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衛研ニュース     No.129   
レジオネラ症の届出増加中

-その感染源の究明に向けて-


2009年1月発行
神奈川県衛生研究所

レジオネラ症の現状

  「レジオネラ症」と聞くと、2002年に宮崎県の日帰り入浴施設で発生し、397人の患者(うち8人の死亡者)を出した我が国最大のレジオネラ症の集団感染事例を思い起こされる方も多いと思います。ほかにも、2001年に静岡県内のレジャー施設の温泉利用客23人が感染した事例や(うち2人の死亡者)、2003年に鹿児島県の公衆浴場で9人が感染した事例(うち1人の死亡者)等があり、また、院内感染によって発生したレジオネラ症による新生児の死亡事例など、しばしば集団感染を引き起こしています。このレジオネラ症の原因となる菌は、レジオネラ属菌と呼ばれ、53菌種あります。

レジオネラ属菌はどこに?

  この菌は、本来、土壌や湖沼等の自然環境で生息しており、宿主アメーバと呼ばれるアメーバに寄生し、増殖します。通常の細菌は、アメーバに取り込まれると消化され、栄養源となりますが、レジオネラ属菌は宿主アメーバに取り込まれると2~3日間でアメーバの中で増殖し、アメーバを破裂させて飛び出してきます(図1)。1匹のアメーバから飛び出してくるレジオネラ属菌の数は1,000個以上になると言われています。レジオネラ属菌は土埃などと一緒に温泉水、冷却塔水、噴水等の人工水に入り込むと、そこで爆発的に増えます。この増殖したレジオネラ属菌を微小な水滴(エアロゾル)とともに吸い込んだり、誤嚥することで感染します。
図1 レジオネラ宿主アメーバの中で増殖し、飛び出すレジオネラ ニューモフィラ

レジオネラ症の症状

  大きく分けて肺炎型とポンティアック熱と呼ばれる症状があります。肺炎型は、悪寒、高熱、咳などの肺炎症状の他、腹痛、下痢、意識障害などをともなう場合もあり、適切な治療が行われないと急速に悪化し、死亡事例につながることもあります。一方、ポンティアック熱は、風邪様症状で自然治癒することもあるため、集団感染などの特殊な場合以外は診断されることがありません。また、レジオネラ症は人から人への感染はありません。

レジオネラ症の届出数の増加

  レジオネラ症は、感染症法において4類感染症に分類され、医療機関で診断した場合は、直ちに保健所に届け出ることとなっています。レジオネラ属菌は培養検査が難しく、これまでレジオネラ症としての確定診断がつきにくい場合がありました。しかし、尿から直接レジオネラ ニューモフィラ血清型1群を検査する簡易な尿中抗原検査法による届出が可能になったことなどから、届け出数が急激に増加しています。(図2)
  我が国では2004年までは年間届出数は150例前後で推移していましたが、2005年以降毎年1.2~1.8倍増加し、2008年の47週(11月)には800人に達しています。また神奈川県内(横浜市と川崎市、横須賀市、相模原市を含む)の届け出数も増加し、47週の時点で届出数は53例となっており、これは東京、大阪、愛知に次ぐ全国で4番目に届出数の多い県となっています。

図2レジオネラ症の届出患者数の推移

レジオネラ症の感染源調査

   レジオネラ症の発生や拡大の防止は、まず、感染源を迅速に特定することが重要です。それによって保健所による施設の改善指導をはじめとする適切な対応ができるようになるからです。
 感染源を特定するには、患者からの分離菌と感染源と推定される温泉水等からの分離菌の血清型や遺伝子型の一致を確認するため、菌株の分離が必須です。
 そこでレジオネラ症発生時の感染源特定のため、神奈川県では医師会及び病院協会に対してレジオネラ症患者診断時の検体(抗菌薬投与前の喀痰等)の凍結保存による確保の協力依頼をしています。医療機関にレジオネラ症患者の届出がなされた際に、分離菌がない場合でも凍結保存してあった喀痰を用いて衛生研究所が培養検査を行い、レジオネラ属菌の分離を行うことができます。一方、保健所では感染源と推定される施設から、実際の浴槽水等を採取し、当所で分離培養検査を実施します。得られたこれら菌株の血清型別や遺伝子型別を検査し、感染源の特定を行います。衛生研究所では、さらに迅速な検査の実施を目指し、検査手法の改善や検査体制の整備に取り組んでいます。

感染源を特定できた事例

  2008年6月県域在住の60才代の男性が肺炎により、市内の病院を受診しました。尿中抗原検査でレジオネラ症と確定診断され、あわせて培養検査が行われ、原因菌が分離されました。保健所による聞き取り調査の結果、S県の温泉地を利用していたことが判明し、S県に調査を依頼して宿泊施設の浴槽水から菌株が確保されました。S県と当県でそれぞれの分離菌株について、血清型別、遺伝子型別(PFGE:パルスフィールドゲル電気泳動)を行ったところともに一致したことから、当該施設が感染源であると特定されました(図3)。

図3  レジオネラ症患者及び浴槽水分離株のPFGE結果(制限酵素 Sfi Ⅰ処理)

感染源を特定できた事例

  このように患者由来の分離菌株と感染源と推測される場所からの分離菌株を解析することで感染源を特定することができます。また、簡便な尿中抗原検査は患者の早期診断には有効であるものの、レジオネラ ニューモフィラ血清型1群の検出用試薬であることからこれ以外の血清型や菌種が原因となっているレジオネラ症の診断はできません。しかし、菌を分離することで確定診断することができます。これらのためにも菌株の確保は重要です。加えて、菌株を基に疫学調査、治療薬剤に対する有効性の調査、検査法の改良などの様々な調査研究のためにも菌株の確保が必要です。このため菌株確保にむけて各医療機関の協力を得て投薬前の患者喀痰の確保をお願いしてまいりますが、今後のレジオネラ症対策のためにも、引き続き多くの皆さんのご理解とご協力をお願いしたいと思います。
(微生物部  渡辺祐子)
衛研ニュース No.129 平成21年1月発行
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