たばこには依存性があり、たばこに含まれるさまざまな有害物質が大きな悪影響を与えることがわかっています。特に、女性には身近な美容に影響も大きく、妊娠、出産でも健康影響大きいことが明らかとなっています。働く女性が増えた現代において、ストレスなども増え、ほっとする、気持ちの切り替えができる、やせる? といったことなども、若い女性の喫煙者を増やしているかもしれません。体への影響、赤ちゃんへの影響、子供への影響等々喫煙が及ぼす悪影響についてもう一度考え、「神奈川県公的施設における受動喫煙防止条例」施行を機に禁煙を考えてみませんか。
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他人のたばこの煙を吸わされる受動喫煙は、不快であるばかりでなく、肺がんや心臓疾患等健康に悪影響があることが知られています。 |
そのような中で、今、若い女性の喫煙率の増加が問題となっています。図1に喫煙率の推移(厚生労働省、最新たばこ情報、JT全国喫煙率調査から)を各年代別と性別で示しました。成人の男性の喫煙率は調査開始時の昭和40年当初の83.7%から平成21年は38.9%と減少し続けています。
一方、成人女性は、昭和40年当初と比べると、女性の40歳代以上の喫煙は徐々に減少してきているのに対して、20歳代、30歳代は徐々に増加し、現在では40歳代以上の喫煙率を超えた状態が続いています。 |
図1 喫煙率の推移 |
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たばこの煙には、約4000種類の化学物質が含まれ、そのうち、約200種類以上は有害物質です。その中でも、約40種類以上が発がん物質です。特に、3大有害成分としてニコチン、タール、一酸化炭素の健康影響があげられ(図2)、がん、心臓病、脳血管疾患、呼吸器疾患等に深く関係しています。
喫煙している女性は、喫煙していない女性に比べると、肺がん2.3倍、乳がん1.3倍、子宮頸部がん1.6倍、脳卒中1.7倍と疾病にかかる危険性が高くなっています。(平山雄らによる調査、循環器疾患基礎調査他より) |
図2 たばこの有害成分 |
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女性にとって心配なのはがんだけではありません。美容にも大きく影響します。第一に、肌の老化が5年以上早くなるとも言われています。たばこのニコチンによって皮膚の血流が妨害され、ビタミンCも破壊されることから、早く老化が進むと言われています。さらに、しわ、まぶたのはれ、シミ、そばかすになりやすくなります。歯肉へのメラニン色素の沈着や、歯へのタールの沈着をおこしやすく、さらに、歯肉炎などの歯周疾患にかかりやすくなります。美容には大敵です。 |
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妊婦の喫煙は、おなかの赤ちゃんにも大きな影響を与えます。ニコチンは胎盤への血流量を減らし、一酸化炭素により酸素が不足するため、赤ちゃんの発育に悪影響を与えます。喫煙していない女性に比べると低出生体重児2.4倍、早産3.3倍と危険性が高まります。
出産後は、お母さんが喫煙すると、ニコチンが母乳に入るため、赤ちゃんにニコチンの影響(眠れない、吐く、下痢、頻脈など)がでます。このように、たばこは妊娠中だけでなく、出産後も赤ちゃんに対して重大な影響をあたえます。
家庭内でのお母さん、お父さんの喫煙も赤ちゃんの受動喫煙(たばこの煙を吸わされること)を招き、ぜん息の症状悪化、滲出性の中耳炎、肺炎、気管支炎、感染症にかかりやすくなり、乳児性突然死症候群(SIDS)の要因の1つとも言われています。 |
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実際に子供がどれくらい受動喫煙に暴露されているか、立石泰子らの調査(「3歳児健診を利用した受動喫煙への暴露評価」第55回神奈川県公衆衛生学会発表2009)を紹介します。受動喫煙の影響はニコチンの代謝物であるコチニン(図3)という物質がどれくらい排泄されるかを検査することにより調べることができます。 |
調査は神奈川県内の3歳児927人を対象とし、平成20年1月から平成21年3月にかけて行いました。家庭内喫煙と尿中のコチニン濃度調査結果を図4に示します。尿中のコチニン濃度は両親の喫煙と母のみの喫煙が高く、両親が非喫煙ではほとんど検出されませんでした。また、約50%の子供の尿中からコチニン濃度が検出され、たばこの受動喫煙の影響がみられました。両親、特に母親が喫煙している家庭ではコチニン値が高いことから、こどもといつもの一緒にいる母親の喫煙の影響が大きいことがわかりました。したがって、両親、特にお母さんは、妊娠中のみならず、出産後も喫煙を控え、家庭内では禁煙あるいはこどもがいる部屋では吸わないよう、十分な注意が必要です。 |
図3 ニコチンの体内での代謝
図4 家庭内喫煙と小児の尿中コチニンの濃度 |
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たばこの害は喫煙者だけでなく周囲の非喫煙者にも及ぶことが明らかにされてきました。喫煙者が直接吸い込む主流煙よりも、火のついたたばこの先端からたちあがる副流煙に有害物質が多く含まれており、肺がん、心疾患、子宮頸がん、こどもの肺炎や気管支喘息のリスクを高める等の悪影響を与えると言われています。 |
衛生研究所での取り組みとして、受動喫煙に関する科学的根拠を実証するため、飲食店において室内環境中のニコチン等有害化学物質の調査を行い、禁煙、分煙等の受動喫煙防止対策による効果について検討しました。その結果(図5)、同一空間で喫煙と禁煙を分ける不完全分煙では、禁煙区域で、喫煙区域のたばこの煙の影響でニコチン濃度が高くなっていますが、禁煙区域と喫煙区域が壁等で仕切られている完全分煙では、禁煙区域でのニコチン濃度は微量で、たばこの煙の影響はほとんどありませんでした。このことから、たばこの煙による健康への悪影響を防止するためには、禁煙とするか、少なくとも完全分煙にする必要が認められました。
世界では、アメリカ合衆国の多くの州、イギリス、アイルランド、ドイツ、イタリア、スペイン、フランス等ヨーロッパ各国や、香港、シンガポール、韓国、タイなどのアジアの各国でも公共の場における禁煙の措置が法制化されています。
日本においては、神奈川県がはじめて「神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例」を本年4月施行の予定です。吸わない人には、吸わせないをモットーに公共施設での喫煙を規制します。これにより、こどもを受動喫煙のおそれのある場所に立ち入らせてはならないことになりました。 |
飲食店での測定装置の設置
図5 空気中のニコチン濃度-分煙別 |
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(理化学部 辻 清美) |
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発行所
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神奈川県衛生研究所(企画情報部) |
〒253-0087 茅ヶ崎市下町屋1-3-1 |
電話(0467)83-4400 FAX(0467)83-4457 |
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