設され、既存の茅ヶ崎MPを含め計6か所となり、平成24年4月2日からは、神奈川県も含む全国データがリアルタイムで配信され*)、迅速な情報の提供が可能になりました。
  また、平成24年4月1日から厚生労働省は食品の暫定規制値を見直し、表2のように新たな食品の規格基準値を定めました。平成24年度は、この基準値と新たな食品検査計画の基に、生産品に加え流通食品も含め、検査が開始されています。新基準値は暫定規制値より1/4~1/20に厳しくなったため、より精密で高度な測定技術が求められております。神奈川県衛生研究所では今後も迅速で正確なデータを提供するため、体制を整え対応してまいります。

表2 食品中の放射性セシウムの新たな基準値 (単位: Bq/kg )

 
(理化学部 飯島 育代)
 
参考リンク: *) 放射線モニタリング情報(原子力規制委員会ホームページ)外部サイトを別ウィンドウで開きます
    神奈川県衛生研究所ホームページ
   
衛研ニュース No.150 平成24年6月発行
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