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衛研ニュース     No.148     
食品とカビ 2012年1月発行
神奈川県衛生研究所

   カビは、私達の生活に深い関係がある生物で、特に食品では日本人にとって古くからカビを利用した発酵食品に恩恵を受けています。また、カビはパンやミカンなど食品に生育して腐らせたり、風呂場の目地やサッシなどの生活環境中に生育して汚れとなるなど、我々にとってありがたくない面もあります。
  カビのいろいろな性質について、食品に関連することを中心にお話しします。
 
カビって何?
  カビは、分類学的には椎茸、松茸、シメジなどのキノコとパン酵母やビール酵母などの酵母と同じ仲間の真菌類(菌類)に分類され(図1)、同じ“菌”という文字が付いていますが大腸菌や乳酸菌などの細菌とは異なる分類になっています。

図1 カビの分類
カビの姿
  カビは基本的には、菌糸と胞子で構成されています(図2および図3)。
  菌糸は、細胞が糸状につながったものが枝分かれして伸びており、役割は食品などの表面や内部に進入して栄養分の吸収や運搬を行うことと、運搬された栄養を使って胞子を作るための細胞に分化することです。
  胞子は、カビが仲間を増やすこと(生殖)に関わる特別に分化した細胞で、生育場所を広げる役割があります。カビ以外のキノコや酵母の多くも胞子によって仲間を増やします。胞子の形や色は種類によって特徴があります。菌類の胞子は、植物では種子にたとえることができ、植物の中でもシダ植物、コケ植物およびソウ類のような花の咲かない植物(図4)でも、胞子によって仲間を増やします。
  カビは、自然環境中では土壌、河川などの水環境、空気中などに分布しています。さらに、自然環境中のカビが、人、動物、植物、食品などの生活環境に入り込んで広がっていきます。

図3 カビの顕微鏡写真 ( 菌糸と胞子 )
( クロカビを青色に染色 )


図4 植物の胞子
(左:ツクシ、右:シダ類)
カビが好む環境

  図5は、横浜市内で調査した室内空気中のカビ数の月別推移を示したグラフ*)です。カビの多い時期は、梅雨(6~7月)だけでなく秋の長雨(9月~10月)にも増加しています。図6は、カビ数を測定した時の室温と湿度のグラフで、湿度が高い時期とカビ数が多くなる時期が一致しており、気候の要因としては湿度がカビ数の増減に大きく関わっていることが分かります。湿度以外でカビが生育するのに必要な条件の主なものとして、温度、酸素、および水素イオン濃度(pH)があります。多くのカビの最適な生育条件は、温度20~25℃(室温程度)、湿度88%以上ですが、カビの種類によって生育条件は大きく異なります。たとえば、白癬菌(みずむし)のような人間に感染する病原真菌では、25℃よりも体温に近い37℃のほうが生育は良くなります。
 言い換えると、カビの生育に適さない条件を設定することで、カビの生育を防止することができます。

*) Takanori T akahashi: Airborne Fungal Colony-Forming Units in Outdoor and Indoor Environments in Yokohama,Japan ,Mycopathologia,139,23-33(1997)

図5 室内空気中のカビ

図6 室内の気温および湿度
カビを利用した食品
  図7は、カビを利用した代表的な発酵食品とその製造に用いられているカビ、そしてそのカビの役割を示しています。しかし、ほとんどの発酵食品はカビだけで作られるのではなく、細菌や酵母との共同作用によって作られています。麹の製造に使われているカビは、コウジカビ(アスペルギルス属、A spergillus)のなかのアスペルギルス・オリゼー(図8、A spergillus oryzae )やアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori )が使われています。カマンベールチーズのようなカビ付けチーズは、ヨーロッパの伝統的な発酵食品でアオカビ(ペニシリウム属、Penicillium ) を用いてチーズを熟成させます。鰹節の製造に使用されるカビは、カワキコウジカビ(ユーロチウム属、Eurotium )で、名前のとおり他のカビよりも乾燥したところを好むカビです。その他のカビを利用した発酵食品としては、モナスカス属のカビとアスペルギルス・オリゼーを用いた沖縄の豆腐よう、クモノスカビ(リゾプス属)を用いたインドネシアのテンペが知られています。
図7 発酵食品とカビ


図8 アスペルギルス・オリゼー
カビによる害

  カビによる害の主なものとしては、図9に示したものがあります。食品に関しては、食品中にカビが生育してくることによる食品の変敗や腐敗が問題になります。さらに、一部のカビは、その生育の過程において非常に毒性の強いカビ毒を産生する場合があります。
  アフラトキシンというカビ毒は、急性毒性では肝臓の細胞の壊死、腎障害などを起こし、慢性毒性では肝臓において強力な発癌性があります。
  当所では、カビが生えているなどといった県民のかたからの食品に関する不安や苦情(苦情食品、図10)が、神奈川県の行政機関に寄せられ、その原因究明に科学的分析が必要となった場合は、行政機関からの依頼により、カビの同定検査を行っています。
  また、苦情食品などから分離されたカビが産生するカビ毒の有無をスクリーニングする研究も行っています。図11は、カビがカビ毒(アフラトキシン)を産生するかどうかを調べる方法です。アフラトキシンは、紫外線をあてると青色の蛍光を出すので、図11のように青色のスポットがあるとアフラトキシンを出すカビであることがわかります。


図9 カビによる害

図10 カビによる苦情食品事例


図11 アフラトキシン産生カビの検出法
気をつけましょう!
 私たちの身の回りには、数の多少はありますが、カビが生息しており、農産物など加工していない食品は、見た目にはわかりませんが、胞子の状態で付いてることがあります。
 食品に生育したカビは、食品を腐敗させるだけでなく、中にはカビ毒を産生するカビがあり、カビを取り除いただけでは、健康被害をゼロにすることはできないので、安易に食べないことが大切です。
 乾燥した食品は、水分が付かないように保存し、カビを生育させないことが必要です。
    
 私たちが暮らしている生活環境中には、常にカビがいることを忘れないようにし、適切に食品を保存・取り扱うことで、健康被害の防止につなげましょう。
(微生物部 相川 勝弘)
 
   
衛研ニュース No.148 平成24年1月発行
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