神奈川県衛生研究所

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NO.123

2007年12月発行 神奈川県衛生研究所


カビが作る毒の話

カビ毒とは何でしょう?


図1 カビ毒の生成過程
  カビは食品に付着し、増殖する過程で様々な化学物質(代謝産物)を作り出します。この中で、微生物の増殖を抑えるものは抗生物質とよばれ、ヒトや動物の治療等に役立っています。一方で、カビの種類によっては、ヒトや動物に健康被害をもたらす有害な化学物質を産生します。カビが産生する代謝産物のうち、ヒトや動物に毒性を示すものは、カビ毒(マイコトキシン:mycotoxin)とよばれています。この中にはヒトや動物の肝臓、腎臓、胃腸等に障害を与え食中毒等を引き起こしたり、強い発ガン性を示すものがあります。
  これまで発見されたカビ毒のほとんどは熱に強く、環境の変化や加熱等によりカビが死滅したあとも食品中に残存する場合が多く、除去することが困難です。現在、300種類以上のカビ毒が知られています。表1に食品衛生上問題となる代表的なカビ毒を示しました。

表1 代表的なカビ毒

カビ毒はどのように食品を汚染するのでしょう?

  カビは農作物が生産される農場や輸送、貯蔵等の段階で温度、湿度、酸素などの増殖条件が整うと、カビ毒を作ります。
  アフラトキシンは食品汚染事例の多いカビ毒で、 10種類以上の関連化合物が発見されていますが、毒性の強さや食品汚染の頻度から、最も重要なものはアフラトキシンB1です。他にB2、G1、G2等が知られています。Aspergillus flavus などのアフラトキシン産生菌は、高温多湿の状態が増殖に適しており、亜熱帯~熱帯の地域において、多くの農作物、特にピーナッツ、トウモロコシ、ピスタチオ、香辛料、干しイチジクなどにアフラトキシンによる汚染が見られます。また収穫後、輸送の過程でこのような地域を通過する場合にも、農作物がアフラトキシンに汚染される可能性があります。
 
写真1 アフラトキシンを産生するカビ Aspergillus flavus
左 集落
右 実体顕微鏡写真


 デオキシニバレノールおよびニバレノールは収穫前の農作物に畑で感染し赤カビ病を引き起こすFusarium属菌から作られます。これらは中緯度~高緯度の広範囲の地域で栽培された小麦、大麦、トウモロコシ等の主要穀類にひんぱんに見られます。デオキシニバレノールは世界的に分布するのに対し、ニバレノールによる汚染は日本、韓国、ヨーロッパ、ニュージーランドなどに限られています。


写真2 赤カビ病にかかった麦
国立医薬品食品衛生研究所 小西良子先生より提供

 オクラトキシンはAspergillus ochraceus、Penicillium verrucosum 等の菌によって作られます。10種類ほどの関連化合物の中で、最も毒性の強いカビ毒としてオクラトキシンAが知られています。オクラトキシン産生菌は熱帯地域から冷涼な地域まで広い範囲に分布しています。麦をはじめとする穀類、コーヒー豆、カカオ、ワイン、ビール、乾燥果実、香辛料など大変多くの食品への汚染が報告されています。また、これら汚染された農産物を飼料として飼育された豚およびその加工品の汚染も知られています。


   パツリンは主にリンゴの腐敗菌であるPenicillium expansum という青カビの一種が原因菌で、リンゴの傷んだ部分からカビが侵入し、パツリンが作られます。このカビは、湿度が高ければ、低温でもパツリンを作ることが知られており、日本の気候条件でも十分に作られる可能性があります。パツリンの汚染は主にリンゴ及びその加工品、特にリンゴジュースに見られます。これは、カビや虫食い、打撲傷等で生食用の商品とならないリンゴをジュース等の加工品の原料として転用することが多いためと考えられます。


写真3 パツリンを産生するカビ Penicillium expansum
国立医薬品食品衛生研究所 小西良子先生より提供

カビ毒は除去できるのでしょうか?

  一般にカビ毒は熱に強いため、調理や製造加工の過程での加熱で、カビ毒を分解することは期待できません。いったん食品中に産生されたカビ毒は、非常に安定であるため、減毒や除去は非常に困難です。カビ毒を作るカビは、農場等で収穫前の農作物に発生することもあるため、食品をカビ毒の汚染から守るためには、農作物の栽培時から菌の感染を防ぎ、また保管、運搬時にも保存状態を適正に保つなどの配慮が必要となります。

日本におけるカビ毒の規制はどうなっているのでしょう?

  カビ毒の規制は、食品摂取事情や食品汚染状況の違いから、各国ごとに設定されています。日本におけるカビ毒の規制状況を表2に示しました。

表2 現在日本で規制されているカビ毒

  これまで、わが国で食品規制の対象となっていたカビ毒はアフラトキシン B1のみでしたが、2002年にはデオキシニバレノールとパツリンが新たに追加されました。さらに他の主要なカビ毒についても、厚生労働省の研究班を中心に、日本における食品汚染と通常の食生活で摂取されるカビ毒の量を把握するための調査研究が進められています。

カビ毒の検査状況は?

   神奈川県衛生研究所では、 2003年より県内流通の輸入香辛料、豆類及び穀類等についてアフラトキシン(B1、B2、G1、G2)の残留実態調査を実施しています。また、2005年からは麦類のデオキシニバレノール、リンゴ果汁のパツリンを調査項目に加えました。調査結果を表3に示しました。これまでのところ、基準値をこえる食品は検出されませんでした。リンゴジュースのパツリンは検出事例が4検体ありましたが、いずれも基準値以内の値であり、安全性には問題のない値でした。
表3 農産物および加工品のカビ毒調査結果

  食品衛生に係わるカビ毒は数多く存在し、新たに規制対象となるカビ毒は増加するものと思われます。衛生研究所では、今後ともカビ毒に対する継続的な汚染実態調査・研究を実施し、カビ毒汚染への監視を強め、食品の安全性確保に努めて行きます。
理化学部 甲斐 茂美
   
衛研ニュース No.123 平成19年12月発行
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