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衛研ニュース     No.139       
過去の害虫ではありません !!
シラミとトコジラミ

2010年7月 発行
神奈川県衛生研究所
  私たちのまわりにはいろいろな虫が生息していますが、その一部には病気を媒介する、刺す・咬む、不快感を与えるなど、人に害を与える虫がいます。この季節、刺す虫というと、真っ先にあがってくるのが蚊、ハチ、ダニなどだと思いますが、ほかにもいろいろな刺す虫が身近に生息しています。その中には、一時期ほとんど被害がおきていなかったのに、近年になって被害が再び増加した虫もいます。
  そこで今回は、それらの虫の中から、刺咬(吸血)被害で問題になり、刺されると非常にかゆい、シラミとトコジラミの話をしたいと思います。

シラミとは・・・?

  シラミの仲間は日本で約40種(世界で約500種)知られており、そのうち人に寄生するのはアタマジラミ、コロモジラミ、ケジラミの3種です。
  アタマジラミとコロモジラミ(図1)は、体長3㎜ほどで、アタマジラミよりコロモジラミの方が少し大きいといわれていますが、その形態はほとんど区別することができません。
  ケジラミは、体長2㎜ほどで、カニに似た体型をしています。

 
図1.コロモジラミ

アタマジラミの被害と防除

   1981年に人用のシラミ駆除剤が発売され、1983年以降、アタマジラミ症の患者数は減少しました。しかし、1989年から患者数は増加に転じ、統計が取られている1998年まで増加し続けました。現在アタラジラミ症に関する公的報告義務がないことから、その発生状況を正確に把握することはできませんが、年に約83万世帯で発症していると推測する報告もあります。また、寄り添って遊ぶ機会の多い、保育園、幼稚園、小学校低学年以下で見つかることも多い傾向があります。
  アタマジラミは頭髪に寄生し、主に頭髪同士が接触することで移ります。そのため、アタマジラミの感染は不潔・不衛生とは直接関係はなく、ごく普通の生活の中で起こりえます。なお、アタマジラミが媒介する疾病は知られていません。
  アタマジラミが人体から離れた場合、成虫の生存期間は、環境条件にもよりますが7~72時間といわれており、共用で使用する寝具、タオル、ロッカーなどを介して感染することがあります。しかし、水中に沈んだシラミは、動かず、死んでしまうことから、プールの水を介して移ることはほとんどないと考えられています。
  頭髪に寄生しているアタマジラミを薬剤で駆除する場合には、0.4%フェノトリン含有粉剤、または0.4%フェノトリン含有シャンプーを用います。日本で市販されている人用のシラミ駆除剤は、これら2種類のみです
  粉剤を頭髪に使用する場合、1回7gを2~3日おきに数回使用します。必要以上に使用しても効果は上がりませんので、用法、用量を守り、1度に多量に使用したり、1日に何度も使用するようなことはしないでください。駆除剤を2~3日おきに数回使うのは、卵に対して駆除剤が効かないためです。卵は1週間ほどで孵化しますので、孵化した幼虫を駆除するためにそのような方法がとられています。また、駆除剤に予防効果はありませんので、予防のために駆除剤を使用しないでください。
  駆除剤を使用してもアタマジラミを駆除できないときには、使用をやめてください。薬が効かない(抵抗性を持つ)アタマジラミが見つかっています。駆除剤が効かないときには、梳き櫛などによって丹念に取り除きます。具体的な方法は、「アタマジラミ駆除方法の手引き(資料編)」(PDF)(豊島区池袋保健所)などを参考にするとよいでしょう。
  アタマジラミが付着したタオルなどは、55℃で10分、または60℃で5分を目安に熱湯処理してください。
  頭髪に卵があるか確認するときに、タンパク質のかたまり(ヘアーキャスト)と区別することが難しいことがあります。見分け方の目安として、つまんで毛髪と平行に動かし動かないものは卵、動くものはヘアーキャストとみる方法がありますが、卵でも動くものがあり、ニンヒドリン試薬に漬けて変色するかを調べる方法が確実です。卵は変色しませんが、ヘアーキャストは変色します。
 

