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NO.119

2007年3月発行 神奈川県衛生研究所

インフルエンザ検査体制

―新型インフルエンザ出現に備えて―

  “新型インフルエンザ”とは、ヒトが今まで経験したことのないタイプ(亜型)のインフルエンザウイルスによって起こる感染症のことです。厚生労働省の「新型インフルエンザ対策報告書」(2004年8月)によれば、「過去数十年間にヒトが経験したことのないHAまたはNA亜型のウイルスがヒトの間で伝播して、インフルエンザの流行を起こした時、これを新型インフルエンザウイルスとよぶ」と定義されています。毎年流行を起こす“インフルエンザ”に対しては、大多数のヒトが免疫を持っていますが、“新型インフルエンザ”に対しては誰も免疫を持っていないので、世界的大流行(パンデミック)を起こす危険性があります。神奈川県においても新型インフルエンザ対策行動計画を策定しており、衛生研究所では検査体制を強化しています。

○通常のインフルエンザ

  “インフルエンザ”は、インフルエンザウイルスに感染することによって起こる感染症です。
  いわゆる“かぜ(かぜ様症候群)”と混同されがちですが、違う感染症です。“かぜ”は、微熱、鼻水、咳、咽頭痛等の上気道症状を呈する感染症で、主な病原体はライノウイルスやコロナウイルスなどのウイルスです。伝播力は弱く、重症化することは稀です。
一方、“インフルエンザ”は、38℃以上の高熱にはじまり、次いで関節痛、筋肉痛、頭痛等の強い全身症状が現れます。時には、気管支炎や肺炎、中耳炎、脳症等の合併症を併発して重症化、最悪の場合は死に至ることもあります。伝播力は大変強く、日本では毎年冬季に流行を起こします。
インフルエンザウイルス
   
  衛生研究所では、県内の指定医療機関からの患者発生報告の集計を感染症情報センター(企画情報部)で、病原体検出を微生物部で担当し、流行の把握と情報発信に努めています。
過去4年間のインフルエンザウイルス分離状況は、2004/2005シーズンを除き、A(H3)型(通称A香港型)が主な流行株でした。
本シーズン(2006/2007)は、2007年3月6日現在、インフルエンザウイルスの分離数は54株で、内訳はA(H3)型27株、B型27株となっています。
 

○新型インフルエンザ

  インフルエンザウイルスは、ウイルス内部の核タンパク(NP)の抗原性の違いにより、A型、B型、C型に分類されます。A型はさらに、ウイルス表面にある赤血球凝集素ヘマグルチニン(HA)とノイラニミダーゼ(NA)という、2つの糖タンパクの抗原性の違いにより亜型に分類されます。現在、HAは16種類、NAは9種類の亜型が存在し、この2つの亜型番号の組み合わせ(例;H1N1、H2N2、H3N2、H5N1)でA型の亜型を表現します。A型インフルエンザは、豚、馬、アザラシ、鶏、七面鳥等、ヒト以外の動物にも広く分布しており、“人獣共通感染症”でもあります。特に、鴨等の水鳥からは、すべての亜型(HAは1~16、NAは1~9)が見つかっており、自然界における宿主は水鳥です。水鳥以外の動物からは、限られた亜型のウイルスのみが検出されています。現在、ヒトの間で流行しているのは、H1N1およびH3N2の2種類です。
  最近、話題に上ることが多い“鳥インフルエンザ”は、鳥類のA型インフルエンザウイルス感染症のことであり、その中で、鶏、アヒル、七面鳥等の家禽に対して致死性を示す場合を“高病原性鳥インフルエンザ”と呼びます。
H5およびH7亜型のウイルスの一部が、それに該当します。2003年末以降、“高病原性鳥インフルエンザ”が家禽で流行した地域において、ヒトでの感染例が増加し始めました。初めはアジアが中心でしたが、現在では、中東、アフリカにまで広がっており、12カ国277名の感染確定例が報告されています(WHO集計3月1日現在)。これら感染例のほとんどは、病鳥と密接に接したことにより感染したと考えられますが、家族内のヒト-ヒト感染が疑われる例も存在します。ヒトへの感染例の増加は、鳥のウイルスがヒトに対する親和性を獲得する機会が増えることにつながり、やがて“新型ウイルス”を生みだし、パンデミック(世界的大流行)を引き起こすのではないかと懸念されています。
 

○新型インフルエンザ(あるいは高病原性鳥インフルエンザ)が疑われる症例発生時の衛生研究所の対応

   現在のところ、“新型インフルエンザウイルス”と呼ばれるウイルスは存在していません。そこで、“新型インフルエンザウイルス”となりうる可能性が最も高いと考えられる“高病原性鳥インフルエンザウイルス”をターゲットにした検査体制を整備しています。医療機関から新型インフルエンザ(高病原性鳥インフルエンザ)が疑われる症例の報告が管轄の保健福祉事務所(保健所)に寄せられると、保健福祉事務所は病原体検査のための検体(咽頭拭い液等)採取を医療機関に依頼します。採取された患者検体は、保健福祉事務所を通じて当所に持ち込まれます。当所では、微生物部エイズ・インフルエンザウイルスグループが検査を担当します。新型インフルエンザ(高病原性鳥インフルエンザ)ウイルスが検出された場合、患者検体の一部を国立感染症研究所に送付して、更に詳しい検査を行います。

当所に持ち込まれた患者検体に対しては、まず、遺伝子検出法(RT-PCR等)で検査を行います。国立感染症研究所推奨の方法を用いて、すべてのA型ウイルス共通の検出系とHA亜型用の検出系の両方を行います。HA亜型の検出系は、高病原性トリインフルエンザのH5およびH7、通常流行しているH1およびH3を鑑別できます。また、NA亜型のN1およびN2の鑑別もできますし、H5とH7については市販の検出キットLAMP法を用いた方法も補助的診断法として使用可能です。これらの遺伝子検出法により、検体搬入から半日程度で結果が得られます。

国立感染症研究所推奨の方法だけでなく、当所独自の遺伝子検出系も準備しています。1997年に香港でH5亜型ウイルスの感染者が報告され、その後オランダでH7型、香港でH9型の感染者が報告されたことから、将来、それらが新型インフルエンザに変化することを想定して、検出系の検討をしてきました。
 
  検出感度の検討の結果、H5は国立感染症研究所推奨の方法と同等、H7については10倍程度感度が良いことがわかりました。 
さらに、H9亜型の検出系も準備しており、これら3つの亜型を同時に検出できるMultiplex-PCR法の検討等、より良い検出法の検討も行っています。
   
  新型インフルエンザ(高病原性鳥インフルエンザ)が疑われる場合のウイルス分離は、BSL(バイオセーフティレベル)3の“生物系安全実験室”で、培養細胞(MDCK細胞)を用いて行います。
細胞培養の場合は、1週間程度の時間を要します。
  以上のように、新型インフルエンザの出現に備えた検査体制を準備しています。しかしながら、インフルエンザウイルスは変異の早いウイルスであり、現行の検査方法では対応できなくなる事態も考えられます。今後も、流行ウイルスの情報把握に努め、検査体制の一層の充実を図っていきたいと考えています。

微生物部 渡邉寿美

   
衛研ニュース No.119 平成19年3月発行
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