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NO.116

2006年10月発行 神奈川県衛生研究所

神奈川県における食物アレルギーの実態

アレルギー研究プロジェクト 板垣康治

  わが国では人口の3分の1を超える人々が何らかのアレルギー症状を持っていると言われています。また、若年者のアレルギー性疾患が増加していることも大きな問題となっております。厚生労働省の調査(1996~1999年度)によれば、成人では、全体のおよそ9.3%が食物アレルギーに罹患していると報告されています。原因食品も多岐にわたっており、乳幼児期では、卵、牛乳が中心となっていますが、成人では甲殻類が最も多く、さらに魚類、果物などについても発症頻度が高くなっており、食物アレルギーは、決して軽視することができない問題となっています。
   神奈川県衛生研究所では、平成13年から「アレルギーに関する調査研究」を行ってきており、その一環として、平成16年度、小田原市、川崎市、相模原市内の小学校児童、およびその家族(約34,000名)に、食物アレルギーの原因食品、発症頻度、加工食品のアレルゲン性などについてアンケート調査を行ったので(有効回答回収率90.2%、全体の男女比は、およそ1:1)、解析結果の一部を紹介します。

  1. 食物アレルギーの発症率

        何らかのアレルギー症状を経験した人の割合は全体で50.3%であり、自覚症状については、乳幼児期は皮膚症状、学童期以降は目鼻症状が最も多い結果となり、食物アレルギーを経験している人の割合は平均で10.4%でした。学童期から20歳代まで高く、30歳代以降は、わずかではあるが減少する傾向が見られました。(図1)

  2. 年齢別食物アレルギー原因食品
  3.   原因食品としては、乳幼児期では卵がおよそ半数を占め、次に牛乳、魚介類の順に高い傾向が見られました。学童期以降では、全体の中で魚介類の占める割合が高くなり、20歳以上では1位を占めています(表1)。
      また、20、30、40歳代では、果物が原因食品として第3位となっているのも特徴のひとつです。

  4. 魚介類のアレルギー
  5.   魚介類を種類別に詳しく見てみると、エビやカニなどの甲殻類によるアレルギー発症頻度が最も高くなっております(図2)。
       甲殻類では、アナフィラキシー(多臓器の起きるアレルギー反応の総称で、ショック症状により死に至ることもあります)などの重症例の報告もあるため注意が必要です。魚類では、サバが他の魚種と比較して発症頻度が高くなっています。
       その理由として、サバを代表とする赤身魚類(一般的には青身魚と呼ばれています)の魚肉中に多量に蓄積したヒスタミンによって起きるアレルギー様食中毒に起因する症状を、食物アレルギーによるものとして判断しているものも含まれていることが考えられます。

  6. 果物類のアレルギー
  7.   果物については、最も発症頻度が高かったのはキウイでした(図3)。モモ、リンゴ、ナシ、イチゴ、ビワ、サクランボはいずれもバラ科の果物で、シラカバ、ハンノキなどのカバノキ科花粉症と関連、すなわち、カバノキ科花粉症の人はバラ科の果物を食べるとアレルギーを起こす可能性があることが知られています。果物アレルギーは症状が口唇、口内の粘膜、咽喉頭部などに集中して起きる場合が多く、このようなアレルギーは口腔アレルギー症候群(OAS)と呼ばれています。

  8. 加工食品のアレルゲン性
  9.   加工食品のアレルゲン性に関して特に注目すべきことは、魚に対してアレルギーがある人であっても「かまぼこ」や「かつおぶし」などではアレルギーが起きないと答えている人が実におよそ90%もいることです。この原因については、神奈川県衛生研究所においても検討しております。また、果物にアレルギーがある人であっても、果物缶詰ではアレルギーの発症率が低いことも確認されました(表2)。

  10. 食品間での関連性
  11.  食品間での関連性については、さきほどご紹介しましたように、バラ科の果物間で関連性が高かったこと、魚介類でも生物学的に近い種類、すなわちエビとカニ、イカとタコ、貝類間などでの関連性が高い傾向が見られました。たとえば、エビを食べてアレルギーを起こす人はカニを食べてもアレルギーが起きる可能性が高いということが、解析結果からうかがえました。

今後の展開

  今回の実態調査から非常に多くの貴重なデータを得ることができました。調査の結果も踏まえて、今後、神奈川県衛生研究所では、農水産物の低アレルゲン化、食物アレルギーの新たな診断法の確立などについて研究を進めるとともに、平成18年度からは、新規に文部科学省科学研究費助成研究として採択された「アレルゲン性を指標とした食情報のデータベース化と食教育への活用に関する基盤研究」を3年間にわたって推進してまいります。
   本研究では、食物アレルギーの治療に利用できる情報としてだけではなく、乳幼児期や学童期における保健指導に活用することで、食物アレルギーの予防にも役立つデータベースを構築することを目標として展開を図っていく予定です。
衛研ニュース NO.116 2006年10月発行
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