コロモジラミの被害と駆除

  コロモジラミは皮膚に接する下着の縫い目などに生息し、吸血時に皮膚へ移動します。そのためコロモジラミは、下着や衣類を取り替えることが困難な生活を強いられている人から多く見つかっています。
  コロモジラミ症の患者は、1992年から増え始めました。コロモジラミは発疹チフス、塹壕熱の媒介者になります。現在、日本では発疹チフスの感染はありませんが、塹壕熱の抗体陽性者が見つかっています。
   衣類、タオルなどに付着しているシラミは熱湯処理をします。お湯の温度と処理時間は、アタマジラミと同じです。
   

ケジラミの被害と駆除

  ケジラミは主に陰毛の基部に寄生し、ほとんど移動することはありません。
 ケジラミ症は性感染症とされてきましたが、幼児の頭髪から見つかった例などもあり、陰毛の直接接触による感染のみでなく、寝具やタオルなどを介した間接的な感染もあると考えられています。ただし飢餓に弱く、人の体から離れると1日程度しか生存できません。
  陰毛に寄生しているケジラミを薬剤で駆除する場合には、アタマジラミと同じ薬剤を用います。
 

トコジラミとは・・・?

  トコジラミは名前に「シラミ」が付いていますが、先に説明したシラミとは別の虫の仲間で、カメムシの仲間になります。「ナンキンムシ(南京虫)」と呼ばれることもあります。トコジラミは世界の温帯地域に分布しており、日本には江戸時代末期に外国船によって持ち込まれたといわれています。現在では、北海道から九州まで生息しています(南西諸島にはネッタイトコジラミという熱帯性の別の種類のトコジラミが生息しています)。
  トコジラミの体は茶褐色で背腹に扁平な円盤状をしており、成虫の体長は5~8㎜くらいです(図2)。口器(図3)はストロー状で、普段は腹側に向いていますが、吸血するときに斜め前方に突き出します。
              
図2. トコジラミ
図3. トコジラミの口器(矢印)
  トコジラミにとって最適な温度は25℃前後ですが、低温と飢餓に強く、10℃で1年以上、0℃で約6ヶ月未吸血でも生きることができます。しかし、幼虫は十分に吸血しないと成長できず、雌も吸血しないと産卵ができません。
 

トコジラミの被害と駆除

   トコジラミは、第二次世界大戦後から1960年代まで都市部のアパートなどで発生が見られていましたが、その後はほとんど見られなくなっていました。しかし、最近被害が増えているといわれています。なお、トコジラミが媒介する疾病は知られていません。
  トコジラミは、昼間は部屋の壁や柱の割れ目、家具の隙間などに潜んでいて、夜間にそこからはい出してきて吸血します。幼虫、成虫(雌雄)ともに吸血をします。雌成虫は連日吸血することもありますが、幼虫は数日から1週間おきに吸血します。多くは、足、腕、首などの露出した部分が刺されます。トコジラミに刺されると刺し口が2つあるとよくいわれますが、これはトコジラミの吸血時間が長く(成虫の吸血時間:約9分)、口器を新しい場所に刺し直すことでできます。ですから、刺し口がかならず2つあるとは限らず、刺し口が1つや3つ以上のこともあります。
  そして吸血が終わると、元の潜んでいた場所に戻ります。排泄は潜んでいる場所では行わず、その入り口から外に向けて行うので、周辺に黒褐色の汚点が残ります。この汚点が、トコジラミの潜んでいる場所を探す目安になります。
   トコジラミの駆除は、潜み場所に殺虫剤を注入処理します。また、潜み場所となりそうな場所とその周りに殺虫剤を残留噴霧します。殺虫剤は有機リン系薬剤が有効です。ピレスロイド系薬剤は、効果が弱いといわれています。くん煙剤のみでは、トコジラミの潜んでいる隙間に十分に届かないため、効果は期待できません。
 

おわりに

    現在の日本の衛生環境は非常によく、私の家はシラミやトコジラミなんて関係ないと思われている方がほとんどだと思います。しかし、これらの虫は生活環境の衛生状態と関係なく、偶発的に持ち込まれる可能性がありますので、ご注意ください。
(微生物部 稲田貴嗣)
 
   
衛研ニュース No.139 2010年7月発行
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