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本県における肺炎マイコプラズマ検出状況を図4、図5に示します。これは、現感染症発生動向調査事業や研究調査において、培養検査やPCR法で肺炎マイコプラズマを検出した成績で、主に小児を対象としたものです。図4に示すように1980年代までの4年周期の流行、それ以降の周期性が見られなくなった様子が伺えます。その後、大きな流行も起こらなくなりましたが、これは全国的な傾向でもあり、理由は明らかではありませんが、マイコプラズマ肺炎に良く効く抗生物質が汎用されたことが背景にあるとも言われています。
しかし、最近、また、培養検査による肺炎マイコプラズマの検出陽性率が上昇傾向を辿っており、マイコプラズマ肺炎が増えてきている状況を示しています。これは図2で示す患者発生動向を裏付けているものであり、病原体を確実に証明できる培養検査の重要性がわかります。今後とも、本疾患の調査を続け、動向を注意深く監視する必要があります。
図5は年齢別に見た肺炎マイコプラズマ検出成績です。検出陽性率に注目してみると、12歳ぐらいまでは年齢と共に増加し、成人になると免疫ができ、減少すると言われていましたが、それを裏付ける結果が得られました。 |
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薬剤耐性肺炎マイコプラズマの出現と耐性化への解明にむけて |
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細菌感染症の治療には、抗生物質が良く使用され、大きな効果を上げています。一方で、近年、抗生物質の効かない細菌が増えてきており、大きな問題となっていることも事実です。肺炎マイコプラズマにおいても表1に示すとおり、2000年以降に、マクロライド系抗生物質(エリスロマイシン、ジョサマイシンなど)に対する耐性菌が検出されています。なぜ、2000年以降、急に耐性菌が現れはじめたのか、その理由は明らかではありませんが、マイコプラズマ肺炎に対する抗生物質の使用との関係があるかもしれません。
肺炎マイコプラズマは、薬剤耐性になりにくい細菌と言われ続けてきましたが、当研究所で、1995年頃から国立感染症研究所と共同で、肺炎マイコプラズマの薬剤耐性化について実験的に検討したところ、患者の治療に良く使用されるマクロライド系抗生物質の存在する環境で培養すると、耐性化することが分りました。耐性となった肺炎マイコプラズマの遺伝子を解析すると、蛋白合成に関与する遺伝子塩基配列の一箇所が変化していること(点変異)が判明しました。そこで、当研究所では、薬剤耐性菌が検出される以前の20年間に当研究所で患者から検出した肺炎マイコプラズマ505株について、マクロライド系(エリスロマイシン、ジョサマイシン)及びテトラサイクリン系抗生物質(テトラサイクリン、ミノサイクリン)に対する耐性を調べてみましたが、これらの薬剤に対する耐性菌は見つかりませんでした。しかし、2000年に、札幌市内の病院から当所に送付された肺炎マイコプラズマの中に耐性菌が見つかり、この菌はマクロライド系抗生物質に高度の耐性を示し、遺伝子変異も見つかりました。これは実験的結果と一致しておりました。 |
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肺炎マイコプラズマ遺伝子の型別と流行の関わりは・・・? |
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当研究所は国立感染症研究所との共同研究により、肺炎マイコプラズマの病原因子であるP1蛋白を作るための遺伝子を二つ(Ⅰ型とⅡ型)に型別する遺伝子解析法を開発し、患者から検出した肺炎マイコプラズマの遺伝子型別を実施したところ、図6のように8~10年の間隔で比較的明瞭にⅠ型とⅡ型が入れ替わっていることが分かりました。これらが、肺炎マイコプラズマ感染症の流行とどのような関わりを持っているのかは解明できませんでしたが、現在も国立感染症研究所とともに解明に向けて研究に取り組んでおります。
神奈川県衛生研究所では、県民の健康の確保のため、感染症に対する医療への反映や流行の予測などに向けて、調査研究を推進していく役割を担っております。今後も、様々な研究機関や病院などと連携しながら、研究や情報交換を積極的に進め、薬剤耐性の究明、遺伝子型別と流行との関わり、他疾患への関連の究明など、マイコプラズマ肺炎の調査に引き続き精力的に取り組んでまいります。 |
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(企画情報部 岡崎則男) |
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発行所
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神奈川県衛生研究所(企画情報部) |
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