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NO.121

2007年8月発行 神奈川県衛生研究所

違法ドラッグの最近の動向

  近年、違法ドラッグという言葉を新聞などで見かける機会が多くなりました。しかし、その実態は意外に知られていません。名称も、麻薬や覚せい剤などの規制薬物ではないため、かつては合法ドラッグと呼ばれていました。その後、法律による規制の網をすり抜けていることから脱法ドラッグと呼ばれ、さらに、その違法性や問題性を明確にするために、平成17年に厚生労働省は“違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)”と呼び方を改めました。今回、違法ドラッグの概要と神奈川県における違法ドラッグへの取組み及び最近の法規制について解説します。


1.違法ドラッグの実態

  多幸感・快感等を得ることを目的として、化学物質や植物などが違法ドラッグとして出回っています。しかし、人体に使用することを表記することは違法になるため、研究用化学試薬、芳香剤、クリーナー、植物の乾燥品、粉末や種子等の名目で販売されています。
写真1 様々な違法ドラッグ
①ケミカルドラッグ(研究用試薬等)
②ニトライト(クリーナ等)
③植物(植物標本等)

2.違法ドラッグの危険性

  違法ドラッグは麻薬や覚せい剤に類似した化学構造をしており、麻薬や覚せい剤のように脳に強いダメージを与え、薬物依存や精神荒廃などを引き起こす可能性がある危険なものです。実際に、違法ドラッグを使用したことによる死亡事故や殺人事件なども発生しています(表1)。
表1 平成10年以降に確認されている違法ドラッグによると思われる事件・事故等
  違法ドラッグの中でもケミカルドラッグ(デザイナードラッグ)は、麻薬や覚せい剤と同様の効果をねらって、基本骨格は麻薬や覚せい剤と同じで側鎖を変化させたもので(図1)、多くの物質が次々に出現しています。さらに、違法ドラッグはゲートウェイドラッグ(入門薬)と言われ、その使用が麻薬や覚せい剤使用のきっかけになる可能性があります。
メタンフェタミン
MDMA(エクスタシー)
メロチン
   
   
   
MMDA-2
   
図1 覚せい剤およびその類似物質の化学構造式

3.神奈川県による調査結果

  神奈川県では、平成14年から違法ドラッグの調査を行っています(表2)。平成14~16年度において検出された21物質のうち、11物質が既に麻薬に指定されています。危険性が明らかになった物質が麻薬に指定されると、その物質に代わる化学構造が類似した新しい物質が次々と流通していることが確認されました。これらの物質の化学構造のわずかな違いを識別するために、高性能機器を使用した精密な試験を行っています(写真2)。違法ドラッグの成分が検出された事例中には、名称やパッケージが同じ製品でも入っている成分が異なる事例、一つの製品から複数の成分が検出された事例(図2)や、製品名とは異なる成分が配合されていた事例などがありました。これらの製品を使用した場合、複合作用による健康被害の発生が危惧されます。違法ドラッグの危険性に関する科学的なデータはほとんど無いため、当所では違法ドラッグの生体への有害性を明らかにするための実験も行っています。
表2 神奈川県における違法ドラッグ調査結果

4.違法ドラッグ規制の方向

  危険性が明らかになった違法ドラッグは、麻薬及び向精神薬取締法(以下、麻向法)によって麻薬に指定されます。違法ドラッグを「麻薬」として規制するためには、有害性等の科学的な証明が必要であり、麻薬指定まで数年かかってしまいます。
写真2 高速液体クロマトグラフィーによる成分分析
図2 メチロンの表示がある製品から他成分を検出した事例
 その間に発生する健康被害は防ぐことができず、規制対象になってもそれに代わる新たな違法ドラッグが次々に流通してしまうため、麻向法では違法ドラッグの規制には迅速に対応できないことが問題となっていました。そこで、平成19年4月から、違法ドラッグに迅速に対応するために、違法ドラッグ対策強化を盛り込んだ薬事法が施行されました。これにより、中枢神経の興奮等の作用を有する可能性が高く、危害が発生するおそれがある違法ドラッグなどの薬物を厚生労働大臣が「指定薬物」に指定し、指定薬物の医療等の用途以外での製造、輸入や広告が禁止され、販売、授与などに対しては罰則が設けられました。現在、32の違法ドラッグが指定薬物に指定されています。このような法規制により、ケミカルドラッグ等の流通は減少する傾向にありますが、この法律をより実効性のあるものにするために、新たな違法ドラッグ、特に植物などの流通について監視を強めることや、指定薬物にさらに強い規制をかけるための科学的なデータを積み重ねていくことが必要と考えられます。
  私たちの身の回りには、違法ドラッグ以外にも幻覚などの中枢神経作用を有する揮発性有機溶媒を成分とする製品があり、乱用による事故が起こっています。神奈川県衛生研究所では、違法ドラッグやこれらの危険な製品の使用を未然に防ぐことを目的に、ホームページや学校での講演等を通じて、その危険性を十分に理解してもらうための取組みを行っています。

理化学部 宮澤眞紀

   
衛研ニュース No.121 平成19年8月発行
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