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NO.118

2007年2月発行 神奈川県衛生研究所

最近の放射能の話題

―原子力艦から北朝鮮地下核実験まで―

理化学部放射能グループ  飯島 育代

  2006年は神奈川県の放射能調査担当者として肝を冷やしたことが3つありました。
  1つ目は、6月に米軍横須賀港を事実上の母港とする現在の(原子力ではない)航空母艦の後継艦が原子力空母になるのを横須賀市長が認めたことです。来年の8月からは原子力空母が母港として常駐することになります。2つ目は、9月に米軍原子力潜水艦の出港時に、横須賀港で採取した海水から2種類の微量の放射能が検出されたことです。自然界にない物質で横須賀港の海水からはこれまで検出されたことのないものでしたが、潜水艦から出たと特定することはできませんでした。3つ目は、北朝鮮が地下核実験を実施したことです。
  今回のNEWSでは、平常時ならびに緊急時に国および県はどんな体制で放射能調査に臨んでいるか、また調査結果はどうだったのか、簡単に紹介します。


○「放射能」とは?

  放射能とは簡単に言うと「放射線を出す能力」のことで、放射能を持っている物質を放射性物質と言います。放射線には医療で用いられるX線やその仲間のガンマ(γ)線を初め、いろいろな種類があります。放射線は物質の元となっている素粒子あるいはエネルギーそのものの流れで、種類によって持っているエネルギーの強さや性質に違いがあります。(図 1,2)
図1 放射能と放射線(県災害消防課HPより)
図2 放射線の性質(原子力百科事典ATOMICAより)

  放射線は人体に当たると、放射線が通過した所にある細胞やその中のDNAなどを傷つけます。人間の体は細胞の集まりですから、傷ついた細胞が一定の量を越えると組織や臓器が正常な働きができなくなります。X線、γ線はほとんど体内を透過してしまいますから、大量に浴びなければ組織などへのダメージは少ないです。透過力が小さいアルファ(α)線を出す放射性物質が体内に取り込まれると、近傍の細胞にα線が衝突し続けます。細胞が大きなエネルギーを受けるため、組織・臓器へのダメージも大きくなります。1986年に現ウクライナ共和国で起きたチェルノブイリ原発事故で、多くの消防士が亡くなりました。その人たちを調べたところ、全身に2グレイ(Gy)以上浴びた人たちから死者が出ていたことがわかりました。
       グレイ(Gy):放射線が物質に当たったとき、その物質に吸収される放射線量を吸収線量と言い、その単位。
 

○ 平常時の神奈川県衛生研究所の体制と取り組み

  衛生研究所では県内の雨水・ちり・大気浮遊じん・土壌・海水・海底土・上水などの環境試料や、コメ・農作物・牛乳・魚等の食品試料について、図3に示すように、①電気炉で灰にする、②放射能を測定するための容器に詰める、③ゲルマニウム半導体検出器によるγ線分光分析という方法で放射能調査を実施しています。雨水・ちり・大気浮遊じんは当所構内で採取しています(図4,5)。
  また、空間放射線量率(単位時間当たりの総γ線量のこと。)は、当所構内に設置しているモニタリングポスト(MP)という固定の測定器(図6,7)で、24時間、常時測定しています。さらに可搬型の測定器を用いて県内の3か所でも定期的に測っています。
  モニタリングとは、あるもの(ここでは放射能や放射線)を常時監視し、周辺環境での濃度や量を測定し、安全性の評価をすることです。

図3 調査の流れ

図4 雨水ちり採取装置

図5 大気浮遊じん採取装置

図6 モニタリングポスト概観

図7 モニタリングポスト記録部
  表1に2005年度のモニタリングの結果を示しました。土壌・海底土試料やいくつかの食品試料から、かつて大気中で行われた核実験等で生成したセシウム-137(Cs-137)という人工の放射性物質がごく微量検出されていますが、人体に影響を与えるレベルではありません。また、空間放射線量率の単位はnGy(ナノグレイ)が使われていますが、前に述べたGyの10億分の1で、平常時の放射線量がいかに低いかわかると思います。
 

○ 国外における原子力関係事象発生時の対応(緊急時)

   国外で発生する原子力事故等、原子力関連事象の発生に備え、2005年2月23日に、国の放射能対策連絡会議で「国外における原子力関係事象発生時の対応要領」および「国外における原子力関係事象発生時の「モニタリング強化」の実施について」が取り決められ、モニタリング強化時に各県が協力することが明確に位置づけられました。具体的にどのようにモニタリング強化が行われたか、今回の北朝鮮地下核実験実施の事例から紹介します。

<モニタリング強化開始>

  2006年10月9日(体育の日)午後、県庁から自宅に北朝鮮で核実験が実施された旨連絡が入り、16時30分頃からモニタリング強化の準備に着手しました。
  我が国の環境放射能調査は、文部科学省が国の諸機関および各都道府県の研究機関に業務を委託して実施されています。当日19時過ぎに文部科学省より、国外における原子力関連事象発生時の対応について協力依頼が送付され、モニタリング強化体制に入りました。強化内容としては、MP・降下物・大気浮遊じんの測定頻度と報告が毎日になりました。

<今回のモニタリング調査結果>

当所での調査結果は、表2に示したとおりです。空間放射線量率はすべて平常の範囲内で、一部数値の上昇は降雨によるものです。また、降下物、大気浮遊じんからはCs-137のような人工の放射性物質は検出されませんでした。
  全国調査の結果も神奈川県と同様でした。国は航空自衛隊機により日本上空3区域および日本海上空1区域の計4区域の大気浮遊じん調査も実施しましたが人工の放射性物質は不検出でした。
 今回の核実験は地下で実施された上、爆発規模が非常に小さく、失敗だったのではないかとの指摘もあるとおり、周辺諸国への影響はありませんでした。アメリカ合衆国が北朝鮮地下核実験由来の人工の放射性物質を検出したという報告もありますが、具体的な種類などは明らかにされていません。

<モニタリング強化終了>

  10月24日午後8時43分文部科学省より、10月25日からモニタリング等を通常体制に復する旨の連絡が入り、休日を含めた17日間のモニタリング強化体制は解除されました。
 

   モニタリングの強化やさらにその先の緊急時モニタリング調査体制は通常のモニタリング体制の延長上に立脚しています。神奈川県は県内の原子力関連施設および原子力艦寄港地を有していることから、県民の皆さんの安全を確保するために、通常のモニタリング体制をさらに堅持していく必要があります。

   
衛研ニュース No.118 平成19年2月発行
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